2019年10月号 [Vol.30 No.7] 通巻第346号 201910_346006
観測現場発季節のたより 16 下を向いて歩こう—観測現場の足元で感じる春から夏—
国立環境研究所では、沖縄県波照間島及び北海道根室半島落石岬の2か所に地球環境モニタリングステーションを設置し、温室効果ガスのベースライン濃度(人間活動の直接的な影響を排除した大気濃度)の高精度・自動無人観測を実施し続けてきています。6月には落石岬で、7月には波照間島で、地元の小学生を対象としたエコスクールが開催され、現地を訪れました。
落石岬では春から夏にかけて、毎日のように霧が出ると言われています。私が訪れた際は海の向こうに島影が確認できましたが、そのような日は珍しいと聞き大変驚きました。ステーションの周辺には、根室市の花に指定されているユキワリコザクラが咲き乱れており、遅めの春が続いていました。また足下をよく観察してみると、6〜8月に開花するハクサンチドリやシコタンキンポウゲも見られ、きちんと夏に向けた準備が始まっているようにも思います。ちなみにハクサンチドリは高山植物の一種ですが、落石岬では先述した海からの霧によって気温が上がりにくく、高い山と同じような気候条件になっています。
一方で、梅雨明け後に訪れた波照間島は、強い日差しが照りつけるまさに南国の夏でした。ステーションの建物の上に上がってみると、紫外線量を計測するための機器が設置されているとともに、足下にはごつごつとした石が敷き詰められています。これは建物に降り注ぐ直射日光を遮ることによって暑さを軽減する、島の知恵だとも聞いています。
海に面しているステーション周辺は、夏になると海に幼生を放つオカヤドカリの仲間達でにぎわっています。今回訪れた際は、八重山諸島の固有種である青いしっぽをもつイシガキトカゲも、ステーションの入口で顔を出していました。