2019年12月号 [Vol.30 No.9] 通巻第348号 201912_348003

大気成分長期変動検出ネットワーク(NDACC)運営委員会がつくばで開催され、運営委員会メンバーが国立環境研究所を訪問しました

  • 地球環境研究センター 気候モデリング・解析研究室 主席研究員 中島英彰

2019年10月15日(火)〜18日(金)、大気成分長期変動検出ネットワーク(Network for the Detection of Atmospheric Composition Change: NDACC)の運営委員会がつくば国際会議場で開催されました。NDACCはNASAの主導により1991年に始まった全球的な大気環境モニタリングのための国際組織で、様々な地上観測機器や人工衛星観測を用いて、大気環境の長期変動の様子を全球的にモニタリングするネットワークです(http://www.ndaccdemo.org/)。NDACCには世界各国に70以上の観測拠点があり、160以上の観測装置によって日々大気環境の変動にかかわる大気微量成分やエアロゾル、赤外・可視・紫外放射のモニタリングが行われています。これらの観測点で取られたデータは全世界の研究者に公開され、大気関係の長期変動研究に欠かせないデータセットとなっています。NDACCは観測装置ごとに9つのワーキンググループ(Brewer、Dobson、FTIR、Lidar、Microwave、Sonde、UV、UV/Visible、Satellite)に分かれており、それぞれのグループの代表者数名と、関連する大気観測研究グループ(AERONET:エアロゾル放射観測、MPLNET:ライダー観測、AGAGE:地上ガス観測、NOAA/HATS:地上ガス観測、Pandonia:UV/Visible放射計、TCCON:温室効果ガス衛星検証等地上観測、SHADOZ:赤道・南半球オゾンゾンデ観測 etc.)の代表者や、それぞれの国の代表者を含めた運営委員会(Steering Committee)が構成されています。運営委員会会合は年1回世界のどこかで開催され、直近の1年間のNDACC活動のレビューが報告され、ネットワークとして今後行うべき事項について討論が行われます。日本では1999年に、当時国立環境研究所の所属でNDACC運営委員の一人でもあった中根英昭さんのホストで、札幌と陸別を会場に運営委員会が行われました。今回は日本において2回目となる運営委員会が、つくば国際会議場を主会場として開催されました(写真1)。会議の地元事務局(Local Organizing Committee)としては、NDACC日本代表の水野亮・名古屋大学宇宙地球環境研究所教授、NDACC衛星観測サブグループ共同代表の塩谷雅人・京都大学生存圏研究所教授、そして日本共同代表(予定)の中島英彰が務めました。また、水野研究室の石田秘書が、会議の全般にわたって事務方をサポートしてくれました。

写真1 つくば国際会議場エポカルで開催された、NDACC運営委員会集合写真。台風の影響で、10月16日お昼の時点ではすべての参加者はまだ到着していない

今回の運営委員会は当初10月14日(月)〜18日(金)に開催予定でしたが、台風19号の影響で、参加者の多くが来日する週末の成田・羽田空港到着便がキャンセルとなり、スケジュールの調整を余儀なくされました。会議の開催自体をキャンセルしたほうが良いという意見も出ましたが、運営委員会共同議長や事務方の懸命の調整のおかげで、全体スケジュールを1日半後ろにシフトすることで、火曜日の午後から開催出来ました。それでも、参加予定者の約1/3はフライトの調整がつかず、参加キャンセルとなり、水曜日の午後からの参加となった研究者もいました。しかし、最近実用化が進んできているTV会議システムのおかげで、会場に来られなかった参加予定者も、それぞれの国からリモートで会議やディスカッションに参加できました(写真2)。米国や欧州と日本の時間差を考慮し、米国の人には主に午前、欧州の人には主に午後のセッションでTV会議システムでの発表を依頼したおかげで、それぞれの国や地域での真夜中の時間帯での参加要請は最小限に抑えることが出来ました。このことを含む会議アジェンダの変更や、会議スケジュールの再調整は、運営委員会事務局長(Kathy Thompson)がすべて取り仕切ってくれました。彼女は研究者ではありませんが、NASAやNOAAの主催する多くの国際プロジェクトでこれまで事務局長を務めており、並み居るそうそうたる研究者も彼女の指図には歯向かえない絶対的なリーダーシップを発揮していました。私の知る範囲内では、日本でそのような強力なスタッフを見かけたことはなく、今後は日本で育成していく必要があるのではないかと感じました。

写真2 TV会議システムを用いてリモートで会議に参加して発表を行う米国の研究者(Irina Petropavlovskikh)と、会議のすべてを取り仕切っている事務局長(Kathy Thompson、写真右下の人物)

会議の3日目となる10月17日(木)には、運営委員会参加者に国立環境研究所の地球温暖化研究棟・交流会議室に集まってもらい、日本国内のアクティビティー紹介と、関連研究者との研究交流を行いました。冒頭、渡辺知保国立環境研究所理事長から歓迎の挨拶の後、国立環境研究所、気象研究所、気象庁高層気象台、JAMSTEC、北海道大学、京都大学、名古屋大学の関連研究者から、国内のNDACCと関連の深い研究アクティビティーに関する報告を行ってもらい、情報交換を行いました。出席者の皆さんにとっても、特に気象庁が担当するブリューワやドブソン分光計によるオゾン観測やオゾンゾンデ観測、またJAMSTECやいくつかの大学によるMAX-DOASの研究アクティビティーに関してはあまり知られていないことが多いようで、その内容に関する様々な質疑応答が行われました。このような機会に、日本での大気環境観測アクティビティーをNDACC運営委員のみなさんにPRできたのは、大変有意義であったと思います(写真3)。

写真3 NDACC運営委員会・国内サイエンスセッションに参加した国内研究者と、NDACC運営委員の皆さん。中央は、渡辺知保・国立環境研究所理事長

国内ミーティングがあった日の晩には、運営委員会の夕食会が「つくば山水亭」で開催されました。この会場は、2016年のG7科学技術大臣会合がつくばで開催された際の夕食会でも使われた会場です。参加者の中には、魚介類、キノコ、豆腐や、グルテン(小麦粉)を含んだ食べ物はだめという方もいましたが、さすがG7にも対応した料亭だけあって、スペシャルメニューで対応してもらえました。参加者の皆さんも、日本流のおもてなしと、素晴らしい日本料理の数々に満足されたようです。また、たまたま現在国立環境研究所で研究補助をしていただいている尺八奏者でもある佐々木徹高度技能専門員(元気象庁職員)と、その方の知り合いでつくば在住のお琴の先生(鈴木洋子大師範)に演奏を披露していただき、会議の参加者の皆さんにも大変楽しんでいただくことが出来ました(写真4)。

写真4 つくば山水亭でのNDACC運営委員会バンケットでの集合写真。お琴と尺八の先生とともに

史上最大規模と言われる、近年まれにみる大雨と洪水をもたらした台風19号の被害の最中で今回の会議を何とか開催できたのは、つくばエリアが幸い今回の台風では大きな被害を受けずに済んだことによる運もありましたが、会議直前に参加者間で最新情報共有が出来たことが挙げられます。委員会の参加者の状況は、各自のスマホの情報共有アプリで発信、共有され、来日までのフライトスケジュールの変更状況や、つくばまでの交通情報やバスの運行情報も含めて、皆さんの現状がリアルタイムで参加者間に共有されました。ローマの空港の飛行機の中で数時間以上離陸を待機中の人とか、成田空港のカプセルホテルで1晩過ごした人の写真などには、多くのコメントが返されていました。

NDACC運営委員会自体は10月18日(金)のお昼で終了となりましたが、その日の午後に、日本に残っている運営委員会メンバーとともに、国立環境研究所のFTIR(写真5)・UV計・ライダー施設、その後場所を気象研究所に移して、気象研究所の3種類のライダー、高層気象台のオゾンゾンデ・ドブソン分光計・ブリューワ分光計見学、そして気象測器検定センターの風洞施設での、風速90m/sでの風速計検定の様子見学と、過去の気象観測測器を展示している資料館見学を行いました(写真6)。翌10月19日(土)には、9名の参加者で、稲葉酒造日本酒醸造所見学、筑波山神社見学、筑波山へケーブルカーでエクスカーションに行ってきました。おかげ様で、参加者皆さん大変今回の日本訪問を楽しんでいただけたようです。今回のNDACC運営委員会の日本での開催が、日本の大気環境研究コミュニティーの国際的研究プレゼンスの向上に貢献し、また、今後の日本の関連研究発展に貢献することを期待いたします。

写真5 NDACC運営員会メンバーによる、国立環境研究所内のFTIR見学の様子

写真6 NDACC運営員会メンバーによる、気象庁気象測器検定センター見学の様子

目次: 2019年12月号 [Vol.30 No.9] 通巻第348号

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