RESULT2022年6月号 Vol. 33 No. 3(通巻379号)

最近の研究成果 日本の影響評価で利用される気候予測の幅について考える

  • 林未知也(地球システム領域 地球システムリスク解析研究室 特別研究員)
  • 塩竈秀夫(地球システム領域 地球システムリスク解析研究室長)

温暖化への地域の影響評価および適応研究を効率的に実施するには、多数の全球気候モデルによる将来予測データの性質を代表する少数の気候モデルを適切に選ぶ必要があります。Shiogama et al. (2021)*1は、日本での気温や日射など8種類の気象変数(後述)に関して、複雑な統計手法を開発することで、第6期結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP6)のうち13モデルのなかから将来予測幅を広くとらえられる5つの代表気候モデルを選択しました。石崎(2021)*2は、選ばれたこれらのモデルに関して、日本の陸域で1 km間隔に内挿し統計的に誤差を補正した気候予測データ(気候シナリオ)を作成、公開しました。現在そのデータは日本の多くの影響評価・適応研究において共通気候シナリオとして利用されています。

本研究では、5つの代表気候モデル(ミニアンサンブルとよぶ)による気候予測の特性をまとめるとともに、気候モデル選定手法の有用性を調査しました。以後、ミニアンサンブルを含むCMIP6の19モデルをフルアンサンブルとよびます。過去再現実験と3つの将来シナリオ実験(SSP1-2.6、SSP2-4.5、SSP5-8.5)を用いて、先行研究と同じ8変数(日平均・最高・最低気温、日降水量、日射量、下向き長波放射、地表湿度、地表風速)について1961-2010年と2051-2100年の差(将来変化)を解析しました。ここでは4変数の通年値についての結果のみを紹介します。

まず、フルアンサンブルによる予測幅をミニアンサンブルが系統的な偏りなくカバーしているか確認しました(図1)。日本での日平均気温の上昇傾向だけでなく、日降水量と日射量の増加傾向および地表風速の弱化傾向は、フルアンサンブルの上位から下位まで5モデルにより偏りなくカバーされています。また、日降水量のように日本各地で値が大きく異なる変数があることもわかります。

図1 フルアンサンブルでの平均的な将来変化(SSP2-4.5将来シナリオ)と、ミニアンサンブルの5モデルによる将来変化のフルアンサンブルに対するパーセンタイルランク(3つの将来シナリオ平均)。パーセンタイルランクは、各々のモデルから得られる値のフルアンサンブル19モデルにおける順位を百分率としたもので、日本の陸域を含む格子での平均値は図中に示される。また、統計的に95%以上有意な将来変化にドットを重ねる。将来シナリオおよび季節ごとの結果は論文参照。
図1 フルアンサンブルでの平均的な将来変化(SSP2-4.5将来シナリオ)と、ミニアンサンブルの5モデルによる将来変化のフルアンサンブルに対するパーセンタイルランク(3つの将来シナリオ平均)。パーセンタイルランクは、各々のモデルから得られる値のフルアンサンブル19モデルにおける順位を百分率としたもので、日本の陸域を含む格子での平均値は図中に示される。また、統計的に95%以上有意な将来変化にドットを重ねる。将来シナリオおよび季節ごとの結果は論文参照。

次に、ミニアンサンブルが予測幅を広くカバーする上で、全球気温変化のモデル間の違いが果たす役割を考えました。図2(上段・中段)から、ミニアンサンブルは変数によらずフルアンサンブルでの将来変化の最大・最小幅を広くカバーするのに対して、全球気温変化と相関する成分だけでは日降水量や日射量、地表風速の予測幅をあまりカバーしないことがわかります。全球気温変化と日本での気候変化の関係をみると(図2下段)、日本の気温上昇との比例関係は明らかですが、風速弱化との関係は高排出シナリオ(SSP5-8.5)を除いて統計的に有意ではなく、また日降水量や日射量の増加幅についてはモデルごとのばらつきがより目立ちます。

図2 フルアンサンブルの将来変化の最大・最小幅に対するカバー率(3つの将来シナリオ平均)および将来シナリオごとの全球気温変化と日本気候の将来変化の関係。(上段)ミニアンサンブルは4変数すべての変化幅を広域で50%以上大きくカバーする。(中段)フルアンサンブルでの全球気温変化に相関した成分(全球気温変化に対するフルアンサンブルでの線型回帰から再構築された日本気候の将来変化)によるカバー率は、気温では広域で高いものの、日射量では北太平洋を除いて低く、日降水量と地上風速では日本付近で50%を下回る。将来シナリオおよび季節ごとの結果は論文参照。(下段)各モデルの全球気温変化と日本の陸域を含む格子で平均したそれぞれの変数の将来変化と(ミニアンサンブルはアルファベット併記)、フルアンサンブルでの線型回帰(直線)およびその95%信頼区間(陰影)。
図2 フルアンサンブルの将来変化の最大・最小幅に対するカバー率(3つの将来シナリオ平均)および将来シナリオごとの全球気温変化と日本気候の将来変化の関係。(上段)ミニアンサンブルは4変数すべての変化幅を広域で50%以上大きくカバーする。(中段)フルアンサンブルでの全球気温変化に相関した成分(全球気温変化に対するフルアンサンブルでの線型回帰から再構築された日本気候の将来変化)によるカバー率は、気温では広域で高いものの、日射量では北太平洋を除いて低く、日降水量と地上風速では日本付近で50%を下回る。将来シナリオおよび季節ごとの結果は論文参照。(下段)各モデルの全球気温変化と日本の陸域を含む格子で平均したそれぞれの変数の将来変化と(ミニアンサンブルはアルファベット併記)、フルアンサンブルでの線型回帰(直線)およびその95%信頼区間(陰影)。

したがって、全球気温変化のばらつきのみで代表モデルを選んだ場合、フルアンサンブルの不確実性幅をカバーできる変数は限られており、Shiogama et al.(2021)*1のような複雑な統計手法が必要であることが分かりました。今後、日降水量や日射量のような高い不確実性を伴う日本気候の将来変化のさらなる理解が求められます。また、代表5モデルの共通気候シナリオデータを用いて様々な分野の影響評価研究が現在行われていますが、本研究の成果はそれらの影響評価結果の解釈に役立てられることが期待されます。