RESEARCH2023年1月号 Vol. 33 No. 10(通巻386号)

環境問題のキーワード:つながりを可視化する

  • 横畠徳太(地球システム領域地球システムリスク解析研究室 主幹研究員)
  • 松下大河(地球システム領域地球システムリスク解析研究室 リサーチアシスタント/筑波大学理工情報生命学術院)

1. はじめに

人間活動による温室効果ガスの排出によって、気候変動が進行している。また、大量生産・大量消費によって廃棄物が大量に発生している。そして、開発などの人間活動や気候変動によって、地球規模で生物の多様性が失われつつある。こうした状況から、気候変動を止めるために脱炭素社会への移行が求められている。また、有限な地球の資源を持続可能な形で活用するため、循環経済(サーキュラーエコノミー)を実現することが重要である。さらに、生物多様性を守るため、地域の自然の利用と保護を図りながら、分散自然共生社会への移行を進めることが求められる。

脱炭素社会・循環経済・分散自然共生社会を実現するためには、さまざまな取り組みを行うことが重要である。その際、ある問題に対する取り組みが別の問題の解決にも貢献する(シナジー効果)ことがある一方で、ある問題に対する取り組みが別の問題の解決に対する障害となる(トレードオフ関係)こともある。このため、気候変動・資源循環・生物多様性に関しての全体像を理解し、脱炭素社会・循環経済・分散自然共生社会を実現するための取り組み同士の関係性について把握することが重要である。

そこで私たちは、環境問題に対する取り組みを包括的に記載した文書を活用し、テキストマイニングアプローチ(KH Coder, https://khcoder.net/)を利用することにより、環境問題に関するキーワードをネットワーク図で表現することを試みた。KH Coderでは、テキストにおける頻出語の関連性をネットワーク図の形で表現することが可能である。脱炭素社会・循環経済・分散自然共生社会を実現するための取り組みをネットワーク図で示すことにより、環境問題に対する取り組みを行ううえでのキーワードについて考える。

2. キーワードをネットワーク図で表現する方法

環境問題に対する日本での取り組みを包括的に記載した文書として、環境省重点施策集(https://www.env.go.jp/guide/budget/r04/r04juten-sesakushu.html)・環境省重点施策(https://www.env.go.jp/content/900470742.pdf)を利用する。また、国際的な取り組みを記載した文書として、ここではG7気候・エネルギー・環境大臣会合共同声明(https://www.env.go.jp/content/000039433.pdf)・G7 Science7 Dialogue Forum 2022(https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/division-13.html)を利用する。Science7 Dialogue に関しては、「海洋と雪氷圏」「脱炭素化」「抗ウイルス薬:次のパンデミックに対するさらなる備え」「人獣共通感染症と薬剤耐性に対するワンヘルスアプローチ」の文書を利用した。すべて日本語訳の文章を活用した。

テキストマイニングツールであるKH Coder(https://khcoder.net/tutorial.html)では、共起ネットワーク図(出現パターンの似通った単語、共起の程度が強い単語を線で結んだネットワーク図)を作成することが可能である。出現頻度の高い語を、結びつきの強い言葉と線で繋いで配置されている。以下では頻出語のネットワーク図を示すが、環境問題に直接関わらない用語は頻出語として扱わず、ネットワーク図には示さなかった。

3. 脱炭素・循環経済・分散自然共生社会についてのキーワード

(1)脱炭素社会
環境問題に対する取り組みを包括的に記述した前述の文章(環境省重点施策集、G7気候・エネルギー・環境大臣共同声明、G7 Science7 Dialogue)を利用して、脱炭素社会に向けた取り組みに関するテキストを分析し、キーワードのネットワーク図を作成した結果が図1である。文章でつながりの深い用語ほど線で繋がれ、頻度の大きい単語ほど大きなノードになっている。

図1では「再生可能」「再エネ」「発電」「太陽光」などの脱炭素社会に必要な技術に関する用語の頻度が高く、それが「地域」と密接に結びついている。脱炭素に向けた地域での取り組みが重要であることを意味する。またこれらの用語は「災害」「防災」「レジリエンス」にも関係する。このほか、脱炭素社会のために必要な技術的な用語として「ZEB」「EV」「バイオマス」「アンモニア」に加えて「資金」「民間」「金融」「JCM」などの経済的な用語も重要である。「メタン」「フロン」などの温室効果ガスに対する取り組みも重要だろう。

図1 環境問題に対する取り組みを包括的に記述した文書(環境省重点施策、G7気候・エネルギー環境大臣会合声明、G7 Science7 Dialogue)を用いて、脱炭素社会に関する文書を抜き出し、テキストマイニングアプローチ(KH Coder)を利用して作成したネットワーク図。テキストにおける出現頻度が大きい用語ほど大きいノードで表し、文章で共起する用語が線で繋がれている。色の違いは、暖色系ほど文章の後にくる用語である。
図1 環境問題に対する取り組みを包括的に記述した文書(環境省重点施策、G7気候・エネルギー環境大臣会合声明、G7 Science7 Dialogue)を用いて、脱炭素社会に関する文書を抜き出し、テキストマイニングアプローチ(KH Coder)を利用して作成したネットワーク図。テキストにおける出現頻度が大きい用語ほど大きいノードで表し、文章で共起する用語が線で繋がれている。色の違いは、暖色系ほど文章の後にくる用語である。 画像拡大

(2)循環経済
図1と同様に、循環経済に関連するテキストを分析した結果が図2である。「廃棄物」「プラスチック」「海洋」「汚染」「リサイクル」「浄化槽」「PCB」が頻度の高い用語である。脱炭素社会と同様に「地域」も重要なキーワードである。「食品」「廃棄」などの食料関係の用語も重要である。資源循環が脱炭素社会にも不可欠であることから「脱炭素」「発電」にも関係し「サプライチェーン」「バリューチェーン」「企業」など、経済関係の用語も頻度が高い。「深海鉱業」「海底」「ブルー・オーシャン・ビジョン」など、海洋に関連する用語も重要である。

図2 図1と同様に、環境問題に対する取り組みを包括的に記述した文書を用いて、循環経済に関する文書を抜き出し、テキストマイニングアプローチを利用して作成したネットワーク図。
図2 図1と同様に、環境問題に対する取り組みを包括的に記述した文書を用いて、循環経済に関する文書を抜き出し、テキストマイニングアプローチを利用して作成したネットワーク図。 画像拡大

(3)分散自然共生社会
同様に分散自然共生社会に関して分析した結果が図3である。「生物多様性」「生態系」「海洋」「保全」の出現頻度が高く、「地域」との関連も深い。「NbS (Nature-based Solutions)」「SATOYAMA」「NBSAP (National Biodiversity Strategies and Action Plans)」などの用語が、自然共生社会において重要なキーワードだろう。「感染症」「ウイルス」「ワンヘルス」関係の用語も頻出し「野生鳥獣」「ニホンジカ」「イノシシ」がキーワードとして挙げられている。

図3 図1と同様に、環境問題に対する取り組みを包括的に記述した文書を用いて、循環経済に関する文書を抜き出し、テキストマイニングアプローチを利用して作成したネットワーク図。
図3 図1と同様に、環境問題に対する取り組みを包括的に記述した文書を用いて、循環経済に関する文書を抜き出し、テキストマイニングアプローチを利用して作成したネットワーク図。 画像拡大

4. 脱炭素・循環経済・分散自然共生社会のつながりを可視化する

(1)脱炭素社会と循環経済
脱炭素社会と循環経済に関連するテキストを利用して、それぞれの分野に関連する語、脱炭素社会と循環経済の両方に関連する語をつないだネットワーク図を図4に示す。図4では、用語の間の結びつきを評価せずに「脱炭素社会」「循環経済」に出現する用語をつないでいるため、図1-3よりは多くの用語が出てきている。用語の詳細については後述の「用語解説」を参照されたい。

脱炭素社会と循環経済に共通する用語として非常に頻度の高いのが「地域」「エネルギー」「再エネ」で、地域でのエネルギーに関する取り組みが重要であることを示す。「廃棄物」「発電」「燃料」などが両分野で共通の用語であり、廃棄物を利用した発電などが重要な取り組みになるかもしれない。再生エネルギーにも活用される「鉱物」「蓄電池」などを効率的に活用する「サプライチェーン」「バリューチェーン」などが、脱炭素社会と循環経済にとって重要である。「LED」などの効率性の高い技術を活用することで、消費電力の抑制(=脱炭素社会)と廃棄物の減少(=循環経済)に貢献することができるだろう。

図4 環境問題に対する取り組みを包括的に記述した文書(環境省重点施策、G7気候・エネルギー環境大臣会合声明、G7 Science7 Dialogue)を用いて、脱炭素社会と循環経済に関連するテキストを利用して作成したネットワーク図。脱炭素社会・循環経済のそれぞれの分野に関連する用語を黄色で、両分野に関連する用語を緑で示している。
図4 環境問題に対する取り組みを包括的に記述した文書(環境省重点施策、G7気候・エネルギー環境大臣会合声明、G7 Science7 Dialogue)を用いて、脱炭素社会と循環経済に関連するテキストを利用して作成したネットワーク図。脱炭素社会・循環経済のそれぞれの分野に関連する用語を黄色で、両分野に関連する用語を緑で示している。 画像拡大

(2)脱炭素社会と分散自然共生社会
脱炭素社会と分散自然共生社会に関連するテキストを利用して、それぞれの分野に関連する語、脱炭素社会と分散自然共生社会の両方に関連する語をつないだネットワーク図を図5に示す。循環社会の場合と同じように、脱炭素社会と分散自然共生社会に共通する用語として「地域」の頻度が高く、「生物多様性」「持続可能」「レジリエンス」「生態系」「保全」などの頻度が高い。脱炭素社会に必要な「ネットゼロ」を達成するために分散自然共生社会が重要な役割を果たす。「台風」「災害」などは気候変動によっても被害が甚大になり、生態系にも大きな影響を及ぼす。「NbS (Nature-based solutions)」は、気候変動対策としても重要な役割を果たすだろう。分散自然共生社会における効率的な「エネルギー」の利用は、脱炭素社会の実現にとっても重要だろう。また、太陽光発電などの「再エネ」の導入のために、自然生態系の破壊や景観に影響を与える可能性もある。

図5 図4と同様に、脱炭素社会と分散自然共生社会に関連するテキストを利用して作成したネットワーク図。脱炭素社会・分散自然共生社会のそれぞれの分野に関連する用語を黄色で、両分野に関連する用語を緑で示している。
図5 図4と同様に、脱炭素社会と分散自然共生社会に関連するテキストを利用して作成したネットワーク図。脱炭素社会・分散自然共生社会のそれぞれの分野に関連する用語を黄色で、両分野に関連する用語を緑で示している。 画像拡大

(3)循環経済と分散自然共生社会
循環経済と分散自然共生社会に関連するテキストを利用して、それぞれの分野に関連する語、循環経済と分散自然共生社会の両方に関連する語をつないだネットワーク図を図6に示す。図4・5の場合と同じように「地域」「廃棄物」「生物多様性」「持続可能」「生態系」「海洋」「レジリエンス」などの用語が、両分野のキーワードとして登場する。図6においても「脱炭素」「カーボンニュートラル」も両分野に共通するキーワードであり、脱炭素社会の実現に循環経済と分散自然共生社会が重要であることがわかる。「ネイチャーポジティブ」など自然を活用した対策が循環経済にとっても重要なキーワードになる。

図6 図4と同様に、循環経済と分散自然共生社会に関連するテキストを利用して作成したネットワーク図。循環経済・分散自然共生社会のそれぞれの分野に関連する用語を黄色で、両分野に関連する用語を緑で示している。
図6 図4と同様に、循環経済と分散自然共生社会に関連するテキストを利用して作成したネットワーク図。循環経済・分散自然共生社会のそれぞれの分野に関連する用語を黄色で、両分野に関連する用語を緑で示している。 画像拡大

5. おわりに

この記事では、環境問題に対する取り組みを包括的に記述する文書(環境省とG7)を活用することにより、脱炭素社会・循環経済・分散自然共生社会に向かうための取り組みにおけるキーワードを分析した。テキストマイニングアプローチを活用することにより、重要な用語のつながり、環境問題に対する取り組みの間のつながりについて考察した。より多くの文書を活用することにより、重要なキーワードを、さらに網羅的に得ることができるだろう。さまざまなキーワードの意味を知り(「用語解説用語解説」参照)、つながっていないように見える言葉のつながりを考えることで、環境問題に対する新たなアプローチや、環境問題に貢献するための研究課題が見つかるかもしれない。