CDM・吸収源プロジェクトの基礎知識日本の取り組み
炭化を組み入れた持続的生産可能なCO2固定植林事業の可能性調査

(実施者:関西総合環境センター)

 平成11-12年度、マレーシアにおいて、持続的な木材生産とCO2固定化を可能にする植林事業をCDMプロジェクトの一つとして実施するため、予定地と実施条件について調査が行われました。
  具体的には、熱帯荒廃地において在来種による天然林の再生を図りつつ、早成樹の産業植林を行ってパルプや用材等を生産します。さらに、この植林地や農地から生産される廃材、樹皮、廃棄物等を炭化します。これを土壌改良に用いて農業生産力を高めたり、水質浄化用及び燃料としても利用することによって地域産業を活性化させることも目指しています。

(1)対象地域
 マレーシア連邦サラワク州のシミラジャウ・ビンツール地区及びラジャン地区です。シミラジャウ・ビンツール地区は沿岸部低地、ラジャン地区は内陸部山岳地帯です。

(2)主な調査項目植林事業の可能性調査

  • 炭化事業の可能性調査
  • 植林対象地とその周辺部の環境調査(自然、社会、経済)
  • 植林への炭の適用及び天然林再生技術の可能性調査
  • CO2排出削減対策の受け入れ環境:政府(州、連邦)の政策、民間の動向

(3)調査結果

  • ベースライン値及び植林木成長量の推定
      択伐林と焼畑二次林を対象に複数の調査区を設定して、生態学的手法による実測及び既存の研究成果を利用して現存量と成長量が推定されました。
      択伐林については現存量約99-125t/ha、定期平均成長量3.05t/haと算出されています。焼畑二次林については、現存量が5年生で32t/ha、32年生で99t/ha、定期平均成長量は12年生までが6.0t/ha、13年生以上が1.13t/haというベースライン値が算出されています。
  • 事業の収益性
      アカシア-マンギウム植林木の実測データをもとに、平均成長量を20m3/haと算出して林分収穫量が予測されました。また、植林事業に関わる全コストを調査し、経済性の前提条件を設定して、12年伐期で36年間の採算性が試算されました。この結果、内部収益率は9.27%となっています。
  • CDM事業に対する現地側の対応
      州政府によってCDM事業への対応が異なっており、土地利用の需要が高い半島マレーシアでは消極的ですが、サラワク州では好意的でした。現地の民間企業は、CO2排出削減を新たなビジネスチャンスとしてとらえていて、非常に積極的です。
  • 事業による炭素収支
      炭素収支を試算した結果は次のとおりです。
    1. 植林地区に現存する択伐林及び焼畑二次林を一旦皆伐することによって約180万tの炭素排出が生じる。
    2. 本植林事業がないと仮定した場合のベースラインについて、上記現存林の成長による炭素吸収量は植林-伐採サイクル期間で毎年約4万t。
    3. 1. 2.より、用材部分の一部炭素固定及び当該事業が無い場合の焼畑活動の拡大を想定しても、植林-伐採サイクルの炭素収支は最初の約50年間では排出となる。
    4. 不確定要因(植林事業の炭素収支算定方法に関する詳細ルールの行方、焼畑活動のベースライン推定への反映など)が本事業全体の炭素収支計算に大きな影響を与える。
    5. 炭化による炭生産は、まだ生産量が少ないものの、評価が確実であるために必ず蓄積するといえる。
  • 事業の効果と評価
      カウンターパートのタアン社やサラワク州政府の姿勢から、実現可能性及び持続可能性はあるといえます。ただし、CO2排出権ルールが不明確であることから資金の組み立てが容易でないため、状況に応じて可能な部分から着手することが望ましいと思われます。本事業の周辺地域への影響として、焼畑の拡大による土地需要への制限や野生動物減少の加速化の可能性が挙げられます。植林事業と炭化事業を組み合わせることによって、ゼロエミッション型またはバイオマス利用型の事業となり、温室効果ガス削減だけでなく広範な経済的波及効果が期待できます。