2012年3月号 [Vol.22 No.12] 通巻第256号 201203_256004

地球観測連携拠点(温暖化分野)平成23年度ワークショップ「観測データが語る気候変動」—長期観測データの取得・発掘・保存—開催報告

地球温暖化観測推進事務局/環境省・気象庁
地球環境研究センター 高度技能専門員 会田久仁子

1. はじめに

「地球観測連携拠点(温暖化分野)」(以下、連携拠点[1])の事務局である、地球温暖化観測推進事務局(Office for Coordination of Climate Change Observation: OCCCO)では、平成19年度より毎年、研究者から一般の方までを対象とする、地球温暖化観測に関する連携拠点ワークショップを開催しています[2]。平成23年度は、「長期観測データの取得・発掘・保存」(副題)をテーマに、気象、海洋、極域分野における取組や課題、長期観測データによって得られた気候変動に関する最新の研究成果を紹介するワークショップを、平成23年12月2日(金)に東京で開催しました。以下、概要について報告します。

2. ワークショップ概要

冒頭、環境省・気象庁を代表して、気象庁の佐々木秀行地球環境・海洋部長(倉賀野連地球温暖化対策調整官代読)より開会の挨拶がありました。続いて、気象庁気象研究所の藤部文昭氏より基調講演「長期観測データから見た日本の気候変動と異常気象」がありました。藤部氏は、気象庁の全国各地の気象観測データの解析より、過去100年間で日本の平均気温が約1.1度上昇したこと、強い雨が増え、弱い雨が減る傾向にあることなどを報告しました。また、気候変動を調べる際は、地球温暖化と都市化(ヒートアイランド現象)の影響を分けて考える必要があること、データの均質性が途切れぬように、観測履歴に関する情報(メタデータ[3])を残し、整備、共有化することの重要性を強調しました。

次に、4名の専門家による講演がありました。水産総合研究センター中央水産研究所の杉崎宏哉氏は、日本周辺外洋域で1950年代より採集されてきた、同センター東北水産研究所の動物プランクトン標本群「オダテコレクション」の解析より、動物プランクトンの種組成や分布等に、気候変動と密接に関係する変動が見つかった例を紹介しました。動物プランクトンは鉛直移動により海洋深層へ炭素(有機物)を輸送するため、地球上の炭素循環を考える上でも、海洋環境のモニタリング継続が必要であると訴えました。

海上保安庁の寄高博行氏は、水温・塩分等の海洋観測データの代表的アーカイブである国際海洋データベース(World Ocean Database: WOD)と、日本海洋データセンター(Japan Oceanographic Data Center: JODC、1965年設置)について講演しました。JODCは国内の海洋観測機関が収集した海洋データをWODへ提供する一方、紙ベースの古い海洋データの発掘救済(デジタル化)を行うなど、気候変動研究へ貢献してきたことを紹介しました。最後に、2010年よりメタデータを収集・管理・提供する「海洋情報クリアリングハウス」に触れ、海洋分野においても誤差評価等でメタデータが重要となる点を強調しました。

国立極地研究所の榎本浩之氏は、南極・北極における長期観測と気候変動について講演しました。過酷な環境の下、南極・昭和基地では50年以上気象・雪氷観測が継続され、内陸無人気象ステーション群や人工衛星データ等広域観測との比較により、温暖化による雪氷量の変動とそのメカニズムが明らかになりつつあることを報告しました。一方、北極域では、人工衛星により海氷面積の顕著な減少が観測されたものの、原因究明には海氷の厚さ等の現場観測が必要であること、温室効果ガスの観測データは北極圏でも蓄積しつつあること、2011年にオゾンホールが初めて確認されたことを紹介しました。日本の北極観測はこれまで個別観測が主でしたが、2011年の「北極環境研究コンソーシアム」設置や北極域データアーカイブの構築開始に伴い、より組織的・効果的な研究の推進が期待されると締めくくりました。

気象庁の原田やよい氏は、気象庁が取り組む気象データの長期再解析について講演しました。長期再解析とは、過去の観測データを最新の「気象庁数値解析予報システム」へ入力し、長期にわたり一貫した品質をもつ地球大気・地表面の “気候再現データセット” を作成することであり、長期再解析データによって過去数十年にわたる地球大気に関する調査・研究が盛んになり、地球大気変動の実態が明らかになりつつあることを紹介しました。気象庁では、第一次長期再解析(JRA-25、1979年〜2004年対象)および同解析を準リアルタイムで継続する気候データ同化システム(JCDAS)の各データを現在公開中で、さらに第二次長期再解析(JRA-55、1958年〜2012年対象)データを2013年に公開予定とのことです。

photo. ワークショップ

ワークショップの様子

連携拠点ワークショップでは、長期継続観測を目指した機関間・分野間の連携の在り方に関する総合討論を毎年行ってきました。今回は、観測データの取得・発掘・保存の次に、活用、すなわちデータの共有と利用促進が重要となることから、アーカイブ体制の構築をテーマに講演者と参加者の皆様にご討論いただき、以下のようなご意見をいただきました。まず、講演でも強調されたように、長期観測データの解析では付随情報であるメタデータが非常に重要となります。アーカイブ構築に向けて、メタデータのフォーマットの統一も必要ですが、ハードルを高くし過ぎるとデータ提供が滞る可能性が出てくるなど問題もあります。また、標本のデータ化やメタデータの作成を行う人材育成も喫緊の課題です。一方、観測データの品質向上に向けて、観測の基準作りや観測機器の相互比較等も重要です。地球観測を行う研究者とモデル開発を行う研究者がデータの内容についてよく話し合い、モデルによる観測データの再現性を向上させることが大切です。

これまでのワークショップでは、総合討論の内容を提言にまとめて文部科学省の地球観測推進部会へ提出し、毎年度の「我が国における地球観測の実施方針」に盛り込まれることで、連携に関する施策に反映させてきました。平成23年度もワークショップの取りまとめを作成し、次年度の実施方針に向けて提言したいと考えています。

3. おわりに

ワークショップ当日は、行政・教育・研究機関の関係者、企業ならびに一般より約140名の参加がありました。地球温暖化分野の長期観測データそのものの重要性に焦点を当てた今回のテーマは、一般の方々にどれほど興味をもっていただけるか、少し心配ではありました。しかし、会場で行ったアンケートでは、さまざまな観点からたくさんの貴重なご意見をいただき、地球温暖化に対する皆様の関心の高さをあらためて確認することができました。

最後になりましたが、ワークショップ開催にあたり、多くの方々にご支援とご協力を賜りました。この場をお借りして、篤く御礼申し上げます。今後も連携拠点へのご支援をよろしくお願いいたします。

fig. ポスター画像

ワークショップのポスター画像より

脚注

  1. 平成16年に総合科学技術会議が策定した「地球観測の推進戦略」に基づき、地球温暖化対策に必要な地球観測を統合的・効率的に実施するために環境省と気象庁が平成18年に共同で設置。
  2. 過去に開催した連携拠点ワークショップの情報をOCCCOのホームページに掲載しています。 http://occco.nies.go.jp/activity/event.html
  3. メタデータとは、データに関する情報を記載した “データのデータ” のこと。ここでは、観測データの履歴情報(例:いつ、どこで、誰が、どのような測器・評価方法等を用いて、どのような精度・形式等のデータを取得したか)を指す。

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