2014年2月号 [Vol.24 No.11] 通巻第279号 201402_279008

IPCC公開シンポジウム「地球温暖化問題について考えよう! 最新の科学と温室効果ガス排出量監視の取りくみ」およびIPCC専門家会合の参加報告

  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 酒井広平

1. はじめに

2013年12月11日(水)から13日(金)までの三日間、札幌市内において、気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change:以下、IPCC)専門家会合「2006年IPCCガイドラインと関連ソフトウェアを利用した温室効果ガスインベントリ作成の改善」(IPCC Expert Meeting: Improving National Greenhouse Gas Inventories Using the 2006 IPCC Guidelines and Related Tools)が開催された。また、その前日の10日(火)には一般市民を対象としたIPCC 公開シンポジウム「地球温暖化問題について考えよう! 最新の科学と温室効果ガス排出量監視の取りくみ」が開催され、筆者も講演者の一人として参加した。ここではこのシンポジウムと専門家会合の参加報告を行う。

2. 公開シンポジウム

まず、札幌市内で行われた10日の一般市民向けの公開シンポジウムであるが、これは主催がIPCC、共催が環境省、北海道大学等であり、運営事務局はIPCCインベントリタスクフォース・技術支援ユニット(Technical Support Unit, Task Force on National Greenhouse Gas Inventory, IPCC:以下、IPCC TFI-TSU)が担っていた。講演は7題目あり、前半は2013年9月に発表されたIPCC第5次評価報告書第1作業部会、後半は温室効果ガスインベントリに関連した講演であった。講演の傍聴者は約100人であった。また、海外からの講演者も含まれていたため、日英の同時通訳でおこなわれた。

最初にIPCCインベントリタスクフォース共同議長のテルマ・クルーグ氏から「気候変動とIPCC」についての講演があった。続いて、東京大学の木本昌秀教授による講演「IPCC第5次評価報告書 第1作業部会」があり、「猛暑と言われた今年(2013年)の夏は平年より平均で1.1°C気温が高いだけであり、同じく猛暑の2010年夏も平年より1.6°C高いだけである。世界全体での平均気温2°C上昇とは相当気温が上がることを意味する」といった説明もあった。

北海道大学の山中康裕教授の「気候変動と北海道」という講演では、「札幌で日々の気温が単純に3°C上昇すると冬(冬日)が1か月半短くなり、夏(夏日)が1か月半長くなる。これまで札幌でほとんどみられない、猛暑日も出現することになる」「札幌の降雪は単純に雪が減るという話にはならず、11月の雪は雨に変わるため減るが、2月の雪はパウダースノーが減り、湿った重たい大雪になる」といった北海道民にとって身近でわかりやすい説明があった。筆者自身も学生時代に札幌に住んでいたことがあるため、当時を思い出しながら、共感できるものであった。なお、地球環境研究センターニュース2011年6月号では三枝信子副センター長(当時室長)が山中教授にインタビューをしている記事が掲載されているのでこちらも参考されたい。

休憩後、後半の話題に移り、IPCCインベントリータスクフォースビューロー・メンバーのジム・ペンマン氏からは「気候変動問題への対処のための国際的な取り組み」という題目で、「気候変動枠組条約(UNFCCC)」「COP」「京都議定書」をキーワードとした国際交渉の講演があった。IPCC TFI-TSUのナリン・スリバスターバ氏、田辺清人氏からは温室効果ガスインベントリやそのガイドライン、IPCC TFI-TSUの役割などが紹介された。

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IPCC公開シンポジウム ジム・ペンマン氏の発表(英語原文の発表資料が和訳されて映し出されている)

プログラム中、最後の演者であった筆者は「日本の温室効果ガスインベントリと関連活動」という題目で、「わが国の温室効果ガス排出量」「京都議定書の達成状況」「温室効果ガス排出量の算定方法」について講演させていただいた(関連記事:小坂尚史, 酒井広平「京都議定書第一約束期間終了 〜基準年比6%削減の目標は達成の見込み〜」地球環境研究センターニュース2014年1月号)。加えて北海道の排出量の特徴についても触れ、「GIOが算定しているわが国の温室効果ガス排出量とは別に北海道は独自に排出量を算定している。北海道の特徴は農業由来の排出量が大きいことである。全国では、排出量の約2%が農業由来であることに対して、北海道は約10%を占める。例えば、全国の乳牛の約60%(およそ100万頭)が北海道で飼われていることなどが影響している」といった話もさせていただいた。

また、講演後の質疑応答セッションでは一般的だが鋭い疑問から専門的な質問まで出され、参加者も関心もさまざまであることがうかがえるものであった。

なお、この公開シンポジウムの様子と発表資料はIPCC TFI-TSUの所属する公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)のウェブサイト[1]でも掲載されている。

3. 専門家会合

UNFCCCの附属書I国(いわゆる先進国)は2013年以降(京都議定書の第二約束期間)の排出量の算定では、2006年IPCCガイドラインを使用することとなる。一方、非附属書I国(いわゆる途上国)の排出量の算定では従来の方法[2]を用いて算定することとなっている(ただし、2006年IPCCガイドラインを用いてもよい)。より新しい知見が含まれているため、2006年IPCCガイドラインを使用する国は少なからず存在する。2006年IPCCガイドラインソフトウェアは、主にUNFCCC非附属書Ⅰ締約国での使用に供することを目的としてIPCC TFI-TSUにより開発され、ガイドラインに記載された基礎的な算定方法を用いる際に有効なものとなっている。

IPCC専門家会合(12月11日〜13日)は札幌市内の北海道大学大学院地球環境科学研究院において行われた。2006年IPCCガイドラインソフトウェアは上述のとおり、主な対象国が非附属書I国であるため、アジア、中南米、アフリカといった国からの参加者が多く、主催者であるIPCC TFI-TSUを除くと会合の参加者は約30人であった。

一日目は会場となった北海道大学の紹介ののち、農学研究院の波多野隆介教授による「土壌からの温室効果ガス排出量の測定と排出係数の開発」についての特別講義が行われた。その後、IPCC TSU-TFIにより、データ収集、品質管理/品質保証(QA/QC)、不確実性、キーカテゴリー分析などの講義が行われた。

二日目は、AFOLU分野(農業、森林およびその他の土地利用分野)とそれ以外の分野(エネルギー、工業プロセス、廃棄物)に分かれて、IPCC TFI-TSUによる2006年IPCCガイドラインソフトウェアの講義が行われた。続いて、実際にデータをソフトウェアに入力する(ここではダミーデータを用いて)作業も課された。筆者が参加したAFOLU分野では家畜データ、土地利用の情報を入力した。温室効果ガスインベントリでは、算定するカテゴリによっては「排出量 = 活動量 × 排出係数」といった簡単な計算ではなく、さまざまなパラメータの選択が必要になるため、入力パラメータの選択で戸惑う参加者もみられた。しかし、実際に自国でインベントリを作成・使用する場合、これらの選択は必要な作業であるため、多くの参加者が熱心に取り組んでいた。

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専門家会合で2006年IPCCガイドラインソフトウェアを利用する参加者たち

三日目は1組5人程度のチームを構成し、前日に入力したダミーデータを用いて、仮想国の国別報告書(National Communication)を作成するという想定の下、仮想国の基礎情報、温室効果ガス排出・吸収量の状況、排出量削減行動について発表資料を作成し、代表者が発表するというワークショップが行われた。

最後に、三日間の締めくくりとして、当会合に関するヒアリングアンケートが行われた。概ね「役に立った」とのコメントが寄せられており、専門家会合が参加者にとって今後の温室効果ガスインベントリや国別報告書の作成に有用な経験となったと思われる。

4. おわりに

2014年はIPCC第5次評価報告書の第2作業部会および第3作業部会の結果、統合報告書が順次発表される年であり、注目が集まることが予想される。また、温室効果ガスインベントリについて、附属書I国は京都議定書第一約束期間最後の年(2012年)の報告書を提出したのち、第二約束期間以降の算定へと移行する節目の年である。非附属書I国も年末に隔年更新報告書(BUR)の提出を控えているため、GIOが環境省とともに主催する「アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ(WGIA)」(http://www-gio.nies.go.jp/wgia/wgiaindex-j.html)などとも関連して、今後の各国の動向に注目していきたい。

脚注

  1. IGES ウェブサイト 活動報告「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)公開シンポジウム」http://www.iges.or.jp/jp/alliges/20131210.html
  2. 従来の方法:第一約束期間の算定方法。1996年改訂IPCCガイドライン、2000年のグッドプラクティスガイダンス(GPG (2000))、2003年の土地利用、土地利用変化及び林業に関するグッドプラクティスガイダンス(GPG-LULUCF)を用いて算定を行う。

目次:2014年2月号 [Vol.24 No.11] 通巻第279号

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