2018年5月号 [Vol.29 No.2] 通巻第329号 201805_329007

最近の研究成果 マッデン・ジュリアン振動の東方伝播に対する浅い対流の役割

  • 地球環境研究センター 気候モデリング・解析研究室 特別研究員 廣田渚郎

マッデン・ジュリアン振動(Madden Julian Oscillation: MJO)とは、数千kmスケールの巨大雲群が5m/s程度の速度で熱帯のインド洋から太平洋を東進する大気変動である。熱帯では、雲群が通過している対流活発期と雲群が存在しない不活発期が繰り返され、その影響は日本の天候にも及ぶ。しかし、その発達・東進メカニズムの理解は十分ではないため、気候モデル[1]によるMJO再現はとても難しいことが知られている。本研究は、新しく開発された気候モデルMIROC6において、MJOの東進再現が改善されたことを示した。図は対流シグナルを表す外向き長波放射[2]の赤道付近における経度位相[3]断面図で、時間は上から下に進んでいる。観測データにおいて、MJO雲群(青色)がインド洋(60°E)から太平洋を東進する様子が見られる。この東進が、旧バージョンMIROC5では180°E付近で途切れているが、MIROC6では東太平洋まで伝播する。この改善における重要なポイントは、新たに導入した浅い対流による水蒸気プロセスが、MJO対流に水蒸気を供給したことである。

MJOに伴う外向き長波放射(色; W/m2)と高度3000m付近の東西風(m/s)の経度-位相合成図(15°S–15°N)。(a) 観測、(b) MIROC5、(c) MIROC6

脚注

  1. 気候モデル: 大気海洋などの気候を物理法則に従ってコンピューターでシミュレーションするための仮想的な地球。
  2. 外向き長波放射: 地球から宇宙に射出される長波放射。対流が活発で雲が多い場合、宇宙への長波放射は雲から射出されるので、雲がない地表からの射出される場合に比べて小さくなる。
  3. 位相: 東進するMJO対流が存在する位置で定義される。位相1から8で、MJO対流はインド洋から、太平洋、大西洋へと地球を一周する。

本研究の論文情報

Roles of shallow convective moistening in the eastward propagation of the Madden-Julian Oscillation
著者: Hirota N., Ogura T., Tatebe H., Shiogama H., Kimoto M., Watanabe M.
掲載誌: J. Climate, 31, 3033–3047, DOI: 10.1175/JCLI-D-17-0246.1.

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