2019年4月号 [Vol.30 No.1] 通巻第340号 201904_340004

新刊図書・雑誌 UNEP Report “Air Pollution in Asia and the Pacific: Science-based Solutions”

  • 地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室 主任研究員 田中克政
  • 地球環境戦略研究機関 リサーチリーダー Eric Zusman

田中が第1章セクション3「Air quality and climate」のリードオーサーを、Zusmanが第3章「Closing the Implementation Gap: Bringing Clean Air to the Region」のコーディネイティングリードオーサー務めたUNEP報告書 “Air Pollution in Asia and the Pacific: Science-based Solutions” が公表されました。

http://www.ccacoalition.org/en/resources/air-pollution-asia-and-pacific-science-based-solutions

アジア・太平洋地域における大気汚染の科学的解決策

世界の人口の約92%が、現在、世界保健機関(WHO)が定める大気質指針値を上回るレベルの大気汚染にさらされています。国連環境計画(UNEP)、アジア太平洋クリーン・エア・パートナーシップ(APCAP)、気候と大気浄化の国際パートナーシップ(CCAC)のもとで、日本とアジアの研究機関からの研究者を含む100名以上が参加し、アジア・太平洋地域における大気汚染問題への対処方法について、政策担当者に提案するためのレポートの作成にあたりました。232ページに及ぶ本レポート「アジア・太平洋地域における大気汚染の科学的解決策」は、2019年1月に公表されました。

本レポートは3つの章で構成されています。第1章は、PM2.5や地上オゾンなどの大気汚染やそれと人の健康影響、気候変動、農業、生態系、持続可能な開発目標(SDGs)などとの関係、アジア・太平洋地域の大気汚染に関する科学的な情報を提供しています。セクション3「大気質と気候」では、大気質と気候変動との関連について解説しています。また、第1章の「なぜアジア・太平洋地域の大気汚染に対処するために行動が必要なのか」という検討から、第2章のモデルシナリオによる解決策の提案へと展開していきます。第2章では、国際応用システム分析研究所(IIASA・オーストリア)で開発された大気汚染に関する統合アセスメントモデル(GAINSモデル)などを用いて定量的な分析を行い、大気汚染を防止する25の方策(図参照)を提案しました。これらは、長期的には比較的低い社会的コストで、SDGsのほかの目標達成とともに、2030年までにアジアに住む10億人がWHOの基準を満たす大気を享受することを可能にするものです。25の方策のなかには、アジア・太平洋地域の多くの地域で従来から進められているものもありますが、発電所における排出削減制御や自動車の排ガス規制など、さらに強化していく必要がある取り組みも含まれています。また、この地域のほとんどで現時点では大気汚染防止策に含まれていないものや、国あるいは国際的な基準に従った大気質レベルへ改善するための次の段階の方策も提案しています。たとえば、森林火災や泥炭地火災、国際輸送、窒素肥料の投入への方策です。さらに、開発を優先的な目的としつつ、大気環境の改善につながる手法として、汚染物質を排出しない調理方法や暖房、再生可能エネルギーによる発電の促進なども含まれています。最終の第3章では、25の方策がアジア・太平洋地域でこれまでどのように実施されてきたかというケーススタディを紹介しています。そのなかで、この方策を実施することは簡単ではなく成果が約束されたものでもないことが強調されています。25の方策の実施にあたっては、現行の政策にコンプライアンスを導入し、優先的なセクターへ資金調達ができ、さまざまなステークホルダーや機関が協働して、政策決定のいろいろな段階で取り組む必要があるため、政府系機関が果たす役割は大きくなっていくでしょう。

大気汚染を防止する25の方策(9つのカテゴリーに分けて提案している)

英語版も掲載しています。
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