CGERリポート

CGER’S SUPERCOMPUTER MONOGRAPH REPORT Vol.17

Atmospheric Motion and Air Quality in East Asia

UEDA H.

気象モデル駆動の化学輸送モデルCTMは、大気環境の理解を飛躍的に促進し、その中での輸送、拡散、化学、沈着など素過程の解明に役立ってきました。酸性雨研究センター(現、アジア大気汚染研究センター)では、東アジア酸性雨モニタリングネットワークEANETデータの解析、大気環境の全体像の把握と、リジョナル大気環境の総合的、効率的な管理を目的に、CTMの開発とモデル間比較研究プロジェクトMICS-Asia IIを実施してきました。

本モノグラフは、東アジアの大気運動と大気特性について、気象モデル、CTMによる研究成果と、環境中の物理素過程に関する成果をまとめたものです。

MICS-Asia IIプロジェクトでは、参加9モデルについて、EANETデータを参照しながら、東アジアの春、夏、冬の降水量を含めた気象要素と、大気汚染物質(SOx、NOx、サルフェート、ナイトレート、オゾン)の濃度、乾性、湿性沈着量についてのモデル間比較を行い、成果の概要を第1章にしめしました。詳細は、Atmospheric Environment誌の特集号(Vol.42, 2008. ISSN1352-2310)を参照されたい。さらに、東アジアの大気質の特性として、黄砂、火山噴煙を第2、3章でとりあげ、東アジアの気象、大気運動を特徴付けるチベット高原の影響を第4章で検討しました。

黄砂については、その飛散、輸送、拡散、沈着が、輸送中の粒子径分布の変化を含めてCTMでよく再現されました。火山については、噴煙中の硫黄酸化物が環境酸性化をもたらすばかりでなく、生成された硫酸がエアロゾルを極端に酸性化し、その際エアロゾルから追い出された硝酸、塩酸ガスが大量に地面に沈着して二次環境酸性化を引き起こすこと、東アジアではこのまま汚染物質の排出増加が続けば、深刻な一次、二次環境酸性化が起こることをしめしました。また、地球の尾根、チベットが地球回転、密度成層効果により、その背後南西部に低気圧性の巨大な渦を生成することを示し、これが移動性低気圧としてチベットを離れて東進する条件を理論的に記述できました。

物理素過程の研究成果として、第5、6章で乱流拡散、第7章では大気海洋相互作用を取り上げました。乱流拡散に関する研究では、まず、大気境界層内での乱流拡散について、東アジアの気象場、大気汚染の再現性のモデル間比較を行い、長所、短所を含めたモデル特性をしめしました。つぎに、大気境界層より上空、上部対流圏、下部成層圏について、MUレーダ、RASSを用いて運動量の拡散係数、熱・物質の拡散係数の直接測定を行うとともに、それらの挙動を従来の成層乱流モデル、特に我々の代数型乱流ストレスモデルでよく再現できることを示し、さらにこの気層では乱流の挙動は大気境界層下部の接地気層と相似の機構であることをしめしました。大気海洋相互作用については、大気への運動量、熱、物質(水蒸気、汚染物質)輸送について直接数値シミュレーションDNSを行い、海面波(風波)の波速と摩擦速度の比の大小により、大気側に形成される波動成分、乱流成分の構造がそれぞれ本質的に異なることを見出し、それぞれの構造の相違を詳細に示しました。風波の発達についても、種々提案されているモデル、経験式の統一的な解釈をしめしました。

図1 各季節地表月平均のサルフェート総(乾性 + 湿性沈着)沈着量のモデル間平均の分布
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図2 各季節地表月平均のオゾン濃度のモデル間平均の分布
図3 位相平均の流線と圧力の分布
実線:臨界層の高さ(但し、図(a), (f)を除く)
図(a), (b), (c), (d), (e), (f)において、c/uは 0, 2, 4, 8, 16, 20、ここで、c:波速、u:摩擦速度
図4 乱流拡散係数の安定度依存性 (a) Kh/Km、(b) Km/Kmo(○:δ = 2000 m、△:δ = 4000 m)
図(a), (b)中の実線:式(6.32), 式(6.33)