2012年5月号 [Vol.23 No.2] 通巻第258号 201205_258004

第5回GEOSSアジア太平洋シンポジウム参加報告

  • 地球環境研究センター 陸域モニタリング推進室 高度技能専門員 林真智
  • 地球環境研究センター 陸域モニタリング推進室長 三枝信子
  • 地球環境研究センター 主席研究員 山形与志樹

1. はじめに

複数システムからなる全球地球観測システム(Global Earth Observation System of Systems: GEOSS)は、衛星観測や地上観測といった複数の観測システムを連携した包括的な地球観測システムのことで、政策立案者などの幅広いユーザがさまざまな問題に対応する際の支援ツールを提供することを目指している。GEOSSの構築を推進するため、2005年の第3回地球観測サミットにおいてGEOSS10年実施計画(2005〜2015年)が採択され、その作業部会として地球観測に関する政府間会合(Group on Earth Observations: GEO)が設立された。GEOには、現在、88カ国と欧州委員会および64の国際機関が参加している。2007年からは、アジア太平洋(Asia Pacific: AP)地域でのGEOSS推進に向けた意見交換を目的として、GEOSS APシンポジウムが開催されている。その第1回は2007年1月(地球環境研究センターニュース2007年4月号参照)、第2回は2008年4月(同2008年7月号参照)、第3回は2009年2月(同2009年4月号参照)、第4回は2010年3月(同2010年6月号参照)に開催された。

2. シンポジウムの概要

第5回となる今年は、2012年4月2日〜4日の3日間、東京の日本科学未来館で「アジア太平洋地域におけるグリーン成長に向けたGEOのイニシアチブ」のテーマの下で開催され、21カ国と四つの国際機関から283名が参加した。プログラム等は以下のURLに公開されている:http://www.geoss-ap-symposium.org/index_j.html。1日目は、日本からの基調講演の後、各参加国・機関におけるGEOSS構築に向けた取り組みについて報告された。2日目は、五つの分科会「アジア水循環イニシアチブ(Asian Water Cycle Initiative: AWCI)」「アジア太平洋生物多様性観測ネットワーク(Asia-Pacific Biodiversity Observation Network: AP-BON)」「森林炭素トラッキング(Forest Carbon Tracking: FCT)」「海洋観測と社会」「農業と食料安全保障」に分かれ、テーマごとに集中的な議論が行われた。3日目は、各分科会での議論の結果を受けてGEOSS構築に向けた課題についてパネルディスカッションが行われ、最後に本シンポジウムの成果を取りまとめた提言として東京宣言(Tokyo Statement)が採択された。東京宣言は、グリーン成長に対する地球観測の重要性を確認する内容で、以下のURLに全文が公開されている:​http://www.restec.or.jp/?p=15271

3. 森林炭素トラッキング(FCT)分科会

ここでは、五つの分科会の一つである森林炭素トラッキング(FCT)分科会について報告する。

はじめに、共同議長である国立環境研究所の山形とオーストラリアのBaltuck氏から、FCTの概要が紹介された。GEOは、2011年に全球森林観測イニシアチブ(Global Forest Observation Initiative: GFOI)の実施計画を採択し、これがFCTにとって最初の責務となっている。GFOIは、各国が森林情報を整備するうえで有用となる地球観測データの利用を支援することを目的としている。そのためFCTには、(1) 途上国における森林の炭素蓄積の強化活動(REDD+)へ対応するための観測・報告・検証(Measurement, Reporting and Verification: MRV)の体制整備、(2) 全球規模での森林炭素の保全と各国の社会経済との間の対立、という2点に関して国際的な研究活動を整理・連携する役割が求められている。続いてRosenqvist氏から、GFOIのために利用できる各種衛星データの概要と、地球観測衛星委員会(Committee on Earth Observation Satellites: CEOS)のGFOIへの貢献について紹介された。CEOSとは、各国の宇宙関係機関が参加し、宇宙からの地球観測ミッションに関する国際的な調整を図る組織である。会場からは、各種衛星データの用途について質問があった。

次に、アジア各国におけるREDD+への取り組み状況が報告された。マレーシアのOmar氏からは、マレーシアの森林面積の変化状況や、国際機関と協力して進めている六つのREDD+プロジェクトが紹介された。インドネシアのRoswintiarti氏からは、国家炭素評価システム(Indonesia’s National Carbon Accounting System: INCAS)をREDD+の報告に利用することや、その中でLANDSAT衛星データを利用して土地被覆変化をモニタリングしていることが紹介された。ベトナムのHung氏からは、1991年以降5年ごとに衛星データから全国の森林地図を作成するとともに、数千地点の森林で地上調査を行っており、これらのデータをREDD+報告に利用することが紹介された。インドのJha氏からは、国家炭素プロジェクト(National Carbon Project)では森林面積の変化を衛星データから把握するとともに、土壌の炭素貯留量の調査やタワーを利用したCO2収支の長期観測によって森林の炭素蓄積量をモニタリングしていることが紹介された。これら4カ国ではいずれも森林資源の把握のために衛星データを活用していることが印象的であった。

次に、日本国内の五つの機関から森林モニタリングに関する取り組み状況が報告された。JAXAの島田氏からは、合成開口レーダの画像データをREDD+の観測・報告・検証(MRV)へ利用することを想定してインドネシアで実施したケーススタディについて紹介された。筑波大学の奈佐原氏からは、リモートセンシング情報の検証には地上データが重要であり、そのために緯度・経度線の交差点プロジェクト(Degree Confluence Project: DCP)などを利用できることが紹介された。森林総合研究所の佐藤氏からは、カンボジアでのケーススタディに基づいて、衛星データを利用した森林面積の把握と、固定調査プロット(Permanent Sampling Plots: PSPs)のデータを利用した炭素蓄積量の把握とを組み合わせる方法が、REDD+に対応するための国レベルでのモニタリングに適していることが紹介された。北海道大学の大崎氏からは、インドネシアの泥炭林を対象として、CO2収支などの長期観測の他に、リモートセンシングを利用した山火事や地下水位の観測を実施していることが紹介された。国立環境研究所の三枝からは、CO2収支などの長期観測サイトのネットワークを活用し、リモートセンシング情報や生態系モデルと結びつけることが森林のモニタリングには有効であることが紹介された。

最後に、今後のFCTの課題について議論が行われた。気候変動の緩和だけではなく適応方法についても研究を進めるべきといった意見や、REDD+へ向けて森林をモニタリングする際の標準的な方法を提示する必要があるといった要望などが出され、活発な意見交換が行われた。

photo. FCT分科会

アジア太平洋地域各国の森林研究機関の担当者が集ったFCT分科会

4. おわりに

各分科会が開催された日は急速に発達した低気圧が接近しており、午後のセッションを早く終了できるよう全体的なスケジュールが圧縮されて進行された。しかしそのこともあってか、密度の高い議論が展開された印象がある。今後も、アジア太平洋地域の各国がお互いに連携しつつ森林を含む地球環境の観測システムを構築していくことが重要であると考えられ、本シンポジウムはそのような動向を促進するための良い機会であった。

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP