2012年6月号 [Vol.23 No.3] 通巻第259号 201206_259006

わが国の2010年度(平成22年度)の温室効果ガス排出量について 〜総排出量12億5,800万トン、前年度から増加に転じる〜

  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 畠中エルザ
  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス マネージャー 野尻幸宏

2012年4月13日に2010年度(平成22年度)の、わが国の温室効果ガス排出量が環境省から公表されましたので、その概要を簡単に紹介します。なお、温室効果ガスインベントリオフィス(以下、GIO)では環境省の委託を受け、わが国の温室効果ガスインベントリの作成を行っております。

1. 温室効果ガスの総排出量

1990年度から2010年度までのわが国の温室効果ガスの排出量の推移を表に示します。2010年度の温室効果ガス総排出量(各温室効果ガスの排出量に地球温暖化係数[1]を乗じ、CO2換算したものを合算した量)は12億5,800万トン(CO2換算、以下同様)であり、京都議定書の規定による基準年排出量[2]を0.3%下回りました。このように基準年排出量を下回ったのは、報告義務のある六つの温室効果ガス[3]の排出量を全て報告している1995年度以降、前年度に続き二度目です。しかし前年度比では4.2%(5,100万トン)の増加に転じました。前年度からの排出量増加の原因としては、2008年に発生したリーマンショック後の景気後退からの回復の中で、製造業等の活動量の増加に伴い産業部門からの排出量が増えたこと、猛暑厳冬により電力消費が増加したことなどが挙げられます。

各温室効果ガス排出量の推移(1990〜2010年度、単位:百万トン)

  京都議定書の基準年 1990 1995 2000 2005 2006 2007 2008 2009 2010 基準年比 前年度比
合計 1,261 1,205 1,338 1,342 1,352 1,334 1,365 1,281 1,207 1,258 −0.3% 4.2%
CO2 1,144 1,141 1,224 1,252 1,282 1,263 1,296 1,213 1,142 1,192 4.2% 4.4%
CH4 33.4 32.0 29.7 25.9 22.9 22.5 22.1 21.5 20.9 20.4 −38.8% −2.1%
N2O 32.6 31.6 32.7 29.0 24.1 24.1 22.8 22.8 22.6 22.1 −32.4% −2.2%
HFCs 20.2 - 20.3 18.8 10.5 11.7 13.3 15.3 16.6 18.3 −9.7% 10.3%
PFCs 14.0 - 14.2 9.5 7.0 7.3 6.4 4.6 3.3 3.4 −75.8% 4.2%
SF6 16.9 - 17.0 7.2 4.8 4.9 4.4 3.8 1.9 1.9 −89.0% 0.6%

*土地利用、土地利用変化及び林業(LULUCF)分野の排出・吸収量は除く。

2. 各温室効果ガスの排出量

(1) 二酸化炭素(CO2

2010年度のCO2排出量は11億9,200万トンであり、基準年比で4.2%の増加、前年度比で4.4%の増加となりました。

部門別(電気・熱配分後)[4]では、CO2排出量の35%を占める産業部門からの排出量[5]が基準年比で12.5%の減少、前年度比で8.7%の増加となりました(図)。産業部門における基準年からの排出量の減少は、製造業および非製造業からの排出量が減少(それぞれ基準年比10.1%減、40.0%減)したことによります。

fig. 二酸化炭素の部門別排出量(電気・熱配分後)の推移

二酸化炭素の部門別排出量(電気・熱配分後)の推移

運輸部門からの排出量は基準年比で6.7%増加し、前年度比で0.9%の増加となりました。基準年からの排出量の増加は貨物からの排出量が減少(基準年比16.4%減)した一方で、乗用車の交通需要が拡大したこと等により、旅客(主に自家用乗用車)からの排出量が増加(同比28.5%増)したことによります。運輸部門からの排出量は1990年度から2001年度までは増加傾向にありましたが、その後は減少傾向が続いています。

家庭部門からの排出量は、基準年比で34.8%の増加、前年度比で6.3%の増加となりました。基準年からの排出量の増加は家庭用機器のエネルギー消費量が機器の大型化・多様化等により増加していること、世帯数が増加していること等により電力等のエネルギー消費が大きく増加したことによるものであり、前年度からの増加は猛暑厳冬による電力消費の増加及び石油製品(灯油、LPG等)の消費の増加等によるものです。

業務その他部門[6]からの排出量は、基準年比で31.9%の増加、前年度比で0.5%の増加となりました。基準年からの排出量の増加は、事務所や小売等の延床面積が増加したこと、それに伴う空調・照明設備の増加、そしてオフィスのOA化の進展等により電力等のエネルギー消費が大きく増加したことによるものです。

非エネルギー起源CO2排出量[7]は、基準年比で19.4%の減少、前年度比で2.3%の増加となりました。基準年からの減少は工業プロセス分野(セメント製造等)からの排出量が減少したこと等によります。

(2) メタン(CH4

2010年度のCH4排出量は2,040万トンであり、基準年比で38.8%の減少、前年度比で2.1%の減少となりました。基準年からの排出量の減少は、廃棄物埋立量の減少により廃棄物分野からの排出量が減少したこと等によるものです。

(3) 一酸化二窒素(N2O)

2010年度のN2O排出量は2,210万トンであり、基準年比で32.4%の減少、前年度比で2.2%の減少となりました。基準年からの減少は、6,6-ナイロンの原料となるアジピン酸の生産に伴うN2O排出量が分解装置の導入(1999年前後)で減少したこと、家畜排せつ物、農用地の土壌などからの排出量が減少したことによります。

(4) ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六ふっ化硫黄(SF6

2010年のHFCs、PFCs、SF6のそれぞれの排出量は1,830万トン、340万トン、190万トンであり、基準年(1995年)比でそれぞれ9.7%、75.8%、89.0%の減少、前年比でそれぞれ10.3%、4.2%、0.6%の増加となりました。

基準年からの減少は、HFCsはオゾン層破壊物質であるHCFCからHFCへの代替に伴い冷媒からの排出量が増加した一方で、HCFC-22製造時におけるHFC-23排出量の減少したこと等、PFCs、SF6はそれぞれ洗浄剤・溶剤等からのPFCs排出量の減少等、変圧器等電気絶縁ガス使用機器の使用時漏洩の管理強化等によるものです。

3. 吸収源活動の排出・吸収量

わが国は京都議定書に基づく吸収源活動の排出・吸収量についても算定を行い、インベントリの補足情報として国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局に提出しています。その量は、2010年度は4,990万トンの吸収(森林吸収源対策4,890万トン、都市緑化等110万トン)となっており、基準年総排出量(12億6,100万トン)の4.0%に相当します(うち森林吸収源対策による吸収量は3.9%に相当)。

4. まとめ

京都議定書第一約束期間の中間年である2010年度の排出量は、前年度に引き続き基準年排出量を0.3%下回ったとはいえ、景気後退からの回復の中で産業部門からの排出量が増えたこと、猛暑厳冬により電力消費が増加したことなどにより、前年度排出量を4.2%上回ることとなりました。2010年度末に起きた東日本大震災およびこれと関連する原子力発電所稼働停止が2011年度以降のわが国の排出量に影響を及ぼすことは必至で、京都議定書の削減目標(わが国は基準年比6%削減)を達成できるかは、今後の排出量の推移次第です。

本年の算定および報告書でも、2011年度に実施された「温室効果ガス排出量算定方法検討会」(環境省主催)で決定した新規算定方法等の反映、インベントリ審査における指摘等を踏まえた改善が図られました。GIOでは、今後も報告書やウェブページ等におけるわが国の排出量や算定方法のわかりやすさの向上に努めたいと思います。

なお、本稿に使用したデータはGIOのウェブページ​(http://www-gio.nies.go.jp/index-j.html)​にて公表しておりますので、ご利用ください。

参考文献

脚注

  1. 地球温暖化係数(Global Warming Potentials: GWP):温室効果ガスの地球の温暖化をもたらす程度を、時間も加味した上で、二酸化炭素の当該程度に対する比で示した係数。京都議定書第一約束期間は、IPCC第二次評価報告書(1995)に示された100年値を用いる。CO2=1、CH4=21、N2O=310、HFCs=1,300など、PFCs=6,500など、SF6=23,900である。
  2. 京都議定書の基準年の値は、「割当量報告書」(2006年8月提出、2007年3月改訂)で報告された1990年のCO2、CH4、N2Oの排出量および1995年のHFCs、PFCs、SF6の排出量であり、変更されることはない。一方、毎年報告される1990年値、1995年値は算定方法の変更等により変更されうる。
  3. UNFCCCの日本を含む附属書I国は、温室効果ガスインベントリの報告ガイドライン(FCCC/SBSTA/2006/9)において、少なくともCO2、CH4、N2O、HFCs、PFCs、SF6の情報をインベントリに含めることとされている。
  4. 発電および熱発生に伴うエネルギー起源のCO2排出量は、電力・熱消費量に応じて各最終消費部門に配分されている。また、廃棄物のうち、エネルギー利用分の排出量については廃棄物部門で計上しているため、わが国としてUNFCCC事務局に提出している「日本国温室効果ガスインベントリ報告書」で示されている数値とは異なる。
  5. 産業部門(工場等。工業プロセスを除く)からの排出量は、製造業(工場)、農林水産業、鉱業および建設業におけるエネルギー消費に伴う排出量を表し、第三次産業における排出量は含んでいない。また、統計の制約上、中小製造業(工場)の一部は業務その他部門(オフィスビル等)に計上されている。
  6. 業務その他部門(オフィスビル等)には、事務所、商業施設等、通常の概念でいう業務に加え、中小製造業(工場)の一部や、一部の移動発生源が含まれる。
  7. ここで言う非エネルギー起源CO2排出量は、工業プロセス分野と廃棄物分野からの排出量を合わせた値である。

目次:2012年6月号 [Vol.23 No.3] 通巻第259号

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