2012年6月号 [Vol.23 No.3] 通巻第259号 201206_259008

平成24年度科学技術週間に伴う一般公開「ココが知りたい温暖化」講演会概要 森の呼吸の測り方

三枝信子 (地球環境研究センター 陸域モニタリング推進室長)

4月21日(土)に行われた科学技術週間に伴う国立環境研究所一般公開「春の環境講座」において、地球環境研究センターは、講演会「ココが知りたい温暖化」を開催しました。講演内容(概要)をご紹介します。なお、「春の環境講座」の報告は地球環境研究センターニュース2012年5月号に掲載しています。

森林は重要な温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)を吸収したり放出したりします。その吸収量/放出量の測り方や、吸収量/放出量の観測のために世界で進められているネットワーク、そのなかでの国立環境研究所の取り組みについてご紹介します。

1. 森林はCO2を吸収したり放出したりする

photo. 三枝信子室長

森林にある緑の葉は太陽の光を受けると光合成をします。光合成は空気中のCO2を取り込んで、植物の体を成長させるために必要な有機物を作る働きです。そのときに酸素を放出します。太陽の光がないと光合成はできませんから、光合成をするのは昼間のみです。一方、森林を構成している植物や土壌にすむ微生物は、昼間も夜間も成長や活動に必要なエネルギーを呼吸によって作り出しています。呼吸は光合成と反対に、酸素を吸収してCO2を放出します。ですから、森林が一日当たり、あるいは一年の間に吸収するCO2の正味の量は、光合成の総量から呼吸の総量を引いたものということになります。

一日の間でCO2を吸収している時間と放出している時間があります。光合成は光を必要としますから、日中の光合成速度は光の強さで大きく変わります。夜になると光がないので森林はCO2を弱く放出します。実際の光合成速度は光の強さのほかに温度や土壌中の水分量などによりますが、一日のなかでは光の強さに最も大きな影響を受けます。

CO2の一日当たりの吸収量が1月から12月まででどう変化するかを観測しました。太陽からくる光は夏に強く、冬は弱くなりますから、6月から9月に光合成が活発に行われ、CO2の吸収量が高くなります。新しい葉が出る春にはCO2吸収量は日に日に増え、紅葉、落葉の起こる秋には、CO2吸収量は減ります。

2. 森林のCO2吸収量/放出量の測り方

森林のCO2吸収量/放出量を測る実際の観測方法についてご説明します。従来行われてきたのは生態学(林学)的方法です。これは、調査地を設定し、そのなかにある樹木の本数や種類を調査し、木の幹の直径成長量などの測定に基づき、樹木や土壌に蓄積される炭素量を求める方法です。樹木1本1本の吸収量から樹種や立木密度を考慮して調査地区全体の吸収量を求めます。

十数年前から世界に広まったのが微気象学的方法です。これは森林の中に気象観測用のタワーを建て、風が運ぶCO2の量を求める方法です。微気象学的方法で利用する測器のなかから二つご紹介します。一つは超音波風速計です。もう一つは赤外分析計です。赤外線は二酸化炭素を吸収する性質をもっていますから、赤外線の減衰量からCO2の濃度を求めることができます。

森の上で、上下方向の風速とCO2濃度を高速(1秒に10回)で測定し、風によって運ばれるCO2の量を算出します。超音波風速計と赤外分析計を利用した測定の一例をご紹介します。超音波風速計で測った上下方向の風速は短い時間のなかで激しく変動していることがわかります。太陽の光が森林に当たると光合成を活発に行いCO2を吸収しますから、森林に近い空気のCO2濃度は相対的に下がります。一方、上空のCO2濃度は相対的に高い状態になります。風によって空気がかき混ぜられると、CO2濃度の低い空気が上にあがっていき、上からCO2濃度の高い空気が降りてきます。こういう混合を同時に測定し、相関の強さを測り、いくつかの計算を行うことによって風の渦が運ぶCO2の速度を測ることができます。これは渦相関法(詳細は、長期観測を支える主人公—測器と観測法の紹介— [1] 渦相関法を参照)と呼ばれるもので、世界中の500地点くらいで測定が行われています。そして、連続観測すると、森林が吸収した正味のCO2量を測ることができます。

fig. 超音波風速計と赤外分析計

3. 森林のCO2吸収量/放出量を観測するネットワーク

微気象学的方法によるCO2吸収量/放出量観測の歴史を簡単にお話しします。1990年頃に超音波風速計や赤外分析計を使った長期観測が野外でできるようになりました。その後、アメリカや日本、ヨーロッパが次々と観測ネットワークを作りました。1997年の気候変動枠組条約第3回締約国会議で採択された京都議定書で、各国の温室効果ガスの削減目標に森林によるCO2吸収を勘案することが決まり、世界的に観測ネットワークとデータの流通促進の研究が進みました。現在、日本国内では森林だけではなく農耕地や湿地も含めて約30地点、アジアでは80地点、世界では500地点以上で長期観測が行われています。

国立環境研究所が実施している研究をご紹介します。北海道苫小牧(苫小牧フラックスリサーチサイト)や山梨県富士吉田(富士北麓フラックス観測サイト)のカラマツの成熟林と、天然の森林を伐採してカラマツを植林した北海道大学の天塩研究林(天塩CC-LaGサイト)の3地点で、CO2の吸収について調べています。成熟した林では夏に吸収し冬に放出するという変化が明瞭に現れます。天塩では森林を伐採した直後、森林はCO2を大きく放出するのですが、数年かけてこの森林では放出量と吸収量がほぼつりあうところまできています。このようにいくつかの森林で条件を変えて観測することで森林の動態を測定することができます。

私が所属する地球環境研究センター陸域モニタリング推進室はアジアの観測ネットワークの活動を活発にするためのネットワークの事務局を担当しています。情報やデータを収集して交換したり、国際共同研究の推進に取り組んでいます。こういう取り組みのなかで得られた成果についてご紹介します。アジア各地(ロシア、モンゴル、中国、日本、熱帯地域)の生態系によるCO2吸収量/放出量を比較すると、ロシア、モンゴルは年間のCO2吸収量が少なく、温帯、熱帯になるほど吸収量が多くなります。日本付近では、常緑林は条件がよければ冬でも光合成をします。落葉林は常緑林に比べ、吸収・放出の季節変化が明瞭で振幅も大きいです。また、熱帯林は温帯林などに比べて吸収量も放出量も多いのですが、両者が同程度なのでつりあっているような観測データが得られました。こうして、世界各地で観測ネットワークを作ることにより、森林がどのようにCO2を吸収・放出しているか、それかどう変化しているかをモニタリングすることができます。

(文責 編集局)

目次:2012年6月号 [Vol.23 No.3] 通巻第259号

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