2012年8月号 [Vol.23 No.5] 通巻第261号 201208_261007

平成24年度エコスクール・地球環境モニタリングステーション落石岬見学会の報告

地球環境研究センター 交流推進係

北海道根室振興局・根室市の主催によるエコスクールが6月13日に開催されました。国立環境研究所地球環境研究センターは根室振興局の要請により、地元貢献の一環として1998年より参加しています。おもな対象は落石および落石近傍地区の小学校5〜6年生で、落石小学校と、昆布盛小学校および海星小学校にて、交互に開催されています。根室の6月はまだ寒く、特に今年は日中でも気温が6℃前後という寒さのなかでの開催となりました。もう一校参加が予定されていた小学校が不参加となったため、今回は、根室市立昆布盛小学校の1〜6年生10人が元気よく参加しました。

最初は昆布盛小学校の教室と体育館での地球温暖化をはじめとする環境問題の講義と自転車発電体験です。小学校の子どもたちにとって、地球温暖化はあまり身近に感じられる問題とはいえないかもしれませんが、普段何げなく使っている電気をつくりだすには大きなエネルギーが必要であること、電気をムダに使うと温室効果ガスである二酸化炭素の排出量を増やすこと、電気のムダを少なくすることが地球温暖化の防止に役立つことなどは、こうしたエコスクールなどで順序建てて説明されればきちんと理解する力をもっています。たしかに、地球温暖化の科学的な仕組みについて理解することは、子どもたちにはむずかしいかもしれません。しかし、根室市在住の北海道地球温暖化防止活動推進員の千葉精一さんが温暖化のイメージとして見せてくれた「ラップ(=温室効果ガス)に包まれた地球儀」は、子どもたちの印象に残ったようです。あの説明が、彼らのなかで明確になるのはそう遠いことではないはずです。

自転車発電体験(写真1)は、電気をつくりだすことの大変さを実感してもらうのに大いに役立ちます。今回使った新しい自転車はフレームが小型のものだったで、サドルの高さを調節するだけで、1年生から6年生まで全員乗ることができました。ペダルを踏み、自分の足が産みだす電気が電球やテレビをつけると、子どもたちはみな「一所懸命」になります。そして子どもたちの誰もが、最新型のテレビよりも白熱電球を点灯させるほうがより力が必要となることに驚いていました。

photo. 自転車発電体験

写真1電気機器をつけようとすると自転車のペダルがぐっと重くなることを実感

このあと3〜6年生の7人が、地球環境研究センターが温室効果ガスなどの観測を行っている落石岬の地球環境モニタリングステーションへ向かいました。この日はほんとうに寒い日で、ステーションには車止めから1.7kmほど歩いていかなければならないし、岬は風も強いので、校長先生の判断で、低学年の子どもたちのステーション行きは次の機会を待つことになったのです。

モニタリングステーションに着いた子どもたちは、ずらりと並ぶ観測機器にすっかり魅了されたようでした。吸い込まれそうなくらいに機器を見つめ、町田室長(地球環境研究センター大気・海洋モニタリング推進室)の話を一心不乱にメモしていました(写真2)。彼らにとって、新しいことを「知る」のは楽しいことなのでしょう。

photo. 熱心にメモ

写真2モニタリングステーションの観測機器に興味津々。熱心にメモをとる

観測装置見学の後、子どもたちはハワイや落石岬での二酸化炭素の観測データのグラフを見ながら、空気中の二酸化炭素が増加してきていること、二酸化炭素の濃度が季節によって変化することを学びました。空気中の二酸化炭素濃度が夏に減少する理由を町田室長が彼らに質問すると、6年生の一人が「光合成!」と答えました。授業で習ったことと目の前のグラフの関連に納得したのかもしれません。光合成を習っていない年下の子どもたちはちょっと羨ましそうに見ていました。

最後に二酸化炭素が海水に溶けること、溶けると海水が酸性化することをみんなで実験して確認しました。二酸化炭素が多く含まれている自分の息を海水とBTB溶液を入れた小ビンに吹き込み、蓋をして振り混ぜると、二酸化炭素が海水に溶けて酸性化し、海水に溶けているBTB溶液の色が青から黄色へと変化します。この実験では、主要な温室効果ガスの二酸化炭素の性質を「体験」できるのです。実験を通じて、子どもたちは二酸化炭素という目に見えない気体に、何らかの具体的な手ごたえを感じたようでした。

地球温暖化問題は、科学的解明から対策へと比重が移りつつあるように見えますが、長期的な観測結果が対策の基盤として重要であることは変わりません。地元の小学生や先生方をはじめとして、自分たちの住む場所のすぐそばで、そのような観測が継続されているのを知っていただくことは、地道な観測の重要性の理解とともに具体的な対策行動につなげていただくよい機会となるはずです。このような機会を提供しつづけていただいている北海道根室振興局と根室市、そして地元の方々に心からの感謝を捧げたいと思います。

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