2013年3月号 [Vol.23 No.12] 通巻第268号 201303_268004

2012年度ブループラネット賞受賞者による記念講演会 2 持続可能な世界をつくるために世界規模での対話を始めよう

Professor William E. Rees(ウィリアム・E・リース)さん
(ブリティッシュ・コロンビア大学教授、カナダ王立協会[FRSC]フェロー)

2012年11月2日に国立環境研究所地球温暖化研究棟交流会議室で開催された2012年度ブループラネット賞受賞者講演会におけるウィリアム・E・リース教授(ブリティッシュ・コロンビア大学教授、カナダ王立協会[FRSC]フェロー)とマティス・ワケナゲル博士(グローバル・フットプリント・ネットワーク代表)の講演内容(要約)を紹介します。なお、同時に受賞されたトーマス・E・ラブジョイ博士(ジョージ・メイソン大学環境科学・政策専攻教授)の講演要約は地球環境研究センターニュース2月号に掲載しています。

ブループラネット賞および受賞者の略歴については旭硝子財団のウェブサイト(http://www.af-info.or.jp)を参照してください。

人間と自然システムとの関係を理解するために必要なこと

ここ数年の私の関心は「私たちがしているいくつかのことは、遠い将来に対して極めて危険であることを知ること」と、「私たちは特定の考え方に囚われているため、この問題に対処することができないこと」との間の認識のずれを理解することに向けられてきました。私の見解では、人々の自然システムの捉え方と現実の自然システムの反応との間には根本的な矛盾があります。私たちが、自然について誤った考えで行動すると、持続不可能な現象が起こってしまいます。この問題について、何かを少し改善する程度では何の変化も起きないと考えています。こうした矛盾は非常に根源的で、何かを変えようとするには、人間と自然システムとの関係を解釈する方法について、非常に根本的な変化が必要です。

photo. Professor William E. Rees

問題の根源は生物学的であり文化的でもあります。私たち人間は地球上の生物学的な構成要素であり、多くの点でこれまでに最も成功した種と言えます。しかしこの成功が私たちに重くのしかかる問題を引き起こしています。この問題について重要な二つの特徴があります。一つはあらゆる種は利用可能な生息地を埋めつくすまで広がり続けるが、現時点で人類と同程度に地球を占める種はない、ということです。もう一つの特徴は、私たちは入手可能な資源を使い尽くす傾向があるということです。これらの点について人間は他の種よりも勝っています。なぜなら技術をもっているからです。

人類は「物語」を語る種です。どの社会、どの文化もそれを表す物語をもっています。世界文化という物語は、経済成長の永続的な前進と経済成長の可能性という神話に支配されています。科学革命を伴う知識が蓄積するにつれ、私たちは特に燃料技術に関する知識を使い、人間活動を維持するために他のすべての資源消費を増加させました。私たちの文化の基礎となる資源の多くは、安価な化石燃料を大量消費せずには入手できません。約100年前までは、人はその人生の間に変化を見ることはできませんでした。しかし今日、私たちの文化に重要なすべてのことは私が生まれた時には存在していなかったものです。ここ150年から200年に起きたことがあたりまえのように見えますが、長い歴史の中ではこの時代が唯一そして最も異常で変則的な期間なのです。

現実に起きていること

化石燃料使用の爆発的な増加と同時に、人口の急激な増加も起きています。その結果として多くの重要なことが起きました。人々の活動は、この惑星で生み出されたものに頼った寄生する生活になってきています。これがエコロジカルフットプリントの分析でわれわれが測定したことです。結果の例として魚、特に「タラ」のストックの減少があります。人間が搾取している再生可能、もしくは非再生可能な資源についても同様の傾向を見ることができます。48の重要な鉱物資源のうち26種類は現実に枯渇しています。

資源枯渇に加えてもう一つの重要な問題を挙げるなら、人類は地球が受容できる汚染物の量をすでに超えて投棄しているという事実です。重量ベースで見ると、単一で最大の汚染物は二酸化炭素です。私たちは、温室効果ガスの増加と地球の平均温度上昇という長期的な影響を知っています。IPCCの報告書は、気温上昇を低く見通していますが、このまま温室効果ガスの排出量が増加すれば、産業革命前より4℃上昇すると主張する気候学者もいます。もしこの状態が続けば、今世紀末までに20–30億人の気候難民が発生することになります。人々のエコロジカルフットプリントは今も地球の受容量を超え続けています。

自然資源が便益を生むよりも速いスピードで人がそれを破壊し搾取する成長経済下にいるならば、その成長は人を豊かにするのではなく貧しくするような非経済的成長です。被害が便益よりも大きい点を超えた世界での成長から得られる物は何もないことは明らかです。現在の問題は、便益は豊かで力のある国で生まれ、その費用は世界の貧しく力のない国の人に課せられているということです。

photo. Professor William E. Rees

私たちがするべきこと

資源の枯渇、化石燃料の制約、資源の代わりとなるような物質が十分にないことにより、この異常な期間が終わりを迎えようとしています。地理的に均等には現れませんが、世界は経済成長の縮小を経験するでしょう。そこで、私たちには選択肢があります。今まで通りに化石燃料の最後の一滴まで搾取し、私たち自身を気候変動によって引き起こされる危険の中に巻き込むのか。もしくは、自然が危険な状態にあるという問題を認め、私たちの高い知性と能力をこの問題の解決のために使うのか。人間特有の才能を使えば、データから原因を発見し、計画を立て、道徳的な判断を行い、共通の目的を達成するために協力することができます。賢い種が取るべき選択はどちらでしょうか? 私たちは、人間が豊かで幸福を感じるような最大利得を生み出す最適な点があることを認識するべきです。また、世界経済を縮小させるだけでなく、地球の生物学的容量の配分における衡平性も必要です。このためには単なる国際的な対話ではなく、人々の知性、思いやり、そして道徳的な判断という資源が必要です。

生き残ることができるのは、一番強い種でも、一番知性的な種でもなく、変化に最も適応的な種なのです。私たちは適応するための能力をもっていますが、現時点では認識的、文化的な障壁があります。文化的な適応には、急速に変わる能力が必要とされており、その変化のためには私たちの社会の核をなす信念や価値観、仮定を考え直さなければいけないですし、時にはそれらを否定することも必要かもしれません。

なぜ、この知的で心的なプロセスはしばしば機能しないのでしょうか? それは、相いれない科学を無視して、先入観や観念的な考えに基づいて状況を評価しているからです。2012年6月にブラジルで開催された国連持続可能な開発会議(リオ+20)や気候変動の交渉会議の成果も、ほとんど事前に予想された記述になりました。私たちはこのタイプのジレンマを導く心的なプロセスを理解しつつあります。前もって考える方法や問題に近づくためによくとられる観念的な方法は、真実への障壁となると心理学者は言います。目の前にある挑戦は科学的な挑戦ではありません。私たちが直面している問題を知るための情報はもっているのです。すでに気候変動により大きな影響が出そうな道を歩んでいる現状にいながら、これ以上の科学的情報が必要でしょうか? 競争的な個人主義や貪欲で狭量な個人的関心から脱却し、コミュニティでの協力と配分、集団としての関心や生存の方向に価値観を変化させるような世界規模の文化的な「物語」を作り直すために、世界全体での対話を始めなくてはいけません。

これは、個々の人間や国が単独でできることではありません。人類の歴史においてはじめて、私たちは全員が同じ船に乗っているのです。この持続可能性の達成には、首相レベルの協力が必要になります。失敗は許されません。私たちが共に進むことに失敗する、もしくは既知の気候変動やその簡単なメカニズム、行動の理由に対して創造的な対応に失敗したら、そしてこの問題に対して何も言及しなければ、過去の歴史において無数の他の文明が失敗した時に陥ったのと同じようにわれわれも没落するでしょう。

社会的正義のある生態学的な持続可能性の達成に失敗することは、他の種から近代のホモ・サピエンスを区別している才能を発揮しないことを意味します。そしてもし、私たちが人類に課せられた課題に立ち向かえないならば、世界の文明の見通しは一体どうなるのでしょうか?

(和訳:社会環境システム研究センター 金森有子)

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