2015年3月号 [Vol.25 No.12] 通巻第292号 201503_292001

気候変動枠組条約第20回締約国会議(COP20)および京都議定書第10回締約国会合(CMP10)報告 3 サイドイベント報告:マレーシア及びアジア全域での低炭素社会実行計画づくりとその実践

  • 社会環境システム研究センター 持続可能社会システム研究室 特別研究員 朝山由美子

国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)報告 一覧ページへ

2014年12月1〜14日に、ペルー・リマにおいて国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第20回締約国会議(COP20)および京都議定書第10回締約国会合(CMP10)が開催された。これと並行して、強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)第2回会合(第7部)、および第41回補助機関会合(科学上及び技術上の助言に関する補助機関会合:SBSTA41、実施に関する補助機関会合:SBI41)が開催された。国立環境研究所からは、日本政府代表団(交渉)、サイドイベント(発表)、ブース(展示)という三つの立場で参加した。以下、サイドイベントについて概要を報告する。なお、政府代表団参加者からの温室効果ガスインベントリ関連の交渉の概要とブース(展示)の報告は地球環境研究センターニュース2月号に掲載している。

国立環境研究所は、マレーシア工科大学(Universiti Teknologi Malaysia: UTM)との共催で、気候変動枠組条約第20回締約国会議及び京都議定書第10回締約国会合(COP20/CMP10)において、「マレーシア及びアジア全域での低炭素社会実行計画づくりとその実践」と題するシンポジウムを12月11日に開催しました。また、会議場内日本パビリオンにおいては、12月9日に「AIMモデルを用いた低炭素都市実行計画づくりの事例紹介と今後の展開」と題したパネルディスカッションを国内外の研究協力機関と共催しました。以下に、これらサイドイベントで紹介した内容と現地の雰囲気を報告します。

1. マレーシア及びアジア全域での低炭素社会実行計画づくりとその実践

本イベントでは、マレーシアの都市であるイスカンダル、プトラジャヤをケーススタディーとして、アジア太平洋統合評価モデル(Asia-Pacific Integrated Model: AIM)を用いた低炭素社会実行計画づくりとその実践に関する最新の研究成果を紹介しました。

冒頭、外務省堀江正弘地球環境担当大使、UTM国際室専務理事のNordin Bin Yahaya氏それぞれから歓迎挨拶を頂きました。堀江大使は、本サイドイベントで紹介する地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development: SATREPS)の「アジア地域の低炭素社会シナリオの開発」プロジェクトに当研究所、京都大学、岡山大学、UTMが参画し、イスカンダル当局とマレーシア政府と共同で「イスカンダル開発特区の2025年低炭素社会ブループリント」を策定してきたこと、さらに、ブループリントが絵に描いた餅とならないように、科学者と政府機関がその実装に向けて協働しているユニークな取り組みであることを紹介しました。Yahaya氏は、イスカンダルの研究を通じて得た知見等をプトラジャヤやサイバジャヤの低炭素開発実行計画の策定にも役立てていることを報告しました。

続いて、マレーシア政府エネルギー・環境技術・水省(KeTTHA)のY. Bhg. Datuk Loo Took Gee氏は、2020 年までに GDP 当たりの二酸化炭素(CO2)排出量を対2005 年比で40%削減するために、例えば、マレーシアで再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度[注]を実施したり、ESCO事業による省エネルギー対策等に着手していると述べました。なかでも、イスカンダル開発特区はマレーシアの気候変動・環境技術政策の実施にかかる先進事例であり、マレーシア国全体では、2005年比でマレーシア国全体のエネルギー原単位を33%低減したことを強調しました。

UTMのHo Chin Siong教授は「イスカンダル開発特区の2025年低炭素社会ブループリント」の概要を紹介し、2014年度の成果として、特区内の5つの市レベルのLCSシナリオ、及び、「イスカンダル・マレーシア版こどもエコライフチャレンジ」を紹介しました。Siong教授は、ブループリントの実施に向けて、先進事例を参考に地域の特性を考慮した行動を開始し、その進捗をモニタリングしていくことの重要性を強調しました。

プトラジャヤ都市計画副部長のDato’ Omairi Bin Hashim氏は、AIMを用いた「Putrajaya Green City 2025」をもとに、「プトラジャヤ・グリーンシティイニシアティブ」の策定と実施について発表しました。プトラジャヤが、特に力を入れている取り組みとして、第1に、自転車利用の推進、その推進に向けた道路整備であるBikeable City計画を紹介しました。第2に、建築物の節電促進として、AIMによるシミュレーションや東京都の地球温暖化対策報告書制度を参考に、エネルギー消費量算定・報告書制度を導入し、その進捗をモニタリングするためのメカニズムを構築中であると述べました。

東京都環境局の西田裕子氏は、東京都の低炭素イニシアティブを発表しました。また、プトラジャヤの状況に関する発表を踏まえ、建築物の地球温暖化対策報告書制度を導入する際のポイントとして、プログラムの範囲、報告書の内容、キャパシティビルディング、報告書の確認、そして公表に関する取り決めなどを紹介・説明しました。

当研究所の藤野純一主任研究員は、AIMを用いた低炭素社会構築のためのシミュレーションモデルの結果が、プトラジャヤにおけるグリーンシティ推進プログラム実施機関の立ち上げにつながり、研究者と行政官が低炭素社会構築のために協働するきっかけとなった先進事例であると報告しました。

その後のパネルディスカッションでは、会場からの質問をもとに、国や地方の政策決定者が低炭素開発計画を実施する際の課題について議論が行われました。Gee氏は、マレーシアでは、これまでの化石燃料利用に対する補助金の削減と、市場メカニズムを活用した政策の導入が、エネルギー効率に関する市民の意識の向上と、新たなビジネスチャンスの契機となった事例を紹介しました。また、西田氏は、多くの自治体では、多様な利害関係者の主体的参加を促していくことが課題であると述べました。その上で、ベンチマーク指標を用いた評価がエネルギー効率の改善の推進上重要であることを強調しました。東京都の事例では、ベンチマークデータをもとに、各事業者が各々のエネルギー使用量を明確に把握し始めたことがエネルギー効率改善対策実施の起動力になったことの認識が共有されました。

本サイドイベントの登壇者による発表内容の詳細、及び、発表資料はAIMウェブサイト http://www-iam.nies.go.jp/aim/AIM_workshop/cop20_os_j.html をご参照下さい。

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写真112月11日に開催したCOP20公式サイドイベントにおけるパネルディスカッションの様子

2. AIMモデルを用いた低炭素都市実行計画づくりの事例紹介と今後の展開

12月9日、「AIMモデルを用いた低炭素都市実行計画づくりの事例紹介と今後の展開」と題するパネルディスカッションを開催しました。イスカンダル開発特区、プトラジャヤの他、ベトナム・ホーチミン市の各行政機関に対して、低炭素都市の実現に向け、科学的知見を研究者が実際の行政の開発計画にどのように組み込むかについて発表し、北九州市、(公財)地球環境センター(GEC)、大阪市、東京都、プトラジャヤの行政官らが、低炭素社会実現に向けた都市間協力について発表しました。この場には望月義夫環境大臣が折衝の合間を縫って駆けつけて下さり、参加者に対してイベント開催の意義を含めた挨拶を頂きました。

パネルディスカッションでは、科学的知見及び現場での経験・教訓を踏まえ、各都市の低炭素計画実装に焦点を当てた議論が行われました。具体的には、低炭素技術の導入だけでなく、多様なステークホルダーとの対話を通じて信頼関係を築いていくこと、都市間協力を通じ、互いの取り組みを学び、良いところを共有していくことの必要性が確認されました。最後に、(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)評議員・低炭素アジア研究ネットワーク(LoCARNet)事務局長の西岡秀三氏が、科学的知見に基づいた政策形成、及び、アジアにおける低炭素知識を地域で共有していくためのシステムを構築していくことの必要性を強調し本イベントを締め括りました。

各発表者による発表の詳細、及び発表資料の概要は、AIMウェブサイト http://www-iam.nies.go.jp/aim/AIM_workshop/cop20_jp_j.html をご参照下さい。

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写真212月9日に開催した日本パビリオンイベントにおけるパネルディスカッションの様子

3. おわりに

各国が約束草案を策定するに当たり、AIMを用いた包括的な定量指標、及びその実現のための手法を提示していく必要性がこれまで以上に高まっています。私たちの研究成果が、国内外の温室効果ガス削減目標設定とその効果的実施にも寄与するよう、今後も研究によるサポートを進めていきたいと思います。

脚注

  • マレーシアの再生可能エネルギー固定価格買い取り制度に関する詳細は、Sustainable Energy Development Authority Malaysiaウェブサイト http://seda.gov.my/ をご参照下さい。

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