2015年3月号 [Vol.25 No.12] 通巻第292号 201503_292008

観る・知る・護る〜つくば発100の英知の交流 テクノロジー・ショーケース2015の報告

  • 地球環境研究センター 交流推進係

1. はじめに

2015年1月21日(水)、つくば国際会議場において「観る・知る・護る〜つくば発100の英知の交流」をテーマに、地球温暖化問題の解決に向け「つくば」の研究者が最新の研究成果を発表しました。ポスター会場には、117件ものポスターが出展され、午前中にはそれらポスターのインデクシングセッション(1分間のプレゼンテーション)が行われ、優秀な研究に対する表彰も行われました。

本稿では、テクノロジー・ショーケース2015の雰囲気の一部を報告します。

2. ポスターセッション

このショーケースの特徴はポスターセッションにあるといってよいでしょう。2つの展示会場に一般発表101件と「つくば発注目研究」と銘打つ16件のポスターが張り出され、会場内は発表者で(もちろん発表を聴く方もいました)賑わいました。午前中に行われた1分間のインデクシングセッションには、高校生(7件)、大学(院)生(24件)、35歳以下の若手研究者(30件)が含まれ、若い力の参加が多い印象でした。国立環境研究所生物・生態系環境研究センターの山口晴代研究員は若手研究者としてエントリし、「ベスト新分野開拓賞」を受賞しました(賞品はつくばの有名店のケーキだったそうです……)。山口研究員のポスターは藻類の多様性を系統に沿って示し、その将来利用可能性について発表するものでしたが、ボルボックスや三日月藻など美しく洗練された藻類の写真や、色合いにも配慮したわかりやすい図表など、レイアウトも整理され、大変魅力的で人目を惹くものでした(写真2)。研究の内容はもちろん、その結果をわかりやすく整理し、伝えたいことを効果的に審査者に伝える技術も、研究者の能力の一つであると感じました。

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写真1寺本宗正 地球環境研究センター炭素循環研究室高度技能専門員によるインデクシングセッション。土壌からの温室効果ガスの吸排出を測定する方法についての発表です

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写真2, 3山口晴代 生物・生態系環境研究センター生物資源保存研究推進室研究員(ベスト新分野開拓賞を受賞)

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写真4会場内の国立環境研究所紹介のコーナーでは地球環境研究センターによる船舶温室効果ガスモニタリングの写真パネルが参加者の注目を集めていました

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写真53カ所の会議室・展示室を使い117件ものポスターが出展・発表されました

3. 住明正国立環境研究所理事長による特別講演

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写真6江崎玲於奈つくばサイエンス・アカデミー会長による住明正理事長の紹介

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写真7住明正国立環境研究所理事長による特別講演

午後、江崎玲於奈つくばサイエンス・アカデミー会長に紹介され、国立環境研究所の住明正理事長が特別講演を行いました。冒頭、「暖かい気候がやってくる」と述べた住理事長は、太陽と地球のエネルギー放射の違いから始まり、人為起源温室効果ガスの増加、水蒸気フィードバックなど地球温暖化メカニズムの科学的説明を、具体的な数値データを示しつつ行いました。さらに将来予測に不可欠な温室効果ガス濃度観測データの戦略的な収集方法や緩和・適応策に関する研究・技術の例を紹介し、「まだまだ知らないことも多い。しかし、わかっていることも多い」として、わからないことを探求すると同時に「わかってきたことに対しては的確に対応することが重要」と述べました。そして「地球温暖化の影響は顕在化し始めている。しかし、価値観や社会の発展形態に関する考え方は多様であり、その対策等をどのように行うかについての社会的合意はますます困難になってきている」と今後のさらなる研究・技術開発、コンセンサスを得るための新しい知恵の必要性を訴えました。

4. ミニシンポジウム

特別講演に引き続き行われたミニシンポジウムでは、「地球温暖化問題をしなやかに解決する科学と技術研究」をテーマに「観る・知る・護る」に沿った報告が行われました。

地球環境研究センターの横田達也衛星観測研究室長は「観る」の立場の研究開発として、「地球の温室効果ガスの変動を宇宙から観る(GOSAT)」と題し、人工衛星からの温室効果ガス観測に関するつくば発のテクノロジーについて解説しました。人工衛星による観測にはハードウェアとソフトウェアの両方の技術が必要になるが、つくば市に存在するJAXA(宇宙航空研究開発機構)とNIES(国立環境研究所)の連携により、宇宙から温室効果ガス濃度を目標精度で観測できるようになっただけでなく、従来不可能と言われていた「人工衛星からの観測による人為起源温室効果ガス発生源の従来の検出可能性」を示唆できたことを紹介しました。この技術により宇宙からの温室効果ガスの発生源や排出の実態の検証につながるため、各国が算出した排出量の適否を人工衛星で示せる可能性が高まりました。また、この分野における日本の技術(つくば発の技術)は、米国NASAが新型温室効果ガス観測技術衛星OCO-2打ち上げ成功時に「GOSATのおかげで米国の新型衛星打ち上げが成功した」とコメントするほどであったことを紹介しました。

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写真8横田達也室長による「観る」をテーマとする発表

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写真9増井利彦室長による「護る」をテーマとする発表

社会環境システム研究センターの増井利彦統合評価モデリング研究室長は、「護る」の立場から「低炭素社会の作り方」と題する報告を行いました。温室効果ガス削減に関する世界の現状の説明から入り、国立環境研究所がネットワークを広げているアジア地域での低炭素社会構築に向けた研究を紹介しました。また、温室効果ガス排出を抑制するためには、どの部門のエネルギー消費を抑えられるかを知ることが重要であり、日本における温室効果ガス直接排出量部門(実際に排出された場所)とその排出に相当するエネルギーを消費(主として電力)した部門の比較(図)などのデータを示しました。そして、我々国民が対策の方向性を考える上では、目に見えないエネルギーをグラフ等により「見える化」することが重要と訴えました。そして、将来シナリオの作成(低炭素社会の構築)には、自分自身の環境負荷を認識した上で、短期、中期、長期それぞれ有効な対策を実施していくことが重要とまとめました。

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日本における温室効果ガス排出量の内訳の変化 [クリックで拡大]

5. おわりに

今回のショーケースでは、国立環境研究所が存在するつくば地区が研究学園都市と呼ばれる日本トップレベルの研究開発機関集積地であるということを改めて実感するとともに、若いパワーにもあふれていることを知ることができました。つくばを拠点とする研究者や研究機関はこの良好な研究環境を十分に生かしていくことが重要と感じました。

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