2015年3月号 [Vol.25 No.12] 通巻第292号 201503_292002

リマからパリへあと1年で新しい枠組みはできるか?

  • 社会環境システム研究センター 持続可能社会システム研究室長 亀山康子

1. はじめに

2014年12月1日から14日未明まで、ペルーのリマにて、気候変動枠組条約第20回締約国会議(COP20)が開催された。その他、京都議定書の第10回締約国会合(CMP10)なども平行して開催されるため、「リマ会合」と総称される。

2011年以来、気候変動枠組条約の下での会議で最も注目されているのは、2020年以降の気候変動対処に関する新しい国際枠組みを、2015年末にパリで開催されるCOP21(パリ会合)までに草案し合意するという動きだ。この合意には、途上国を含めてすべての国が参加することとされている。リマ会合では、パリ会合まで残り1年という時期に、(議題1)合意文書草案、と(議題2)パリ会合に至る1年間の工程表の2つが議論された。

気候変動に係る2015年の国際交渉スケジュール

2月8日–13日 ADP(2020年以降の枠組みに関する交渉会議)(ジュネーブ)
最終日に、正式な交渉テキストが出来上がった。
3月末 各国による約束草案の提示が求められている期限
5月末 COP21で議定書の採択を目指す場合、議定書文案が提出されなくてはならない期日
6月1日–11日 補助機関会合、ADP 2日–9日(ボン)
8月31日–9月4日 ADP 3(ボン)
10月19日–23日 ADP 4(ボン)
11月1日 各国から提出された目標案をまとめた統合報告書の公表
11月30日–12月11日 COP21, CMP11(パリ会合)

2. 議題1:パリ会合で合意する文書の姿

パリ会合での合意が期待される文書はどのような形態となるのだろうか。今回リマ会合で出されたドラフトは、各国からの意見を集約し整理したものに過ぎず、選択肢がざっと並べられたものだった。内容に、緩和、適応、実施手段(資金、技術、能力増強)、透明性確保、の要素が含まれることは、2011年COP17より合意されている。しかし、具体的にこれらの要素をどのように国の約束として盛り込むのかというと、多様な意見が聞かれた。

また、この文書は、京都議定書に代わる新しい議定書となるのだろうか。それとも、より合意しやすいが法的文書ではない「COP決定」となるのだろうか。この点は、議論が紛糾することが容易に想定されるため、あえて争点とされていないが、「コア文書」とそれを補完する文書の2種類で構成されると考えている国が多いようだ。

「コア文書」が議定書となるのであれば、条約の規定上、パリ会合の6か月前、つまり今年の5月にはドラフトができていなくてはならない。5月までにドラフトを完成させるためには、リマ会合でもある程度、具体的な形が見えている必要があると考えられていたが、実際にはリマ会合の後半でこの議題に時間を割くことはできず、39ページにわたる作りかけの文書がそのまま次回の会合(2015年2月)に繰り越された。

3. 議題2:1年間の工程表

リマ会合の最後の数日間は、こちらの議題で時間が費やされた。各国ができるだけ2015年3月までに約束草案を提出すべきということは、1年前のCOP19で決まっていた。しかし、この「約束草案」に盛り込むべきは緩和(排出削減目標)だけか、あるいは、その他の要素である適応策や資金についても同様に目標を設定すべきなのか。すでにいくつかの国が目標を提示しているが、目標年が2025年や2030年と統一されていない中で、統一の必要性はないのか。緩和の目標が原単位目標(GDP当たり排出量など)など、絶対量で示されなかった場合、将来のGDPなど想定されている前提条件も含めて情報を提出すべきでないか、などの意見が出された。以上の点について、約束草案は緩和中心であることが示され、その他の要素については義務ではなく任意となった。目標の前提条件となる情報についても同時に提出することが期待される書きぶりとなった。

各国が国内で決定した約束草案を全部合計したときに、必ずしも気候変動抑制にとって十分なものになるとは限らない。そこで、一旦提出された目標案の妥当性について事前に協議するプロセスの必要性を、EUや南アフリカは主張していた。しかし、国内の意思決定を他の国が評価したところで、一旦決定された目標が国内で再検討されることは、政治的に想定し難い。結局、国外からの国内の意思決定への介入を嫌がる声が強く、強制力の強い評価プロセスが否定された結果、実質的な事前協議はなくなり、条約事務局は、各国の提出した目標案をウェブサイトに掲載すると同時に、2015年11月1日までに各国の目標案を集約した報告書を作成するという手続きにとどまった。

このようにして各国から提示された約束草案を確定するタイミングは、必ずしもパリ会合でなくてはならないわけではない。約束の部分だけは定期的に見直せる文書とし、コア文書とは切り離して管理するという選択肢もあり得る。その意味でも、約束草案に関する今後の議論は目が離せない。

パリ会合までの工程表に関する決定文は、「気候行動のためのリマ声明」(Lima Call for Climate Action)と名づけられた。

4. 共通だが差異ある責任の行方

今回の交渉で目指されている新しい枠組みは、すべての国が参加するという点が重要だ。1990年代に気候変動枠組条約が採択されて以来、世界の国々は附属書I国(先進国)と非附属書I国(途上国)とに二分され、主には前者のみに、排出削減義務が付されていた。同様に、資金供給義務を有する先進国は附属書II国と呼ばれた。京都議定書でも同様のスタイルを継承している。しかし、21世紀に入り、国の経済水準はさらに多様化し、中国の排出量が米国のそれを抜き、単純な二分類は現実とかい離してきた。先進国は、「経済水準の違いなどにより、国ごとに約束の厳しさやスタイルを変えること自体は差し支えないと考えるが、今までのような単純な二分類は時代遅れだ」と主張している。他方、途上国の多くは今までの二分類を支持し、上記の(1)(2)の議題において、附属書I、非附属書Iという分類を用いようとした。

この点に関して、リマ会合で決定された文書では、附属書I、非附属書Iという用語の使用は避け、先進国、途上国という書きぶりに統一されており、先進国の主張が反映された形となった。途上国にとっては、二分類が否定されたことになるが、発展の違いによる約束の差異化自体が否定されたわけではない。今後、パリ会合で合意が目指されている文書の中にどのような表現での差異化を先進国が提案できるかによって、途上国の歩み寄りの程度が違ってくるだろう。

5. 求められる約束草案とは?

日本国内の一部では約束草案が「自主目標」と呼ばれているように、今回の枠組みでは、各国内で決定された削減目標が、正式な協議の手続きを経ずにそのまま国の目標となる可能性が高い。このような気楽さからだろうか、少なくとも日本国内では、今まで削減目標を議論する際に必ず提起されていた「公平性」が、今回は聞かれない。他国の削減目標と比較した時の相対的な努力水準から目をそらし、国内事情だけで目標が検討されつつある。しかし、実際の交渉の現場では、今までと同様に公平性は重要な観点である。まして、先に述べたように、附属書I、非附属書I、という二分類からの卒業を途上国が受け入れるためには、二分類なくとも先進国が率先して対策を実施していく姿勢が示されなくてはならない。

ここ数年の間に公平性に関して公表された報告書の多くで、日本の近年の努力の順位は下位である(Bosetti and Frankel, 2014; Burck et al., 2014)。2011年以降のエネルギーミックスが原因かと思うと必ずしもそればかりではない。近年日本の人口が減っているため、一人当たり排出量で見た推移が思わしくない。今まで効率的と思っていた日本社会全体が少しずつ効率的でなくなっている。2020年以降に向けて大胆な技術導入や低炭素型まちづくりを掲げることで、排出削減し、国際交渉に貢献しながら、日本の活力を取り戻せないだろうか。

参考文献

  • Bosetti, V. and J. Frankel (2014) A Pre-Lima Scorecard for Evaluating which Countries are Doing their Fair Share in Pledged Carbon Cuts, Harvard Project on Climate Agreements, November 2014, Viewpoints.
  • Burck, J., F. Marten, C. Bals (2014) The Climate Change Performance Index: Results 2014, Think Tank 6 Research, Germanwatch & CAN Europe.

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