2015年8月号 [Vol.26 No.5] 通巻第297号 201508_297001

日本の目標の評価を実施、パリ合意に向けた議論も加速 〜SB42 温室効果ガスインベントリ関連の交渉概要報告〜

  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 畠中エルザ
  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 小坂尚史

2015年6月1〜11日に、ドイツ・ボンにおいて国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)第2回会合(第9部)、および第42回補助機関会合(科学上及び技術上の助言に関する補助機関会合:SBSTA42、実施に関する補助機関会合:SBI42)が開催された。以下、政府代表団による温室効果ガスインベントリ関連の交渉について概要を報告する。ADPやSBSTA、SBIの他事項に関する交渉の概要については、環境省の報道発表(http://www.env.go.jp/press/101071.html)等を参照されたい。

photo

写真1ようやく完成したボンの新会議場のエントランスホール。SB42の会場となった

1. 先進国の国際評価・審査

日本にとっての今次補助機関会合のハイライトは、6月4日に開催された多国間評価(Multilateral Assessment)ワーキンググループセッションだったと言えるだろう。SBIの下で実施される本セッションは、先進国の排出削減目標の達成に向けた進捗状況を評価する国際評価・審査(International Assessment and Review)プロセスの一環である。

当該プロセスは、2010年にメキシコ・カンクンで開催されたCOP16でその実施が合意された。先進国は、排出削減目標の達成に向けた進捗状況に関する情報を含む隔年報告書(Biennial Reports)を二年に一度提出することになっており、専門家審査チームは、その技術審査(Technical Review)を実施する。その後、公開で条約締約国間での評価作業を行う場が、先述の多国間評価であり、隔年報告書及びその技術審査報告書が多国間評価の重要な前提情報となる。なお、多国間評価終了後には記録が作成される。

多国間評価は、2014年12月の前回SBI会合時に初めて実施され、EUや、フランス、イタリア、アメリカを含む17カ国が対象とされた。今次会合では、6月4日、5日の2日間にわたりオーストラリアや、カナダ、ドイツ、ノルウェー、ロシア、英国、日本を含む24カ国を対象に行われ、前回同様、各国からのプレゼンの後、質疑応答が行われた。

日本からは、温室効果ガス排出量等の長期傾向や、東日本大震災による電源構成の変化、原子力発電所再稼働に向けた審査プロセスの概要、2020年の排出削減暫定目標、2020年の排出量予測、対策の概要、二国間クレジット制度[1]等についてプレゼンがなされた。質問も多く、2020年の暫定目標の見直し時期や方法、2020年までの原子力発電所の再稼働予定とその影響、二国間クレジットの活用予定量、方法論・クレジットの相手国との分配方法、クレジットの公平性・透明性の検証方法、排出削減対策の詳細、その効果の定量化の時期等、多岐にわたった。これに対し、中国から、2020年の暫定目標(2005年比3.8%減)が以前の目標(90年比25%減)から後退している等の厳しい指摘があった。ブラジルからは、対策の効果の定量化がきちんと行われていないことについて憂慮するというコメントがあった。

日本にとって、多国間評価ワーキンググループセッションに至るまでのプロセスの出発点は、2013年末の隔年報告書の提出であった。その後、昨年10月に専門家審査チームにより技術審査が実施され、その審査報告書が今年2月末に完成した後に、事前質問・回答の段階に移り、本セッションに至っている。そして、今、作業がようやく一山越えたばかりという状況ではあるが、次回の報告書の提出期限が、「隔年報告書」の名前のとおり、すでに来年の1月1日に迫っている。つまりかなり短いサイクルで、排出削減目標の達成に向けた進捗状況を報告し、説明を求められる仕組みが作られており、一巡しつつあることになる。

なお、今次SBI会合では、上記セッションの終了を待って、「国際評価・審査プロセスの第1ラウンド(2014〜2015年)の結果」という議題の下、議論も行われた。これは、前回SBI会合で実施された多国間評価ワーキンググループセッションを踏まえ、手続きの記録に留めるのではなく、より中身のある結論文書を作成したいとG77+中国が主張したことを受けて設けられた議題である。具体的には、ブラジルが先進各国の報告内容に不十分な点があることが認識されるべき等としたが、各国の意見が折り合わず、自動的に次回会合での継続検討となった。

2. 途上国の国際協議・分析

同じくカンクンにおいて合意された並立プロセスであり途上国の緩和行動の透明性の向上のために行われる国際協議・分析(International Consultation and Analysis)に目を転じると、そもそも昨年末の隔年更新報告書(Biennial Update Reports)の第一回提出期限に間に合ったのはブラジル、韓国、シンガポール、南ア、ベトナム等10カ国のみである。その後、アゼルバイジャン等数カ国が追加提出したが、150余の全途上国という母集団に比べればまだまだ数は少ない。今年2月までに提出した国については、5月に技術専門家チームによる技術分析(Technical Analysis)が実施されており、一チームにつき数カ国分をまとめて分析している。その報告書完成後、先進国と同様に、SBIの公開の場で「促進的な意見の共有(Facilitative Sharing of Views)」を行うこととなっている。交渉における妥協や配慮の結果、このような回りくどい表現になっているが、先進国に対する「多国間評価」の厳しさには及ばないとしても、各国からプレゼンが行われ、その他の国々がコメントするという構図は同様になるはずだ。なお、スケジュール面から言うと少しタイトだが、アメリカや日本を含むアンブレラグループは、当該「促進的な意見の共有」を今年のCOPからでも始めてもらいたいと要望しており、もし実現すればCOP21の目玉の追加となるだろう。

3. 排出削減約束を持たない国への京都議定書運用ルールの適用

その他の温室効果ガスインベントリ関連の重要議題としては、京都議定書から離脱はしていないものの、第二約束期間において削減約束を負っていない国々への、アカウンティング[2]・報告・審査に関する京都議定書運用ルールの適用をどうするかというものがあった。この議論は、第一約束期間に使用したルールを第二約束期間仕様に修正していく交渉の過程で、折に触れ行われてきたが、他の課題の議論が収束してきたため、ここでようやくまとめて行われることになったものである。対象国は、日本、ロシア、ニュージーランドのみであるが、その他の国もそれぞれの利害があり、積極的に交渉に参加している。例えば、EUは、第二約束期間に参加しない国にも参加国と遜色のない透明性を求めたい立場からなるべく第一約束期間中と概ね変わらない報告や審査の適用を求めている。日本を含めた、上記3カ国は、いずれも体制を整えて第一約束期間中に各種情報の報告・審査対応を行って来たため、実質的にはさほどの追加負担はないものの、それぞれの固有の事情で第二約束期間に参加しておらず、どのようにルールが適用されるべきかについて考え方が少しずつ異なる。対するEUや途上国各国もそれぞれの期待や牽制しておきたいポイントがあり、交渉は各国の合意できそうな共通項を探る作業となっている。細かな点が多くあるため、合意に至るにはまだ時間がかかりそうである。

4. 最後に

2020年以降の、先進国・途上国を含む、すべての国を包含する法的枠組みについての合意(パリ合意)を目指す年末のCOP21に向けて、議論が加速している。筆者らが交渉に関わったSBSTAやSBIの議題では、ここからはパリ合意のための議論の時間を優先的に確保すべきといった趣旨の発言が多く聞かれた。議長国となるフランスもその方向へ誘導している様子である。また、各国国内では、COP21の「十分に事前に(well in advance)提出すべき」とされている排出削減の約束草案(Intended Nationally Determined Contributions: INDC)未提出の国は、現在その準備に追われている。提出期限は、10月1日とされており、その後事務局が11月1日までに各国の約束草案の累積効果に関する統合報告書をとりまとめることになる。現段階では、EU、アメリカ、ロシア、カナダ、中国、韓国、ニュージーランド、オーストラリアなど26の国と地域が約束草案を提出している(8月11日時点)。日本の約束草案の政府原案もパブリックコメントを終え、7月17日に国連に提出したところである。

このような、世界全体でどれくらい排出量を減らせるかという根幹の課題を下支えするものとして、その透明性をどのように確保していくかという課題がある。上記したカンクン合意や京都議定書から生まれた既存の透明性確保の手段をどのようにパリ合意でも活かしていくか、あるいは、どのように整合をはかるかが、今後非常に重要になってくる。漏れも重複もない、効果的に機能する仕組みづくりがなされることを期待したい。

脚注

  1. 日本から途上国への、低炭素技術の普及等を通じた温室効果ガス排出削減・吸収への貢献を、二国間で定量的に評価し、日本の排出削減目標の達成に活用することを目指すメカニズム。日本が提案。
  2. 京都議定書では、削減約束の達成のために、当該国への初期割当、クリーン開発メカニズム、共同実施、森林等吸収源から得られた京都ユニットの取引を行うことができる。これらユニットの計上。遵守評価等に用いられる。

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP