2017年4月号 [Vol.28 No.1] 通巻第316号 201704_316003
AGU (American Geophysical Union) Fall Meeting 2016参加報告 3 2基の人工衛星による温室効果ガスの全球観測が導くこれからの温暖化研究
アメリカ地球物理学連合(American Geophysical Union: AGU)Fall Meetingは毎年12月に開催され、地球・宇宙科学の広範な分野の研究者、教育者、学生など24,000人以上が参加し、1,700以上のセッションで、最新の研究成果に関する口頭発表とポスター発表(合計20,000件以上)が行われる。
2016年12月12日から16日まで、サンフランシスコ(アメリカ)のモスコーンコンベンションセンターにおいて、第49回AGU Fall Meetingが開催された。地球環境研究センターの参加者のなかから3名が、先月号と今月号にわたり、それぞれの研究分野に関する動向を紹介する。
人為的な温室効果ガスの排出によって、地球の炭素循環にどのような変化が起きているのか、その変化がどのような影響をもたらすのか、さらにその影響をどのように緩和することができるのか、これらを正しく見定めるためには、過去から現在にわたっての炭素の貯蔵・フローについて、観測とモデリングを通して詳細に理解する必要がある。これまでこの目的のために、陸上の定点観測や船舶・航空機により長期にわたり蓄積された二酸化炭素(CO2)やメタンの観測データからこれらの気体の吸収排出量の全球分布を推定する試みがなされてきた。そして、宇宙からの観測によって観測範囲を拡大し、より精度の高い吸収排出量の推定を行うことを目指し、日本から温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)が2009年に打ち上げられ、以降8年にわたり観測が続けられている。さらに、2014年には米国のCO2観測衛星OCO-2が打ち上がり、現在この2基の人工衛星から得られるデータの解析研究が活発に進められている。今回のAGU大会では、Remote Sensing of CH4 and CO2 from Space: Moving toward an Observing System(宇宙からのメタン・CO2の観測—(組織的な)観測システムの構築へ向けて)とのタイトルのもと、計4つのセッションにおいてGOSATやOCO-2関連の最新研究結果や将来の衛星観測ミッションなどについて60件近くの口頭・ポスター発表が行われた。発表の内容は、(1) 衛星が観測した地表面反射光のデータからCO2・メタンの濃度を導出するためのアルゴリズムの研究 (2) 導出されたCO2・メタンの濃度を検証する研究 (3) 導出された濃度データを用いたCO2・メタンの地表面吸収排出量分布の推定やその他の応用研究 (4) 現在の衛星ミッションと計画中のミッションについての4つに大きく分類される。このうち、2つの分野でのGOSATに関する研究のハイライトを以下にまとめる。
1. 濃度導出アルゴリズム研究
米国コロラド州立大のC. O’Dellらは、これまで開発を進めてきたCO2導出アルゴリズムをGOSAT・OCO-2両方の観測データに適用し、単一のアルゴリズムから2通りのCO2濃度を導出した。両衛星の軌道・観測パターンの違いにより、得られる濃度データの地理的分布は大きく異なるが、時間的・地理的に観測地点が近いCO2濃度データ(±2時間、±緯度2度、±経度3度の範囲内で2014〜2016年の期間)を比較したところ、非常に良く一致することを確認した(差の標準偏差は約1.4ppm)。ただし、海洋の高緯度地域や熱帯地域、先進国地域の一部では濃度の差が開くところも見られたため、得られた結果について今後さらに精査し、OCO-2によるCO2濃度のバイアスの補正方法について検討を進めるとのことであった。GOSAT-OCO-2間の濃度差がさらに縮まるようになると、両衛星によるCO2データを全球吸収排出量推定に併用できるようになると期待される。
2. 導出濃度データの応用研究
国立環境研究所のR. Janardananらは、CO2排出量削減の将来計画を立てる上で重要となる人為的CO2排出量のインベントリデータを、インベントリとは独立したGOSATによるCO2濃度データを使用して検証する手法を確立し、今回、2009〜2012年の期間のCO2排出量インベントリ(0.1度格子での人為的CO2排出量)について調査を行った。この手法では、まずこのインベントリデータを使ってCO2濃度のシミュレーションを行い、GOSATの各観測地点において、人為的CO2排出がその地点のCO2濃度の上昇にどの程度寄与するかを調べる(値①)。そして、GOSATによるCO2観測濃度から森林による呼吸・放出や森林火災によるCO2濃度上昇への寄与分(シミュレーションにより算出)とCO2背景濃度を差し引くことでGOSATが捉えた「人為的CO2排出によるCO2濃度上昇」(値②)を求める。値①と値②を地域ごとに比べると、インベントリの不確実性が比較的大きな中国・インドを含む東アジア地域で顕著な違いが見られた。この地域では、値② / 値① > 1で、インベントリによるCO2排出の推計が低めであることを示唆した(その他の地域では≒1)。この研究によって、GOSATの観測データが吸収排出量の推定のみならず、人為的CO2排出量インベントリの調査にも役立てられる可能性が示唆された。
*AGU (American Geophysical Union) Fall Meeting 2016参加報告 [1] および [2] は地球環境研究センターニュース3月号に掲載しています。
AGU Fall Meetingに関するこれまでの記事は以下からご覧いただけます。
- 平野高司「AGU2001年度秋季大会報告—炭素循環と陸上生態系に関する研究の動向について—」2002年2月号
- AGU (American Geophysical Union) Fall Meeting 2005参加報告
- 井上誠「AGU Fall Meeting 2011参加報告—航空機と衛星リモートセンシングによる大気観測の動向—」2012年2月号
- 大森裕子・工藤慎治「さまざまな分野の垣根を越えた研究者同士の交流を体験して」2013年2月号
- 野田響「陸域生態系リモートセンシングの動向—AGU Fall Meeting参加報告」2015年3月号