2017年4月号 [Vol.28 No.1] 通巻第316号 201704_316006

地球環境研究センターの活動に期待することを住明正理事長に聞きました

  • 地球環境研究センターニュース編集局

国立環境研究所住明正理事長(理事(2012年10月から)および現職(2013年4月から))に、これからの地球環境研究センターの活動に期待することなどを、地球環境研究センターニュース編集局がうかがいました。

photo

*このインタビューは2017年2月15日に行われました。

編集局

地球環境研究センター(以下、CGER)のこれまで活動について、印象に残っていること、感じていることなどをお聞かせください。

CGERの性質が1990年の設立当初と変わってきているので、そのあたりをよく考えた方がよいでしょう。CGER設立時の目的は、基盤的な研究と離れて、地球環境データベースや地球環境モニタリングなど事業的なものを進めることでした。それが第3期中期計画(2011〜2015年度)で研究が入ってきために、事業的なものと研究的なものとの間でうまく整理がなされてないという印象があります。手を広げるときは新しく始めればいいので比較的簡単ですが、これらを維持していくのにはそれに伴う体力が必要です。2016年度に始まった第4期中長期計画では研究事業連携部門をつくりましたが、その一つである衛星観測は相当数の人が仕事をしないと回っていきません。衛星観測で得たデータを利用する研究者がたくさんいますから、中核となって衛星システムを維持していく人たちを育てていく必要があります。モニタリングも同様で、始めたときは研究目的でよいのですが、維持しようとするとそれだけではだめなんです。その仕組みをどうするかというのがカギだと思います。個人的な意見としては、CGERだけでなく、国立環境研究所(以下、国環研)は事業的な側面を強化していくほうがよいと思います。さらに、現在いわれている具体的なアプリケーション、政策的な対応も大事です。大学の研究者は政策に影響力なんてなかなか及ぼせませんが、国環研は環境省と連携しているので、影響力を及ぼしやすい立ち位置にあります。ですから、現実的なことを進めるというのがこれからの課題だと思います。現在は、知識がいくらあっても具体的な行動が伴わなければ意味がないという風潮になっています。それは結構正しいのです。しかし、製品開発などと違い、社会的なアクションは評価が難しく、しかも評価が分かれることが多いです。人の価値判断は多様ですから。そういうなかでどの程度評価するかというのはこれからのカギだと思います。低炭素研究プログラムは、CGERと社会環境システム研究センターが共同で進めるようになっています。基礎的な観測から社会への応用までを含めた大きなプログラムで、組織的にどうまとめていくのかが課題だと思います。

編集局

地球温暖化だけで世の中の気候が変わっているかのように報道されますが、多くの人が暮らす都市では、ヒートアイランドなど廃熱の問題も地球温暖化と相乗的に影響していますね。しかし、ヒートアイランドの研究は国環研ではあまり行われていません。

全部をカバーできませんから、適宜やるということだと思います。結局、研究所としての管理・運営が一番問題です。国環研はエコチル調査コアセンター(子どもの健康と環境に関する全国調査)など多様な分野を含んでいますから、組織の運営が非常に難しいです。CGERはCGERのアイデンティティは何かというのをよく考えた方がいいと思います。

photo
編集局

以前、とある大学進学の予備校が出した大学のガイドのなかに面白い記述がありました。環境問題を勉強したい人はこういう大学に進学するのがお薦めのようなことが書かれてあったのですが、東京大学はコンピュータシミュレーションに力を入れていて、国環研と協力している。京都大学は社会的な側面をモデル化して国環研と協力している。国環研は分野をうまくわけて、大学と協力をしている研究所という表現でした。先ほどCGERのアイデンティティとおっしゃいましたけど、大学との戦略的連携というのはあり得るでしょうか。

CGERができた頃、スーパーコンピュータを導入してグローバルな気候モデルを作り、温暖化対策を進めることになりました。しかし、国環研にはそのための研究者が少なかったので、東京大学に丸投げする形で一緒に研究するという判断を経営陣がしたところが立派でした。国環研の研究者を自由に使っていい、いっさい口を出さないというのは、なかなかの大英断だったと思います。今よりCGERを設立したときのほうがはるかに戦略的でした。

編集局

CGERではビデオでの解説シリーズ(ココが知りたいパリ協定 http://www.cger.nies.go.jp/ja/cop21/)のYouTubeからの配信、フェイスブック(https://www.facebook.com/niescger)でのCGERニュース記事メイキングビデオアップロードなど、研究者が直接語りかけるコンテンツを導入しています。理事長からのアドバイスも踏まえて取り組んでいるつもりですが、さらなるアドバイスがあれば是非お聞かせください。

YouTubeで見ると、アメリカのレクチャーみたいなものはものすごくできがいいです。日本のものはもうちょっと魅力的なデザインにならないかなと思います。CGERのコンテンツをYouTube化したのは、記事を読んで下さいというのではなく、短いスポット的に見られるので、非常にいいと思います。

編集局

最近はヘッドギアをして音や画像を体験できるものが流行っています。そういうものも取り入れてみたいのですが、最終的にはアメリカのレクチャーみたいなものを目指したいと思います。

マスメディアのなかにはビジュアル的に高いスキルをもっているところがありますから、そういうところと一緒に番組作りをやって、その画像を使わせていただくのもいい方法だと思いますね。

photo
編集局

春と夏の研究所の一般公開のパネルディスカッションでは、パネリストとして毎日新聞の記者にも出ていただいています。ビジュアル的に強みをもっているマスメディアにもアプローチしていきたいと思います。

ところで、若い研究者がいい研究をするというのは昔から言われていますが、若い世代と上手にコミュニケーションをとり、若い人の力を引き出す秘訣のようなものがあれば教えてください。

今の若い人は優秀だと私は思いますから、何でも好きにやっていただくほうがいいでしょう。そして、私たちは愛される年寄りになればいいのではないでしょうか。

編集局

具体的にはどういうふうにすればいいのですか。

甘やかすのではなく、若い人の可能性を広げるような方向に私たちは働いた方がいいです。そして若い人にポジションを提供して、チャンスを与えるべきです。

編集局

最後に、これからの地球環境研究について、CGERへの期待も含めてアドバイスをお願いします。CGERは地球温暖化以外にもUVのデータを提供する業務などを行っています。

地球観測で難しいのは、必要とされるものがその時々で限られていることです。たとえば長期間の気候データが必要ですが、測っている途中では全部必要だとは誰も言いません。必要になったときに昔のデータはありませんかと言ってくるのです。世間というのは非常に勝手ですが、それを言っても仕方がないので、きちんとするのが仕事です。たとえば、オゾン観測は利用先を考えながら業務化した方がいいと思います。問題は気象庁の観測と何が違うのかというところです。

編集局

CGERの役割としては、仕分けを期待されているのでしょうか。

どんな事業でも同じですが、立ち上げのときに小規模で始めるのですが、ある程度軌道にのると必ず危機がきます。事業的に展開していかなければなりませんから。CGERもある程度成熟し、事業フェーズに入ってきています。そういう段階に合っている人がいるはずです。立ち上げにかかわった人は次の立ち上げに回すべきです。ものごとを始めるということと続けていくということはまったく違う才能が求められるということを明確に意識したほうがいいです。

photo

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP