2017年10月号 [Vol.28 No.7] 通巻第322号 201710_322007

最近の研究成果 グローバルな土壌の粘土鉱物データセットの開発 —土壌中の物質循環や大気微粒子の研究への貢献を目指して—

  • 地球環境研究センター 物質循環モデリング・解析研究室 主任研究員 伊藤昭彦

粘土と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは粘土細工や陶器の材料ではないでしょうか。土壌学的には、粘土は大きさが2ミクロン(10−6m、1ミリメートルの千分の一)以下の鉱物粒子と定義され、それより大きい砂粒や砂利(礫)とは区別されます。つまり、非常に小さい粒子ですが、水と混じると粘り気を生じて変形しやすい特徴的な性質(粘性や可塑性)を示し、土壌の中では水や様々な物質(有機物や栄養塩など)と相互作用を行う重要な役割を果たしています。また、沙漠などの乾燥地では、粘り気を失い、風に飛ばされてダストと呼ばれる大気中を浮遊する微粒子(その一例が黄砂)となり、日射の散乱や雲の形成、化学反応などにより気候にも影響を与えていると考えられています。

土壌中の粘土鉱物が世界でどのように分布しているかは、これまでの土壌調査により大まかには推定されていましたが、グローバルなモデル計算に使えるようなデータセットにはなっていませんでした。そこで本研究では、多くの文献から土壌の粘土鉱物の割合に関するデータを抽出し、それを集計して解析することで、グローバルなデータセットを構築しました。一口に粘土鉱物と言っても、化学組成や立体的な構造そして土壌中での振る舞いが異なる多数の種類があり、主要な9種類とその他に分ける区分を採用しました[1]。また、土壌の種類によって粘土鉱物の組成が異なりますので、ここでは米国土壌学会が提唱している世界の土壌を12種類(ただし粘土がない泥炭地に多い1種類を除く)にタイプ分けしたものを分類に使用しました。論文などの文献から読み取った実測値を注意深く集計し、土壌タイプごとの粘土鉱物の割合を示したのが図1です。そして、世界の土壌タイプや性質に関するデータベースも組み合せ、地理的な分布として示したのが図2です。これらから、どの種類の粘土鉱物が多く分布しているかを場所ごとに決めることが可能になりました。その結果は、一般に公開されている研究データサイトに登録され[2]、研究目的には自由に利用可能です。

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図1土壌タイプごとの粘土鉱物[1]の組成。(a) 地表から深さ30cmまでの浅い部分(topsoil)、(b) 土壌の30cmより深い部分(subsoil)の結果。横軸は米国土壌学会による土壌タイプ。エラーバーは推定による不確実性の大きさを示す

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図2本研究で得られた粘土鉱物の種類ごと[1]の分布。2列について、左のカラムが地表から深さ30cmまでの浅い部分(topsoil)、右のカラムが土壌の30cmより深い部分(subsoil)

本データベースを用いることで、従来の炭素循環モデルや気候モデルで不確実性が大きかった土壌の生物地球化学的性質をより詳細かつ空間的に決めることが可能になり、予測精度の向上にも貢献すると期待されます。今後はさらに実測データを集積して精度を高めるとともに、物質循環モデルや気候モデルへの応用を進めていきます。

脚注

  1. 粘土鉱物の種類:ここでは粘土鉱物をギブサイト(Gibbsite)、カオリナイト(Kaolinite)、イライト/雲母(Illite/mica)、スメクタイト(Smectite)、バーミキュライト(Vermiculite)、クロライト(Chlorite)、鉄酸化物(Fe oxide)、水晶(Quartz)、非晶質(Non-crystalline)、その他(Others)に区分しました。これらの化学組成や立体構造の違いは土壌学の教科書(例えば環境土壌物理学(ダニエル・ヒレル)など)をご参照下さい。
  2. 次の科学データレポジトリから、使用条件の範囲内でデータを入手し利用可能です。 https://doi.pangaea.de/10.1594/PANGAEA.868929

本研究の論文情報

Global distribution of clay-size minerals on land surface for biogeochemical and climatological studies
著者: Ito, A., and Wagai, R.
掲載誌: Scientific Data, 4, doi: 10.1038/sdata.2017.103.

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