2019年8月号 [Vol.30 No.5] 通巻第344号 201908_344003

顕在化する温暖化影響と気候変動適応策の研究は喫緊の課題 —一般公開シンポジウム「気候変動影響研究と対策の最前線」参加報告—

  • 地球環境研究センター 研究調整主幹 広兼克憲

1. 概要

2019年5月、京都でIPCC(気候変動に関する政府間会合)第49回総会が開催される機会に、IPCCでの最新の議論、気候変動影響研究と対策がどのような状況にあるかを紹介し、最終年度を迎える環境省環境研究総合推進費戦略研究プロジェクトS-14(気候変動の緩和策と適応策の統合的戦略研究)の知見がどのように貢献できるかを市民にわかりやすく伝える一般公開シンポジウムが開催されましたのでその内容をご紹介します。

シンポジウムの開催概要
日時:2019年5月8日(水) 15:00〜17:00
場所:京都市国際交流会館イベントホール
参加者:報道関係者含め約100名

2. 多分野にわたる研究の相互関係を冒頭に提示

シンポジウム冒頭、沖大幹東京大学教授(S-14研究代表者)が登壇し、これから登場する5人の研究者の講演内容と研究の立ち位置を1枚のスライド(図1)で説明しました。参加者には非専門家も多く、それぞれの講演内容の相互関係などは通常知り得ませんから、この説明は導入として適切だったと思います。ドラマや映画を観る際に「登場人物相関図」のような絵があると理解が深まりますが、研究発表会でも同様であると感じました。

図1沖教授の講演紹介スライド(講演者の写真とともにテーマの中でのそれぞれの立ち位置を示す。数字はs-14のサブテーマ)

3. IPCC共同議長ハンス博士による基調講演

5人の研究者による講演に先立ち、京都で総会が開催されているIPCCより、気候変動影響に関わりの深い第2作業部会の共同議長であるハンス・ポートナー博士が最新の成果を紹介しました。その内容は多岐にわたりますが、特に強調されたのは「地球温暖化による温度上昇が今世紀末までに1.5°C未満に抑えられたとしても、サンゴ等の脆弱な生態系への大きな影響は避けられない。さらにその後も海面上昇が継続し、西暦2300年には約1mにも及ぶ。」という点でした。

図2ハンス博士のスライドより

4. 各講演者の講演概要

(1) 世界全体では気候変動対策にいくらかかるのか?(平林由希子芝浦工業大学教授)

気温上昇がもたらす気候変動、たとえば豪雨による洪水に対応するため、河川堤防に莫大な投資が必要になります。研究成果として、2020–2100年の期間、一番温暖化が進んだシナリオの場合、1年あたり世界で16兆円もの追加投資が河川堤防整備に必要(現在と同程度まで被害リスクを低減する場合)と試算されています。また、健康被害に関して熱中症が着目されています。最近の日本において、熱中症による死亡の7〜8割が高齢者で、かつその多くが室内でエアコンを使用していなかったこと、適応策としての空調(エアコン)が9割以上普及している日本においても熱中症を防ぐことができないことが報告されました。

(2) 気候変動対策と自然保護は両立するか?(松田裕之横浜国立大学教授)

生態学者の議論では、自然が損なわれることを議論することが多いです。気候変動対策をすることで自然を損なう可能性もあって、たとえば、日本でも風力発電施設が鳥に被害を与えるため反対との意見もあります。

環境省が2010年にまとめた「生物多様性総合評価」において絶滅の危機のある動植物の減少要因を専門家にアンケート調査した際、「気候変動」は要因の選択肢にすら入っていなかったとの報告がありました(図)。しかしこれは過去のことであって、先のハンス博士の報告にもあったように、気候変動によるサンゴへの影響などは現在では広く知られるようになっており、今後も気候変動の生態系への影響は注目されると思います。

(3) 暑くなる地球と都市、どう適応するか?(神田学東京工業大学教授)

地球と都市の温暖化という2つの温暖化があります。都市の廃熱によるヒートアイランドにより、都市域においては地球温暖化による気温上昇以上の温度上昇がひき起こされています。途上国の大都市では冷房などの適応策が十分でないため、暑熱による直接的な健康影響が懸念されるという報告がありました。神田教授は、地球温暖化を科学的に議論する際に「気候変動研究では地球温暖化の影響のみに着目するため、局所的な都市の温暖化(ヒートアイランドによる熱上昇)は、これまで地球温暖化のノイズとして注意深く除かれてきた」として温暖化とヒートアイランドが別に議論されていることを指摘したうえで、人が多く住む都市における暑熱影響は地球温暖化によるものでもヒートアイランドでも区別なく相乗的に及ぼされるため、総合的な影響研究が必要です、と解説しました。

筆者の感想としては、特に今後電気自動車が都市に普及すれば、これまでの内燃機関(エンジン)による廃熱よりも放熱が少なくなるため、ヒートアイランドが緩和されると予想されるとの報告は新鮮でした。

(4) 世界の温室効果ガス、どこまで減らせばよいのか?(肱岡靖明国環研気候変動適応センター副センター長)

IPCCはこれまでに排出された温室効果ガスの累積量によってどこまで気温が上昇するか決まることを示しました。気候変動の影響を回避するため、必要な温室効果ガスの削減量とそのための投資額を貨幣価値であらわすことも必要になってきます。そこでこの研究では、地域別、影響分野別に温暖化の影響や対策費用を貨幣価値で示すことにより、正確な経済影響の把握に取り組んできました。

また、2°C目標を達成できる代表的濃度経路であるRCP2.6シナリオでも、世界の途上国が貧困なまま、教育水準も環境意識も向上しない社会経済状態のもと(SSP3:分断)では著しい気候変動影響が発生してしまう可能性があると指摘しました。

(5) 温室効果ガスの排出削減と温暖化の被害軽減のバランスは?(沖大幹東京大学教授)

世界で10億トンのCO2(日本が1年に排出するCO2は11.5億トン@2015年度)を追加的に排出すると、温室効果増大により世界の平均気温が毎年0.0005°C上昇します。世界全体は日本の約33倍の排出をしていますから、1年あたり0.016°C世界平均気温が上昇する計算です。これからも各国で排出が増えることが見込まれ、場合によっては今世紀末までに4°C以上の温暖化になり、それによる大きな影響が生じると懸念されています。たとえば、10億トンの排出がもたらす温暖化による健康被害は2–3万人のヒトの死亡に相当すると試算されています。緩和策と適応策を検討するにあたっては、様々なことを同時に総合的に考える必要があり、金銭的な評価のみならず、人間の幸福度のような評価軸も含めて、その組み合わせの検討が必要です。このプロジェクトではあと1年ぐらいかけてこのあたりを研究としてさらに進め、明らかにしていきたいと考えています。

5. パネルディスカッションの概要

パネルディスカッションでは講演者とハンス博士がパネリストになり、議論の総括とともに、スライドに大きく論点を示しつつ、適応・緩和費用の側面について議論するとともに、会場からの質問等に回答しました(写真)。

冒頭、ハンス博士は、今後持続可能な開発目標を達成しながら気候変動の対策も実施していかなければならないが、気候変動の対策・影響や適応に関しての不平等、つまり貧しい国と豊かな国の格差があることを指摘しました。豊かな国では空調を使用できる人や避暑地で過ごせる人もいますが貧しい国ではそれができない場合もあるのだということを紹介しました。

その後、エネルギー供給や使用をカーボンフリーなものにするためにはどうすれば良いかなど、幅広いディスカッションが行われました。

写真パネルディスカッションの様子(写真提供: 東京大学(S-14事務局))

6. 最後に

地球温暖化の科学的側面(モニタリングされた事実、仮定に基づく将来予測)についてはかなりの研究成果がシンポジウム等で報告されてきましたが、今回のように、対策を講じた場合の影響や、適応に関する各分野に関して幅広い観点から研究の状況を紹介するシンポジウムは少なかったと思います。温暖化はもはや他人事ではなく、緩和・適応の費用対効果も考慮し、持続可能性の観点から議論していくステージにきていることを実感しました。

また、野生動植物への影響に関しては、今まであまり多くの研究報告がないようにも感じましたが、近年、生物多様性条約のもとでIPCCと同様の取り組み(生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES))がなされていますから、今後多くの知見が明らかにされてくるものと思います。

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP