2019年8月号 [Vol.30 No.5] 通巻第344号 201908_344005
地球環境モニタリングステーション落石岬設置25周年および令和元年度エコスクール・地球環境モニタリングステーション落石岬見学会報告
1. 地球環境モニタリングステーション落石岬設置25周年
モニタリングステーションとは
地球環境モニタリングステーション落石岬(以下、ステーションまたは落石岬ステーションという)は、日本の北方における大気中の温室効果ガスや関連物質の長期観測を行う目的で1994年6月に北海道根室市にある落石岬の先端付近に設置され、1995年より二酸化炭素(CO2)濃度などの観測が本格的に開始されました。写真1に落石岬の全景を示します。手前に見える観測タワーを伴った小さな建物がステーションです。落石岬地区は天然記念物のサカイツツジの自生地があることなどから北海道の自然保護地域に指定されており、一般の車両は進入できません。このことはステーションの設営や維持にとって不便な点ではありますが、人為汚染の影響をできるだけ排除したバックグラウンド大気を観測するという点では理想的な場所といえます。
20周年から現在まで
落石岬ステーションの設置20周年までのあゆみは既に地球環境研究センターニュースに詳しく記してありますので(「地球環境モニタリングステーション落石岬20周年 [7] 沿革」2014年9月号)、ここではそれ以降の出来事を順に紹介します。
設置20周年である2014年は落石岬で観測されたCO2濃度の年平均値が初めて400ppmを超えてしまった年で、残念な意味でのマイルストーンでした。落石岬のCO2濃度はその後も上昇を続け、2018年の年平均値は411.6ppmに達しています。
落石岬ステーションは地元の方々の環境意識の向上や環境教育に利用されており、地元落石地区の小学生を対象としたエコスクールを毎年開催するほか(今年度のエコスクールはこの報告の後半で紹介します)、2014年9月には第10回大地みらいフットパス・ウォークの一環としてステーションの公開を行いました。このイベントは、歩きながら自然を楽しむフットパスのコースの1つに落石岬が設定されたことを機会としたものでしたが、1日で100人以上の一般の参加者にステーションでの観測活動や観測結果を見ていただきました。エコスクールでは小学生とその関係者のみに見学をしていただいていますが、大人も含めた市民の皆さんにステーションを理解していただく大変良い機会でした。
この5年間は自然現象への対応にも悩まされました。2014年12月には発達した低気圧(爆弾低気圧)による強風によって停電が発生しました。強風による電線の破断は2016年5月にも発生し、北海道電力と調整しながら電線の補強工事を実施してもらいました。2016年と2018年には大雨により落石岬内の道路土砂が崩落してしまう災害が発生しました。岬内は自然保護地域ですので、いずれの場合も根室市教育委員会と連絡を取りながら道路を補修して、安全な通行を確保しました。
施設関係でも5年間で大きな進歩がありました。ステーションの通信環境は以前はISDNという遅い回線を使っていましたが、2015年からはLTE(NTT docomoの4G回線)が開通し、データ転送だけでなくウェブカメラの監視によって保守作業の効率も向上しました。2018年には照明をLED化して一層の省電力化ができました。高さ50mの観測鉄塔の補修は単年度予算でまかなえる規模ではありませんので、2018年に長期的な保守方針を策定して確実な維持ができる体制を構築し、現在に至っています。
(町田敏暢)
2. 令和元年度エコスクール・地球環境モニタリングステーション落石岬見学会
はじめに
令和元年度のエコスクールは6月6日(木)に開催されました。国立環境研究所(以下、国環研という)地球環境研究センターは、北海道根室振興局ならびに根室市の要請を受けて、1998年より毎年6月にエコスクールを開催しています。21年目の今年は、根室市立落石小学校の5、6年生の18名が参加しました。私(久保園)は、国環研に入所して2年目の広報室職員として、ステーションで行われている研究を学ぶとともにエコスクールに参加する子どもたちに国環研の活動を伝えるために参加しました。当日は地球環境研究センターから町田室長と広兼研究調整主幹と小野係長が、企画部広報室から成田カメラマンが参加しました。当初、エコスクールを予定していた6月5日(水)はあいにくの雨でしたが、翌日6月6日(木)は晴天に恵まれ、絶好のエコスクール日和となりました。
ステーション見学
エコスクールの前半では、普段は見ることのできないステーション内部に潜入し、ステーションで行われている観測について学びます。落石岬は、国内唯一のサカイツツジの自生地として有名で、約半数の児童は既に落石岬を訪れたことがあるとのことでした。
落石岬入り口のゲートから岬を20分ほど歩くと、約50mのタワーが見えてきます。これがステーションの大気を採取するためのタワーです。ステーションの左手には、大きな太陽光パネルがあります。この太陽光パネルがステーションの約10%の電力を担っています。
ステーションでは、町田室長より、観測機器が様々な気体を測定していること、観測データは世界中の研究に役立っていることなどの説明を受けました。子どもたちは説明のメモを取りながら、真剣に耳を傾けていました。
私たち人間が出したCO2の約半分は、海や陸上生態系が吸収しています。このうち、海水にCO2が溶けることを目で見て実感することができる実験を行いました。私も町田室長のアシスタントとして、子どもたちの前で実験を行いました。子どもたちは、地球の海がCO2を吸収していることを理解してくれたようです。町田室長より、家族に向けて今回の実験を実演するよう宿題が出ていました。
自転車発電
エコスクールの後半は、落石小学校へ戻り、地元の地球温暖化防止活動推進員からの講義と国環研職員説明による自転車発電を体験しました。普段何気なく使っている電気ですが、実はかなりのエネルギーが必要なことを体感でき、子どもたちは電気の大切さを感じることができたのではないかと思います。
エコスクールを通して感じたこと
落石の方々は、海のすぐそばに住み、海と密接な関わりを持ちながら生活していて、まさに里海を体現していました。ちょうど昆布漁のシーズンで、地区の至る所で昆布を干していました。初めて訪れた場所ですが、すっかり落石の魅力に虜になりました。
今回のエコスクールでは、広報担当者として、地元の子どもたちに密着した研究広報の手法を学ぶことができました。また、子どもたちへの説明を通して、私自身も大気観測の知見が深まり、国環研の果たすべき役割の広さを知ることができました。
ステーションは地元の理解と協力のおかげで、24年間にわたる観測を存続できています。落石岬には、雄大な草原、断崖絶壁に打ち付ける波、水芭蕉の生い茂る湿原、草の間からこちらを見つめるキツネや鹿など、独特な地形に合わせた多様な自然環境が広がっています。将来にわたって、この素晴らしい落石の自然を守りつつ、ステーションでの観測を継続していくためには、地元はもちろん、世界中に成果を発信し、ステーションへの理解者を増やす必要があると感じました。
国環研では、今年の4月の春の環境講座において、ニコニコ生放送で、気候変動について考える対話イベントと研究所潜入ツアーをライブ配信しました(https://live.nicovideo.jp/watch/lv318957159)。これは私の個人的な願望ですが、いつか落石エコスクールの様子をライブ配信して、落石の地元の方々だけではなく、遠方の方にもステーションを訪れた気持ちを味わっていただければと思っております。
最後に、国環研にこのような貴重な機会を提供いただいた北海道根室振興局、根室市、そして地元の方々に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。
(久保園遥)