REPORT2021年9月号 Vol. 32 No. 6(通巻370号)

豪雨の正体に迫る 大気の川×線状降水帯 第8回気象サイエンスカフェつくば報告

  • 石崎紀子(気候変動適応センター気候変動影響評価研究室 主任研究員)

みなさんは、気象サイエンスカフェをご存じでしょうか。気象サイエンスカフェは、日本気象学会と日本気象予報士会が共催する「気象の専門家や有識者」と一般の方との科学コミュニケーションの場です。2006年春に東京でスタートし、気象学会・予報士会の各支部を中心に全国各地で開催されています。どなたでも楽しく参加していただけるよう、「わかりやすさ」と「楽しさ」を大切にしています。今回は、2021年5月29日につくばからオンラインで開催された気象サイエンスカフェについてご報告します。

写真 国立環境研究所から配信した5月29日の気象サイエンスカフェの様子

毎年、日本各地で豪雨が発生し、土砂崩れや河川の氾濫、家屋の浸水などの甚大な災害がもたらされています。この豪雨発生に関わる、スケールの異なる2つの現象に着目して、「豪雨の正体に迫る 大気の川×線状降水帯」と題して筑波大学の釜江陽一さん(元地球環境研究センター気候モデリング・解析研究室 特別研究員)と気象庁気象研究所の廣川康隆さんに話題提供をしていただきました。そして、ファシリテーターを国立環境研究所社会対話・協働推進オフィスの岩崎茜さんに務めていただきました。

1つ目の現象は、大きなスケールで見たときに、豪雨の発生時に大量の水蒸気をもたらす「大気の川」です。筑波大学の釜江さんは、この大気の川に関連する研究をしてきた専門家です。その定義は、「水蒸気量またはその輸送量が顕著な領域が細長く存在するもの」とのことで、日本では夏によく発生します。

平均的な夏の場合、私たちの頭上には液体の水に換算して約4cm分の深さになる水蒸気がありますが、猛烈な雨が降るとわずか30分でその水蒸気はなくなってしまいます。このことからも、豪雨の発生には大量の水蒸気流入が関係していることが推測されます。令和2年7月豪雨のときも、低緯度の湿った空気が川の流れのように流入していたことが関係していたそうです。温暖化時に大気の川の通過頻度が高くなるとみられることも示されており、豪雨への備えや早めの避難の重要性を示す印象的な研究結果でした。

2つ目は、豪雨をもたらす原因として、「線状降水帯」という現象に着目したお話です。線状降水帯は令和2年7月豪雨でも確認されるなど、これまでの豪雨災害でもしばしば出現し、短時間で状況を悪化させる原因となっていました。そのため気象庁は、線状降水帯による大雨が確認された場合に厳重な警戒を呼び掛けるため、「顕著な大雨に関する情報」を出すことを決定し、その運用が今年の6月17日から始まりました。

今回のサイエンスカフェは、この運用開始がニュースになった時期なので、参加者の関心も高いようでした。大気下層に大量の水蒸気が流入していること(大気の川との関連)や、大気が不安定な状況などが線状降水帯の形成に必要な条件としてわかってきているそうですが、それらがどの程度条件を満たすと形成されるのかは、まだ十分にわかっておらず、的確な予測は難しいのだそうです。

コロナ禍により、気象サイエンスカフェをオンラインで実施することが多くなっています。気象学会・予報士会では、少しでも双方向コミュニケーションができるような工夫をしており、今回は選択式のクイズコーナーを設けたり、質問コーナーの時間をたくさん取って、ゲストスピーカーのお二人には、ほぼすべての質問に対応していただきました。事後アンケートでは、満足していただけた参加者が多かったようで、スタッフとしても一安心でした。

ゲストスピーカーに提供いただいた当日のスライド資料は、日本気象学会のウェブサイトからご覧いだけます。
https://www.metsoc.jp/about/educational_activities/science_cafe

今回の気象サイエンスカフェ開催後、今年も梅雨末期にかけて各地で豪雨が起こり、様々な被害が発生しています。豪雨を引き起こす原因を知ることで、豪雨への備えへの関心が高まったことを願っています。また、更なる研究により、予測の精度が高まることも期待されます。今後も、最新の研究結果をわかりやすく一般の方に届ける場を提供していきたいと思います。

気象サイエンスカフェのテーマは毎回各支部で決定しています。災害に関係する話や地球温暖化の話、様々な観測の話…。セミナーではないので、素朴な疑問を質問したり、議論することができるのがサイエンスカフェのいいところです。扱ってほしいテーマがありましたら、ぜひ気象サイエンスカフェに参加してリクエストをしてみてください。http://meteocafe.blogspot.com/