新しく結成されたレポーターチーム(シアン[Cyan]、みどり[Green]、えんじ[Enzi]、レッド[Red]:CGER探検隊)が毎回研究現場に出向きその活動を紹介してまいります。
第一回は、炭素循環研究室で南の島の西表島で何か風船を飛ばして面白そうな観測実験をするらしい、ということで、レポータのシアン(Cyan)がその様子を取材し研究の現場を紹介します。
西表島は島の90%が亜熱帯の原生林に覆われています。ジャングルが海岸線近くまで迫っていて、平地はほとんどありません。仲間川をはじめ大小40以上の川があり、河口から10kmあたりまでの海水と淡水が混じる汽水域には広大なマングローブ林が広がり、特異な根や胎生種子などが見られます。また天然記念物のイリオモテヤマネコをはじめカンムリワシ、セマルハコガメなど珍しい動物も生息しています。西表島は豊潤な亜熱帯と太古の野生がそのままの姿で息づいている島です。
今回の実験をコーディネートしたのは、炭素循環研究室の野村特別研究員です。野村さんに、ちょっとお話をお伺いしてみましょう。
野村さん、今回この島で、夜明けと昼すぎに風船を上げてなにか観測するそうですが、なんでそんなに朝早くから実験がおこなわれるんですか? 野村さんが朝型だからですか?
いえ、違います。いえ、そうかもしれません。
どっちですか!?
今回の観測は二酸化炭素の森林の吸収量を調べたいのです。夜の間は森林が二酸化炭素を吸収しませんね。でも昼間は植物が光合成をやって二酸化炭素を吸収します……
ちょっ、ちょっと待ってください。もう少し、わかるように説明してください。
そうですね。まず、森でなくともいいのですが植物は二酸化炭素(CO2)を吸収して成長します。二酸化炭素はわかりますか?
わかります。私たち空気の酸素を吸って、二酸化炭素は吐き出してるってやつですよね。スーハー、スーハー。
ああ、シアンさん、やらなくてもいいですよ。それは呼吸ですね。植物も動物も呼吸します。夜の間には地上の植物を含む生き物が呼吸して、二酸化炭素を出すんです。大気中には二酸化炭素濃度が上昇します。ところが、昼間は植物が光合成で二酸化炭素の吸収が起こるので、大気の二酸化炭素濃度が減るはずです。
そうですか。それがなぜ問題なんですか?
それが、実は大問題なのです。我々の出した二酸化炭素が空気中に増えてしまうと、将来地球が温暖化するということを聞いたことがあると思います。でも、森林というものは二酸化炭素を少し吸収してくれていると研究の世界では考えています。しかし、実際どこの森がどれだけ吸収しているのかっていうのは、なかなか測定する良い方法がないんです。でも、それを知らないと二酸化炭素の濃度の将来の変化が正確に予測できないことにもなるんです。
なるほど! そうですか。それは、困ります。では、なぜそもそも西表島なんですか? イリオモテヤマネコと何か関係があるのでしょうか? 山猫好き? シャー!
いや、シアンさん、そういうのいらないです……猫好きの人はいますが、そうじゃありません。西表島を選んだのは熱帯雨林のモデルとしてです。日本でも亜熱帯気候にある天然林が保存されている森林の二酸化炭素濃度データをとろうという意図があるからです。REDD+(レッドプラス)を知っていますか?
すみません、教えてください。
途上国が自国の森林を保全するために取り組んでいる活動に対して、CO2放出を削減した量に換算し経済的な利益を国際社会が提供する、というものです。これは、森林を伐採するよりも保全するほうが、経済的に高い利益を生むようにすることで、森林破壊とCO2放出を減少させ、温暖化を防止する施策です。特にインドネシアやマレーシア等の熱帯域での森林破壊・劣化や森林火災によるCO2の排出は、世界の排出量の1〜2割を占める等、深刻な状況にあります。熱帯の森林のCO2吸収量を測定することは、REDD+実施に向けるデータとして重要なのです。そこで、亜熱帯地域と同じ気候の西表島の森林のデータをとることが今回のターゲットなのです。
なるほど! それは重要な研究ですね! 是非いいデータをとってください!!
野村さんに聞くところによると、
今回行われる実験は、西表島の森林の二酸化炭素吸収・排出量についての調査です。そのために (1) 定点、(2) 高さ方向、(3) 水平方向、の3種類の二酸化炭素の濃度分布を調べます。(1) の定点の観測場所は、A 竹富町児童生徒交流センター、B 古見小学校、C 船浦中学校、D 白浜小学校の校舎の一部や校庭をお借りしています。そこには、二酸化炭素測定器が設置してあるそうです。これら定点のうち、2か所で (2) の高さ方向の分布を調べるために風船を使うそうです(実際はゾンデというらしいです)。(3) は車に測定器を積んで走りながら場所ごとの濃度分布を測るということです。それらの濃度の差が重要なのだそうです。 垂直方向を測定する気球は、係留用気球と放球用気球の二つを用います。放球用の気球は丸いゴム風船ですが、こちらは上空30kmほどまで上がり、その後気球の膨張が限界に達し破裂し、パラシュートにより落下します。風向きにより通常海上に落下します。これがゾンデと呼ばれるもので、気象に限るゾンデは気象庁によって毎日上げられているそうです。しかしCO2を測るゾンデは今開発が進んでいるもので、研究中のものです。
係留用気球は風船の形がちょっとクジラみたいなもので電動リールにより、上空200〜300mまで上げ、その後地上に降ろしてきます。両方ともCO2の測定器と気象測定器をのせています。放球用のほうが上昇速度が速いため、地表から300mまでの正確なデータを取得するのが難しいことから、この部分は係留気球によってより正確なデータを得ることを計画しているそうです。
1日2回、2か所で、朝は4時から、午後は14時からと、ゾンデの実験を行いますが、その間に自動車で走って島の濃度分布も測定しようとしています。なかなか盛りだくさんで大変そうです。これだけ大がかりな観測を行うために、研究室から6名と観測支援のためにCO2ゾンデ開発を行っている明星電気からも応援4名が来ています。
まず、設置しておいた二酸化炭素測定器の点検です。手分けして行います。
とりあえず、学校へのあいさつと機械のメンテナンスを最初に行い、後は機材の移動を行います。これに、1日かかりました。みなさんご苦労さまです。