ココが知りたい温暖化

Q7地球全体の平均気温の求め方

!本稿に記載の内容は2024年5月時点での情報です

地球全体の平均気温はどうやって求めるのですか。観測点のない海洋上や陸上奥地などの気温はどうやって推測するのですか。また、観測点の周囲の環境が変われば、気温データにも見かけの変化が出てしまいませんか。

小倉知夫 野沢徹

小倉 知夫 (国立環境研究所)1 野沢 徹 (岡山大学)2

過去に起きた気候変動を観測データに基づいて把握する際、よく用いられる指標が、地球全体の平均気温の時間的な変化です。その算出方法は、地球上に不均一に分布する観測データを緯度5度×経度5度などに格子点化して、さらに面積の重みを付けて平均する、というものです。現在、一般的に算出されている地球の平均気温の変化には、陸上のデータだけでなく、海洋のデータも考慮されています。また、観測機器や観測場所、周辺環境などの変化の影響もできるだけ取り除かれています。 

1陸上の観測空白域はさほど大きくない

温度計による気温の直接観測が世界的に行われるようになったのは1850年頃からですが、現在では世界に7000以上の観測地点が存在しています。地域的な分布にはかなりのばらつきがあり、欧米などでは非常に密に存在している一方で、サハラ砂漠やシベリア北部、アマゾン奥地などでは観測点が少ないです。ただし、これらの地域にも数百kmに一点程度の割合で観測点が存在しますし、観測の空白域は面積的にもそれほど大きくはありませんので、地球の平均気温の算出には大きな影響はないと考えられます。

2地球表面の7割を占める海上の気温は海面水温で代用

地球平均気温の時間的な変化を算出する際に、海洋上の気温は海洋表層の海水温度で代用されています。海洋表面の水温はさまざまな船舶により観測されており、昔はバケツで海水を汲み上げて計測されていましたが、近年では、エンジンの取水口近くに設置した温度計により計測されています。海洋上の気温も船の甲板上で観測されてはいますが、昼間の気温は船舶のヒートアイランド効果(甲板が日射を受けて熱を帯び、甲板上の大気を暖める効果)の影響を受けてしまうなどの問題があるため、地球の平均気温の算出には用いられていません。しかし、1か月以上の時間スケールを考える上では、海洋表面の水温変動と夜間に観測された海洋上の気温変動がほぼ等しいことが知られています。このため、海洋上の気温の時間的な変化を算出する際、海洋表層の海水温度を利用することに、大きな問題はありません。なお、海洋表層の海水温度は漂流ブイやアルゴフロート(海表と海中を行き来しながら水温などを自動測定する装置)などでも観測されており、こうした船舶以外の手段による観測の重要性は近年、高まる傾向にあります。

3見かけの変化をもたらす要因には個別に対処

地球の平均気温データに見かけの時間変化をもたらし得る要因としては、①観測機器の劣化や更新に伴う変化、②観測場所の移動(経緯度や標高)、③観測時刻や月平均値算出方法の変化、④都市化などの観測点周辺環境の変化、が挙げられます。このうち、①~③については、物理的な考察や統計的推定、変化前後の同時観測などによる補正が行われています。④についても、周辺の観測点との気温差が年々増大している地点を除く、などの対応が取られています。これらとは別に、人口や土地被覆、衛星から見た夜間地上光などの分布から都市と郊外を峻別し、平均気温に対する都市化影響の有無を評価する研究も行われています。また、都市によるヒートアイランド効果は夜間の弱風時に顕著であるため、夜間の地上風速データを活用した都市化影響評価も行われています。これらの結果はいずれも、大陸規模以上の空間スケールで平均した気温については、都市化の影響はほとんど無視できることを示しています(注1)。

4地球の平均気温は、格子点化された平年偏差の面積重み付き平均

地球の平均気温を求めるには、まず初めに各観測点の気温の平年値(西暦の一の位が1の年からの30年平均値。たとえば1961~1990年の30年平均値など)からの差を求めます(これを平年偏差と呼びます)。次に、地球を緯度5度×経度5度などに分割した各格子内に存在する観測点の平年偏差を単純に平均して格子点データを作成します。地球の平均気温を求める際に、各観測点の平均気温そのものではなく、平年偏差を用いるのには理由があります。平均気温は観測点の地形や標高にも依存するため、複数の観測点を含む格子の平均気温を定義する際には、このような点も考慮しなければなりませんが、平年偏差であればその必要がない上に、長期的な変化傾向の情報は保持されるからです。格子点化された平年偏差のデータに、各格子の面積の重みを付けて平均することにより、地球の全球平均気温(平年偏差)の時系列を算出します(ここで用いる「全球平均」は、「観測データが存在する限られた格子点の面積重み付き平均」を意味します)。図に示すように、平均操作に用いられる格子点数も現在から過去に遡るにつれて減少していきますが、このような、観測データが地球上の限られた地域にしか存在しないことによる誤差は、せいぜい±0.1℃程度と見積もられています。なお、観測データが存在しない地域については、周辺地域の観測データに基づいて気温を統計的に推定することが一般的となりました。その結果、データの空白域は大幅に縮小しています。 

figure

(a) 1851~1880年および (b) 1994~2023年の30年間において、一つの格子内(緯度5度×経度5度)に月平均気温データが存在する割合。白は3分の1(10年分)未満、黄色は3分の1以上、緑は3分の2(20年分)以上。灰色はデータが存在しないことを示す。英国気象局 (http://www.metoffice.gov.uk/)の地球の平均気温のデータに基づき、近藤洋輝(訳)「WMO気候の事典」を参考に作成。データは観測値だけでなく、周辺地域の観測値から統計的に推定した値も含む。

519世紀後半以降に約1.09°C上昇、主な原因は温室効果気体の増加

このようにして算出されている地球全体の平均気温は、19世紀後半(1850~1990年)から最近10年間(2011~2020年)にかけて1.09℃上昇したことがわかっています。この気温上昇の速度は急激なものです。木の年輪や湖底の堆積物などから推定された過去2000年間の気温変動と比較した場合、1970年以降の50年間は前例にないほど大きな上昇速度を示しています。この気温上昇の原因はいったい何でしょうか。気候モデルを用いた統計的推定によれば、近年の気温上昇は、二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果気体の濃度増加なくしては説明できないと考えられます。人間活動が気候に重大な影響を与え始めていることは、疑いようのない事実であるといえるでしょう。 

注1
大陸規模よりも小さい空間スケールで平均した気温には、都市化の影響が無視できない場合があります。例えば、都市化が著しく進展している日本の平均気温には、多少なりともその影響が存在することを気象庁も認めています。 

さらにくわしく知りたい人のために

  • 気象庁編(2022)気候変動監視レポート2022(特に2.3.1節「世界の平均気温」)。気象庁のウェブサイト https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/monitor/index.html よりダウンロード可能。
  • WMO編(近藤洋輝訳) (2004) WMO気候の事典. 丸善.
  • 藤部文昭著 (2012) 都市の気候変動と異常気象(特に第5章「気候変動の信頼性に関する問題」). 朝倉書店.
  • 第1版:2006-12-27 地球環境研究センターニュース2006年12月号に掲載
  • 第2版:2013-10-04 内容を一部更新
  • 第3版:2016-06-21 内容を一部更新
  • 第4版:2024-05-01 内容を一部更新

1 第4版 小倉 知夫(地球システム領域 気候モデリング・解析研究室 室長)
2 第1-3版 野沢 徹(出版時 大気圏環境研究領域 大気物理研究室長 / 現在 岡山大学 学術研究院 環境生命自然科学学域 教授)