中山忠暢1)
1) 国立環境研究所 地域環境保全領域
CGERリポート
CGER'S SUPERCOMPUTER MONOGRAGH REPORT Vol.30
Development of process-based NICE model and simulation of ecosystem dynamics in the catchment of East Asia (Part VII)
「統合型流域環境管理モデル(ＮＩＣＥモデル)の開発及び東アジア地域の流域生態系のシミュレーション(Part VII)」
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本モノグラフ(Part VII, CGER-I169-2024)は、Vol. 11 (Part I, CGER-I063-2006)、Vol. 14 (Part II, CGER-I083-2008)、Vol. 18 (Part III, CGER-I103-2012)、Vol. 20 (Part IV, CGER-I114-2014)、Vol. 26 (Part V, CGER-I148-2019)、及びVol. 29 (Part VI, CGER-I167-2023)の後続版である。
執筆者が中心になってこれまでに開発してきた水文生態系モデルNICE (National Integrated Catchment-based Eco-hydrology)は3次元グリッド型の水文生態系モデルであり、様々な植生から構成される自然地モデル・主要作物や灌漑を含む農業生産モデル・管路網や都市構造物を含む都市モデル・ダム操作や水輸送モデル等、様々なサブモデルから構成される。また、NICEは水循環に加えて熱・土砂・栄養塩・炭素循環、及びそれに伴う植生遷移のシミュレーションが可能である。執筆者はこれまでに、NICEを用いたシミュレーションによって、地域から全球スケールまでの様々な流域圏(釧路湿原、首都圏、霞ケ浦から全国一級河川流域109水系まで、及び、長江・黄河流域、メコン川流域、シベリア湿原、モンゴルからグローバル主要河川流域まで)を対象に、自然－人間系システムの開発や人為活動が生態系変化に及ぼす影響解析を行ってきた(図１)。
本モノグラフ(Part VII)では、NICE をプラスチック排出モデルと結合することでさらに拡張し、マクロおよびマイクロプラスチックの時空間的変化と廃プラスチックの生態系への影響を定量化し、海洋へのプラスチック排出を削減する解決策を見出すための結果を紹介している(図２)。同モデルを用いた解析によって、日本全国の一級河川流域(109水系)における海洋へのプラスチック排出量を定量的に評価した(図３)。次に、同モデルを全球の主要河川(325河川流域)に拡張し、モンテカルロモデルシミュレーションを併用することで、プラスチックの大きさ、形状、密度などの要素がプラスチック排出に及ぼす影響を明らかにした(図４)。また、NICE を湖沼水質モデルLAKE2K と結合し、流水(河川)と静水(湖沼)環境をともに含むプラスチック動態を評価した(図５)。さらに、アジア地域での廃プラスチック貿易の影響を考慮したモデルに拡張し、廃プラスチック貿易がプラスチック排出の変化に及ぼす影響を評価した(図６)。
本モノグラフで紹介している手法は、流域におけるプラスチック動態を検出や予測し、地域、大陸、および地球規模で海洋へのプラスチック排出を削減する有効な対策を講じる際に強力なツールとなる。また、気候変動対策、安全な水、持続可能な都市、陸や海の豊かさを守るなどから構成される国連の持続可能な開発目標(SDGs)で 2030 年までに持続可能性を達成するのに必要な理解を深めるためにも役に立つ。
