2013年6月号 [Vol.24 No.3] 通巻第271号 201306_271002

わが国の2011年度(平成23年度)の温室効果ガス排出量について 〜総排出量13億800万トン。前年度比で増加するも、第一約束期間の目標達成へ近づく〜

  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 酒井広平
  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス マネージャー 野尻幸宏

1. はじめに

国立環境研究所地球環境研究センター温室効果ガスインベントリオフィス(以下、GIO)は、環境省の委託を受け、わが国の温室効果ガスインベントリの作成を行っています。2013年4月12日に、GIOと環境省は「2011年度(平成23年度)わが国の温室効果ガス排出量」を公表しました。その概要を簡単に紹介します。

なお、本年の算定および報告書では、2012年度に実施された「温室効果ガス排出量算定方法検討会」(環境省主催)で決定した新規算定方法等の反映、インベントリ審査における指摘等を踏まえた改善が図られています。

2. 温室効果ガスの総排出量

1990年度から2011年度までのわが国の温室効果ガスの排出量の推移を表に示しました。2011年度の温室効果ガス総排出量(各温室効果ガスの排出量に地球温暖化係数[1]を乗じ、CO2換算したものを合算した量)は13億800万トン(CO2換算、以下省略)であり、京都議定書の規定による基準年排出量[2]を3.7%上回りました。このように基準年排出量を上回ったのは2008年度以来、3年ぶりです。前年度比4.0%(5,030万トン)の増加で、2年連続の増加となりました。前年度からの排出量増加の要因としては、東日本大震災の影響等により製造業の生産量が減少する一方、火力発電の増加によって化石燃料消費量が増えたことなどが挙げられます。

各温室効果ガス排出量の推移(1990〜2011年度、単位:百万トン)[クリックで拡大]

table. 温室効果ガス排出量

*土地利用、土地利用変化及び林業(LULUCF)分野の排出・吸収量は除く。

3. 各温室効果ガスの排出量

(1) 二酸化炭素(CO2

2011年度のCO2排出量は12億4,100万トンであり、基準年比で8.4%の増加、前年度比で4.2%の増加となりました。

部門別(電気・熱配分後)[3]では、産業部門からの排出量[4]が基準年比で13.1%の減少、前年度比で0.5%の減少となりました(図1)。前年度からの減少は、東日本大震災などによる生産量の減少に伴い、製造業からの排出量が減少したこと等によります。

fig. 二酸化炭素の部門別排出量

図1二酸化炭素の部門別排出量(電気・熱配分後)の推移

運輸部門からの排出量は基準年比で5.9%増加、前年度比で1.0%の減少となりました。基準年からの増加は貨物からの排出量が減少した一方で、旅客(主に自家用乗用車)からの排出量が増加したことによります。なお、運輸部門からの排出量は1990年度から2001年度までは増加傾向にありましたが、その後は減少傾向が続いています。主な原因としては、自動車の燃費の改善、自動車の小型化(軽・小型自動車の比率増加)、輸送量の頭打ちが挙げられます。

家庭部門、業務その他部門[5]からの排出量は、それぞれ基準年比で48.1%、50.9%の増加、前年度比で9.8%、14.3%の増加となりました。前年度からの増加は、いずれの部門も火力発電の増加により電力排出原単位が悪化し、その影響を受けて電力消費に伴う排出量が増大したためです。また、家庭部門の基準年比排出量の大幅な増加は、家庭用機器の大型化・多様化、世帯数増加などによる電力等のエネルギー消費の急激な伸びが原因です。同様に、業務その他の部門の排出量増加は、事務所や小売等の延床面積の拡大、それに伴う空調・照明設備の増加、オフィスのOA化の進展等による電力等のエネルギー消費の急増によるものです。

非エネルギー起源CO2排出量[6]は、基準年比で20.5%の減少、前年度比でほぼ横ばい(0.02%増)となりました。基準年からの減少は工業プロセス分野(セメント製造等)からの排出量が減ったこと等によります。

(2) メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六ふっ化硫黄(SF6

2011年度のCH4排出量は2,030万トンであり、基準年比で39.2%、前年度比で2.1%の減少となりました。基準年からの排出量の減少は廃棄物埋立量が減り、廃棄物分野からの排出量が減少したこと等によるものです。

2011年度のN2O排出量は2,160万トンであり、基準年比で33.7%、前年度比で1.7%の減少となりました。基準年からの減少は、6,6-ナイロンの原料となるアジピン酸の生産に伴うN2O排出量が分解装置の導入で削減され、家畜排せつ物、農用地の土壌などからの排出量が減ったことによります。

2011年のHFCs、PFCs、SF6のそれぞれの排出量は2,050万トン、300万トン、160万トンであり、基準年(1995年)比でそれぞれ1.3%の増加、78.5%の減少、90.3%の減少、前年比でそれぞれ11.8%の増加、11.5%の減少、12.1%の減少となりました。基準年からのHFCsの増加は、HCFC-22製造時におけるHFC-23排出量の減少等の一方で、オゾン層破壊物質であるHCFCからHFCへの代替に伴い冷媒からの排出量が増加したことによるものです。また、基準年からのPFCs、SF6の減少は、それぞれ洗浄剤・溶剤等からのPFCs排出量の減少等、変圧器等電気絶縁ガス使用機器からのガス回収といった管理強化等によります。

4. 吸収源活動の排出・吸収量

わが国は京都議定書に基づく吸収源活動の排出・吸収量についても算定を行い、インベントリの補足情報として国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局に提出しています。その量は、2011年度は5,210万トンの吸収(森林吸収源対策5,100万トン、都市緑化等110万トン)となっており、基準年排出量の4.1%に相当します(うち森林吸収源対策による吸収量は4.0%に相当)。

5. 京都議定書第一約束期間の目標達成状況

森林吸収量の目標[7]と京都メカニズムクレジット[8]を加味すると、京都議定書第一約束期間の4年平均(2008〜2011年度)は基準年比−9.2%となります(図2)。2008〜2012年度の5年の平均値がわが国の目標値である−6%を下回っていれば目標達成となります。上記の−9.2%という数値は確定したものではなく、具体的な2012年度の排出量[9]は現時点では不明ですが、これまでの結果を考慮すると、京都議定書第一約束期間の目標はおおよそ達成できる見通しとなっています。

fig. 京都議定書第一約束期間の目標達成状況

図2京都議定書第一約束期間の目標達成状況

6. おわりに

GIOでは、今後もウェブサイトや報告書の改善を図っていく予定です。なお、本稿に使用した2011年度の温室効果ガス排出吸収量に関する情報はGIOのウェブサイト 〈http://www-gio.nies.go.jp/index-j.html〉にて公表しておりますので、ご利用ください。

参考文献

脚注

  1. 地球温暖化係数(Global Warming Potentials: GWP):温室効果ガスが一定時間内に地球の温暖化をもたらす程度を、二酸化炭素の当該程度に対する比で示した係数。京都議定書第一約束期間は、IPCC第二次評価報告書(1995)に示された100年値を用いる。CO2 = 1、CH4 = 21、N2O = 310、HFCs = 1,300など、PFCs = 6,500など、SF6 = 23,900である。
  2. 京都議定書の基準年の値(12億6,100万トン)は、「割当量報告書」(2006年8月提出、2007年3月改訂)で報告された1990年のCO2、CH4、N2Oの排出量および1995年のHFCs、PFCs、SF6の排出量であり、変更されることはない。一方、毎年報告される1990年値、1995年値は算定方法の変更等により変更されうる。
  3. 発電および熱発生に伴うエネルギー起源のCO2排出量は、電力・熱消費量に応じて各最終消費部門に配分されている。また、廃棄物のうち、エネルギー利用分の排出量については廃棄物部門で計上しているため、わが国としてUNFCCC事務局に提出している「日本国温室効果ガスインベントリ報告書」で示されている数値とは異なる。
  4. 産業部門(工場等。工業プロセスを除く)からの排出量は、製造業(工場)、農林水産業、鉱業および建設業におけるエネルギー消費に伴う排出量を表し、第三次産業における排出量は含んでいない。また、統計の制約上、中小製造業(工場)の一部は業務その他部門(オフィスビル等)に計上されている。
  5. 業務その他部門(オフィスビル等)には、事務所、商業施設等、通常の概念でいう業務に加え、中小製造業(工場)の一部や、一部の移動発生源が含まれる。
  6. ここでいう非エネルギー起源CO2排出量は、工業プロセス分野と廃棄物分野からの排出量を合わせた値である。
  7. 森林吸収量の目標値は、京都議定書目標達成計画に掲げる基準年総排出量比約3.8%(4770万トン/年)である。2008〜2011年度までの4年平均の結果では、おおよそこの目標レベルにある。
  8. 京都メカニズムクレジットには、わが国の政府が2012年度までにクレジット取得事業により取得したクレジットの総契約量(約9,750万トン)を5か年で割った値(基準年比約1.5%/年に相当)と民間事業者が取得した京都メカニズムクレジット量(ここでは電気事業連合会が取得したクレジット量)が含まれている。
  9. 2012年度の排出量に関して、原子力発電所の利用率は2011年度よりも低下するため、化石燃料消費量が増加し、CO2排出量は増加すると予測されている。

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