2013年6月号 [Vol.24 No.3] 通巻第271号 201306_271003

Global Carbon Budget 2012 —広がり続ける2℃目標へ向けた排出経路とのギャップ—

地球環境研究センター 特別研究員 加藤悦史

はじめに

グローバルカーボンプロジェクト(Global Carbon Project: GCP)は、地球の持続可能性において極めて重要である炭素循環の科学的解明に向けて、2001年に設立された国際研究プログラムであり、豪州キャンベラオフィスとともに、ここ国立環境研究所にも国際プロジェクトオフィスが設置されています。GCPでは、近年も引き続き増加傾向にある人為的な二酸化炭素排出、および炭素循環による大気・陸域・海洋での収支について毎年レポートを作成しています。昨年末のレポートの元となるデータセット論文(The Global Carbon Budget 1959–2011)の執筆に、筆者も共著者として参加しました。ここでは、そのレポートの概略を紹介したいと思います。

2. The Global Carbon Budget 1959–2011

現在の二酸化炭素収支を考慮すると、気温上昇を産業化以前と比べて2℃に抑えるための排出削減目標を達成することが難しくなってきたことを、GCPは2012年末にNature Climate Change誌(http://www.nature.com/nclimate/journal/v3/n1/full/nclimate1783.html)に発表しました。この論文の解析の元となった新たなデータセットに関する成果は、Earth System Science Data誌(http://www.earth-syst-sci-data.net/5/165/2013/essd-5-165-2013.html)に発表されています。

豪州連邦科学産業研究機構(CSIRO)GCPキャンベラ国際オフィス事務局長のペップ・カナデル(Pep Canadell)博士は、「2℃目標への経路に移行するためには、全世界での迅速・大規模かつ継続的な緩和努力が必要である」と強調しています。Earth System Science Data誌に掲載されたレポートにおいて、世界の化石燃料起源の二酸化炭素排出量は、前年比で2011年では3%増、2012年では2.6%増となり、2012年の排出量は1990年比で58%の増加となっていることを報告しています。2012年における最新値は、GDPの増加率と経済活動による炭素強度の改善からの推定です。ペップ・カナデル博士はまた、「近年の二酸化炭素排出は、いろいろと考慮されている排出シナリオのうち、最も高い排出シナリオの経路をたどり続けており、2℃目標を達成するための経路との差が広がっている」と説明しています。さらに、「現在進行中の気候変動に関する国際交渉において、現時点での温室効果ガスの排出経路と、産業化以前からの気温上昇を2℃以下に抑えうる可能性との間にギャップが広がり続けていることについて認識し、行動する必要がある」とも述べています。

Nature Climate Change誌に掲載された研究において、近年の化石燃料の燃焼、セメント製造、ガスフレアによる二酸化炭素排出と、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による気候変動予測に用いられる排出シナリオの比較を行っています。この研究を率いたノルウェー国際気候環境研究センター(CICERO)のグレン・ピータース(Glen Petes)博士によると、「2020年までに世界的な排出量のピークを迎え、2℃以下の気温上昇に抑える経路に従うためには、かなり大きな二酸化炭素排出削減率が必要となる」とのことです。博士は、「削減には、大量排出国である、中国、アメリカ合衆国、EU、そしてインドにおけるエネルギー転換が必要である」と述べています。さらに、「産業化以前と比べた全球平均の年平均気温の上昇を2℃以内に抑えるためには、技術的、社会的、政治的な革新の遂行が必要であり、また、将来においては、正味に負となる二酸化炭素排出に頼る必要性が大きくなっている」と述べています。

3. まとめ

産業化以前からの気温上昇を2℃に抑えるための排出削減の観点から、GCPでの研究活動の一端を紹介しました。GCPではこのように、気候変動に対する適応、緩和、それに伴うコストに関する政策決定プロセスに貢献するために、毎年の二酸化炭素排出および収支に関する推計を出しています。2012年レポートからは、推計に関するデータセットを科学的に透明な形で提供するために、Earth System Science Data誌に継続的に論文発表していくことになりました。詳細については、http://www.globalcarbonproject.org/carbonbudget/index.htmを参照していただければと思います。またGCPでは、グレン・ピータース博士が最後に述べている、気温上昇を2℃などの低いレベルに抑えるための負の排出の必要性、すなわち大気中の二酸化炭素を何らかの技術等で取り除く必要性についても、現在科学的な検討を行っているところです。

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP