2015年10月号 [Vol.26 No.7] 通巻第299号 201510_299006

ついに始まった途上国による隔年更新報告書の提出 「第13回アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ」(WGIA13)の報告

  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス(GIO) 高度技能専門員 伊藤洋

1. はじめに

環境省と国立環境研究所は、気候変動政策に関する日本の途上国支援活動の一つとして、アジア地域諸国の温室効果ガス(GHG)インベントリの作成能力向上に資することを目的として2003年から毎年アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ(WGIA)を開催している。参加国は、カンボジア、中国、インド、インドネシア、韓国、ラオス、マレーシア、モンゴル、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムおよび日本の14か国である。2008年に開催されたWGIA6からは「測定・報告・検証(MRV)可能な温室効果ガス排出削減活動」に関する途上国の能力向上支援としても位置付けられている。温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)は2003年の初回会合から事務局として、ワークショップの企画および運営にあたっている。

第13回であるWGIA13は、2015年8月4日から6日の3日間にわたり、インドネシア・バリにおいて開催され、参加国の内、フィリピン、シンガポールを除く12か国からGHGインベントリに関連する政策決定者、編纂者および研究者が参加した。また、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局、気候変動に関する政府間パネル・インベントリタスクフォース・技術支援ユニット(IPCC TFI-TSU)、国連食糧農業機関(FAO)等の国際および海外関係機関から参加があり、総勢108名による活発な議論が行われた。

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Coffee breakに配布パンフレットの説明をするインドネシア政府代表

2. 隔年更新報告書(BUR)の提出開始

自国のGHG排出吸収量及び、気候変動対策に関する情報を適時に把握・報告することは途上国においても適切な削減策の策定などに重要であることから、途上国が隔年更新報告書(BUR)を2年に1度の頻度でCOPに提出することは、2011年、ダーバンで開催されたUNFCCCの第17回締約国会議(COP17)の下で義務づけられている。

今次会合は、そのBURが途上国から提出されて最初のWGIAとなった。提出されたBURとその国際協議・分析(ICA)についての議論を中心に行った。

3. WGIA13の概要と結果

(1) オープニングセッション

日本国環境省、インドネシア環境森林省の挨拶に続き、今年開催されるUNFCCC第21回締約国会議(COP21)に十分に先立って提出することが各国に求められている、2020年以降の温室効果ガス削減目標を含む「約束草案(INDC)」を含めた日本の気候変動政策とホスト国であるインドネシアのINDC等の削減目標の準備を含む気候変動政策の概要説明が行われ、インベントリ作成プロセスにおける省庁間や専門家との連携の大切さが確認された。

国別報告書(NC)やBURにおいて精度の高いインベントリを作成することは、その国の状況の適切な把握につながり、各国のINDC等の削減目標の策定にも貢献するという認識等が共有された。

(2) GHGインベントリ相互学習

参加国のインベントリ担当者同士が、互いのインベントリを詳細に学習し、意見交換を通じて改善を図るべく、事前に相手国のインベントリを学習し質問を交換する相互学習をWGIA9から実施している。

今次会合では、分野横断的事項(ベトナム-日本)、農業分野(インドネシア-ラオス)、LULUCF(土地利用、土地利用変化および森林)分野(カンボジア-モンゴル)、廃棄物分野(ミャンマー-韓国)で相互学習を実施した。

お互いのインベントリやその作成に係る国内体制の整備について、事前に2か月余りの時間をかけて質問を交換したうえで議論に臨んだため、具体的な課題をより深く学習することができた。議論を通じて、自国のインベントリの改善点が明確となり、今後も積極的に参加したいとの意見がいくつかの国からあった。

(3) 途上国におけるNC、BURの準備

UNFCCC事務局から、BURとそのICAについて、COP決定に基づく専門家諮問グループ(CGE)の役割と対応状況、CGEが開発したBUR作成トレーニング教材、ICAに関する技術専門家チーム(TTE)のトレーニングが紹介された。TTEトレーニングへの参加は、各国専門家の能力向上につながる。

またインドから、経年のGHG排出量等を含んだBURを間もなく提出すると報告された。

(4) BURとそのICAの進捗等

ベトナムと韓国から、2014年12月提出のBURとそのICAプロセスが紹介され、IPCC TFI-TSU/CGEのメンバーより、BURのICAプロセスにおける技術的分析(TA)が説明された。続いて、日本国環境省より、途上国のICAプロセスと並立する先進国の国際的評価・審査(IAR)プロセスについて、特に日本の受けた多国間評価(MA)に焦点を当てて紹介された。TAにおいて、各国がTTEと直接対話することにより、能力構築が必要な点を特定できると報告された。

(5) 一貫性があり継続的なインベントリの作成

GIOから、インベントリを継続的に作成してきた経験が紹介され、中国から時系列一貫性があるインベントリの作成が紹介された。続いて、マレーシア、タイから、BURを2年に1度、定期的に作成するため、現在整備されつつある国内体制が説明された。

継続的なインベントリの作成に際し、データ収集や算定等について各国の状況に応じて様々な方法がとられていることが共有された。また、様々な算定上の誤りを減らす方法が議論され、インベントリの品質管理(QC)の体制を整備する重要性が確認された。

(6) インベントリの作成や温室効果ガス削減対策に寄与する国際的な活動

JICAより、インドネシア「気候変動対策能力強化プロジェクト」、「REDD+(森林減少・劣化からの温室効果ガス排出削減)プロジェクト」が紹介された。続いてFAOよりインベントリの作成にも有益なFAOのデータ、IPCC TFI-TSUよりIPCCガイドラインの改良を視野に入れた最近の動向が紹介された。

国立環境研究所より途上国も報告が奨励されているNMVOC(非メタン揮発性有機化合物)の排出について紹介があり、(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)からMRVに関する理解促進のためのガイドブック、(独)国際協力機構(JICA)からインドネシアにおける二国間クレジット制度(JCM)プロジェクトの支援活動が、それぞれ紹介された。

途上国が精度の高いインベントリを作成し、MRVを向上させるためには、能力強化支援が引き続き必要なこと、国際的なデータが活用可能なこと等が確認された。さらにNMVOCインベントリなどの知見を適用することの重要性が認識された。

4. 次回会合について

来年度の第14回会合(WGIA14)はモンゴルでの開催を予定し、WGIA参加国が提出するBUR及びその国内体制について相互学習等を進めることや、ICAを受けた経験を基に、BURとそのインベントリの改善のための議論を行うことが確認された。

5. おわりに

本会合の議論を通じて、より精度の高いインベントリを作成する必要性と、定期的にインベントリを作成するための国内体制の重要性等が認識された。また、精度の高いインベントリは、INDC等の削減目標の策定にも貢献することが認識された。

さらに、能力強化支援と国際的データの整備が必要であり、NMVOCインベントリ等の知見も重要である。相互学習は自国や他国の状況を理解する良いきっかけになり、インベントリの精度向上につながるとの認識が共有された。

第1回からの報告は http://www-gio.nies.go.jp/wgia/wgiaindex-j.html に掲載している。WGIA13の詳細も、http://www-gio.nies.go.jp/wgia/wgiaindex-j.html で公開される予定である。

略語一覧

  • GHG:温室効果ガス(Greenhouse gas)
  • WGIA:アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ(Workshop on Greenhouse Gas Inventories in Asia)
  • MRV:測定・報告・検証(Measurement, Reporting and Verification)
  • GIO:温室効果ガスインベントリオフィス(Greenhouse Gas Inventory Office of Japan)
  • UNFCCC:国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change)
  • IPCC TFI-TSU:気候変動に関する政府間パネル・インベントリタスクフォース・技術支援ユニット(Technical Support Unit of the IPCC Task Force on National Greenhouse Gas Inventories)
  • FAO:国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organization)
  • BUR:隔年更新報告書(Biennial Update Report)
  • COP17:第17回締約国会議(Conference of the Parties on its seventeenth session)
  • ICA:国際協議・分析(International Consultation and Analysis)
  • INDC:自主的に決定する約束草案(Intended Nationally Determined Contribution)
  • NC:国別報告書(National Communication)
  • LULUCF:土地利用、土地利用変化及び林業(Land Use, Land-Use Change and Forestry)
  • CGE:専門家諮問グループ(Consultative Group of Experts on National Communications from Parties not included in Annex I to the Convention)
  • TTE:技術専門家チーム(Team of Technical Experts)
  • IAR:国際的評価・審査(International Assessment and Review)
  • QC:品質管理(Quality Control)
  • REDD+:発展途上国における森林減少・森林劣化からの温室効果ガスの 排出削減、および森林保全、持続可能な森林経営、森林炭素蓄積の強化の役割(Reducing Emissions from Deforestation and Forest Degradation and the role of conservation, sustainable management of forests and enhancement of forest carbon stocks in Developing Countries)
  • NMVOC:非メタン揮発性有機化合物(Non methane volatile organic compounds)
  • IGES:(公財)地球環境戦略研究機関(Institute for. Global Environmental Strategies)
  • JICA:(独)国際協力機構(Japan International Cooperation Agency)
  • JCM:二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism)

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