2018年3月号 [Vol.28 No.12] 通巻第327号 201803_327001

国連気候変動枠組条約第23回締約国会議(COP23)報告 政府代表団メンバーからの報告:パリ協定詳細ルール、あと一年でどこまでできるか

  • 地球環境研究センター 地球環境データ統合解析推進室 主任研究員 畠中エルザ
    (地球環境研究センター温室効果ガスインベントリオフィス)
  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 小坂尚史

国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)報告 一覧ページへ

2017年11月6〜17日、ドイツ・ボンにおいて国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第23回締約国会議(COP23)、京都議定書第13回締約国会合(CMP13)およびパリ協定第1回締約国会合(CMA1)第2部が開催された。また、これと並行して、パリ協定特別作業部会(APA)第1回会合(第4部)および第47回補助機関会合(科学上および技術上の助言に関する補助機関会合:SBSTA47、実施に関する補助機関会合:SBI47)が開催された。国立環境研究所からは、日本政府代表団(交渉)、サイドイベント(発表)、ブース(展示)という三つの立場で参加した。本稿では交渉内容について紹介する。なお、サイドイベントと展示ブースについては、国立環境研究所ニュース36巻6号(http://www.nies.go.jp/kanko/news/36/36-6/36-6-07.html)で報告する。

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議長が採択に用いる槌の引き継ぎを受けるフィジーのバイニマラマ首相(COP23議長)(中央左)、および前議長国モロッコのメズアール外務大臣(COP22議長)(中央右)

COP23は、パリ協定の詳細ルールの採択を予定している次回のCOP24に比べれば、成果としてはやや地味な会合となったかもしれない。具体的にはパリ協定の詳細ルール、2020年以前を含む排出削減目標の強化、資金問題など、様々なトピックが議論された。以下、政府代表団による温室効果ガスインベントリ関連の交渉について概要を報告する。その他の事項に関する交渉概要は、環境省の報道発表(http://www.env.go.jp/press/104820.html)等に紹介されているので参照されたい。

1. パリ協定特別作業部会(APA)

2016年のパリ協定の発効から一年を経て開催されたCOP23は、先に述べたとおり、成果としては大きな目玉のない、やや地味なCOPとなった。議長国はフィジーがモロッコから引き継いだが、フィジーではこの規模のイベントをホストすることが困難なことから、開催地は通例と異なり議長国内ではなくUNFCCCが事務局をおくドイツ・ボンであったため、そのような意味でも目新しさがない印象を与えたのかも知れない。

そのような中、細かな内容の成果物を求められているAPAでは作業が着実に進められた。APAでは、議論の時間を確保するために、COP開会直前のラウンドテーブルという非公式会合から始まり、緩和や透明性、市場メカニズムなどの議題に分かれてパリ協定の詳細ルールについて議論が行われた。透明性については、時間をサブテーマごとに区切り、共同ファシリテーター(米、中)が作成した非公式ノートが各国意見を的確に捉えているかなどの観点での各国のコメントが求められ、少しずつ論点が整理され始めている。非公式ノートには、適用されるルールの内容案が項目ごとに羅列され、想定対象国も記載されている。その中には、国家インベントリ報告書(national inventory report)、(削減目標に関する)進捗状況確認に必要な情報(information necessary to track progress)や、技術専門家審査(technical expert review)、多国間検討(facilitative, multilateral consideration of progress)などの文言がみられ、パリ協定下の透明性フレームワークの骨格が徐々にうかがい知れる形になってきている。これまでのインベントリや隔年報告書・隔年更新報告書、多国間評価や促進的意見の共有での経験が議論の基礎となっているので、当然似ているものが課されることは想定できるが、その実施頻度や、どこまで先進国・途上国間で義務を共通化できるか、また、議題間のルール案の熟度のバランスをどうとるかなどが今後の注目点となる。

各国は、APAの開催最終日に、当該非公式ノートを次のセッションに向けた検討の基礎として、受け入れる意思を示した。あくまでも共同ファシリテーターが自らの責任で取りまとめたものという位置づけであり、まだ各国意見を総覧的に網羅した、重複や矛盾を含むものであるが、透明性に関しては46ページ、他議題を含めた文書としては266ページもの文書ができたのは歓迎すべきことである。今年の4月初めには、この成果を踏まえ、APAの共同議長(ニュージーランド、サウジアラビア)より今後のAPAにおける議論の進め方の案が提示されることになった。

なお、年末のCOP24で詳細ルールの採択を目指しているため、議論の進捗によっては、今年のSB48会合とCOP24会合との間に追加会合が実施される可能性がある。

2. 促進的意見の共有(FSV)と多国間評価(MA)

今次SBI47会合では、11月10日に、途上国の隔年更新報告書に対する4回目の促進的意見の共有(FSV)のためのワークショップが行われた。促進的意見の共有は、国際的協議・分析という、途上国の緩和行動及びその効果の透明性向上を目的に実施されているプロセスの一環で行われており、促進的意見の共有の前段階で実施される技術的分析の結果などを踏まえたものとなっている。国際交渉での文言調整の結果、理解しにくい表現になっているが、各国が報告書の提出国に対し、報告書に関する疑問点について質問をしたり、コメントをする場となったりしている。「促進的」という文言は、厳しく評価する場ではない、という点を強調したものである。

当該ワークショップでは、2017年9月8日までに技術的分析の完了したアルメニア、エクアドル、ジョージア、ジャマイカ、セルビアの5カ国が対象とされた。質疑応答では、各国の国内体制の詳細、国際的協議・分析の経験から得られた教訓、また、インベントリに関する細かな質問も多く出された。

このほか、報告書の提出が任意となっている小島嶼国で初めてジャマイカが隔年更新報告書を提出して、今回のFSVの対象となっていたため、報告書を提出できたことを祝福する発言もみられた。

さらに、同日、ベラルーシに対する多国間評価(MA)も実施された。多国間評価は、先進国の排出削減目標の達成状況の進捗の審査、及び途上国支援の状況・削減目標に関係する排出・吸収量の評価を行うこと等を目的とする国際的評価・審査プロセスの一環で行われており、多国間評価の前段階で実施される技術的審査の結果などを踏まえたものとなっている。各国が報告書の提出国に対し、報告書内容について質問・コメントをする場となっている。なお、ベラルーシは、前回SBI会合で多国間評価が実施される予定だったところ、国内事情により延期となり、今次SBI会合での唯一の対象国となったものである。オーストリア、EU、インド、アメリカより低炭素技術・再生可能エネルギーの導入に関する施策や、運輸・廃棄物セクターにおける緩和策、途上国に対して実施している支援等に関して質問があった。

これをもって第二回隔年報告書に対する多国間評価が終了した。

3. 最後に

COP24は今年の12月3〜14日にポーランドのカトヴィツェで開催される。今年一年、作業山積のAPAでは最後まで駆け足が続くことになるだろう。ただ、会議開催のための資金は限られているため、どこまで詳細にルールを作り込むことができるかは分からない。同期間は、また、タラノアというフィジーの対話手法を指す言葉(「包摂的・参加型・透明な」の意を含む)が冠されたタラノア対話というNDC強化を促すための各国間の対話の期間に位置付けられている。この対話を経て2030年目標の提出・更新が期待される。また、先進国の2020年以前の取り組みの強化を求める声も今回再度高まり、京都議定書第二約束期間の批准や気候資金拠出を呼び掛けるような流れもある。

2020年までには、まだいろいろなことが起こりうる。今回は、アメリカのパリ協定離脱宣言後の初のCOPではあったが、前回同様、アメリカ政府代表は、少なくとも筆者らの担当していたインベントリ等の議題においては従来と交渉の立場も温度感も変えている印象はなかった。APAの透明性の議論など、今のアメリカの立場でも関わり続け得ると思われるトピックにおいては、引き続き議論に貢献してもらいたい。

余談になるが、今次COPでは各国パビリオンのあるサイドイベント会場は、議題を議論する会議場から徒歩30分程度の場所に配置されていた。ところが、アメリカの経済界・自治体の長・NGOらが手を組んでWe Are Still In(連邦政府は離脱しても非政府アクターはまだパリ協定に賛同している、の意)というキャンペーンを打ち立て、その一環で今次COP用に出資した非公式なアメリカパビリオンは、サイドイベント会場内ではなく、なぜか会議場に一番近くて行きやすい場所に配され、UNFCCC事務局の何らかの意図を感じとれる興味深い状況となっていた。

略語一覧

  • UNFCCC (United Nations Framework Convention on Climate Change):国連気候変動枠組条約
  • COP (Conference of the Parties):締約国会議
  • CMP (Conference of the Parties serving as the Meeting of the Parties to the Kyoto Protocol):京都議定書締約国会合
  • CMA (Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to the Paris Agreement):パリ協定締約国会合
  • APA (Ad Hoc Working Group on the Paris Agreement):パリ協定特別作業部会
  • SBSTA (Subsidiary Body for Scientific and Technological Advice):科学上および技術上の助言に関する補助機関会合
  • SBI (Subsidiary Body for Implementation):実施に関する補助機関会合
  • SB (Subsidiary Bodies):補助機関
  • FSV (Facilitative Sharing of Views):促進的意見の共有
  • MA (Multilateral Assessment):多国間評価
  • NDC (Nationally determined contribution):自国で決定した貢献(国ごとの排出抑制目標のこと)

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