2019年11月号 [Vol.30 No.8] 通巻第347号 201911_347003

パリ協定における強化された透明性報告に向けて「第17回アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ」(WGIA17)の報告

  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス(GIO) 高度技能専門員 伊藤洋

1. はじめに

2019年7月30日から8月2日の4日間にわたり、シンガポールにおいてシンガポール環境庁(NEA)とともに、第17回アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ(WGIA17)を開催しました。WGIA17には、メンバー国のうち14か国(ブルネイ、カンボジア、中国、インドネシア、ラオス、マレーシア、モンゴル、ミャンマー、フィリピン、韓国、シンガポール、タイ、ベトナムおよび日本)から温室効果ガスインベントリ(以下、インベントリ)に関連する政策決定者、編纂者および研究者が参加し、気候変動に関する政府間パネル・インベントリタスクフォース(IPCC TFI)、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局、国連食糧農業機関(FAO)等の国際および海外関係機関からの参加もあり、総勢89名による活発な議論が行われました。

日本の環境省と国立環境研究所は、気候変動政策に関する途上国支援活動の一つとして、2003年度から毎年度、アジア地域諸国のインベントリの作成能力向上に資することを目的とした本ワークショップを開催しています。温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)は2003年度の初回会合から事務局として、UNFCCCの締約国会議(COP)決定等の国際的な課題、参加者のニーズを踏まえた議題、発表者の選定、参加者の招聘といったワークショップの企画および運営にあたっています。なお、2008年度に開催されたWGIA6からは「測定・報告・検証(MRV)可能な温室効果ガス排出削減活動」に関する途上国の能力向上支援としても位置付けられています。

自国の温室効果ガス(GHG)排出吸収量及び気候変動対策に関する情報を適時に把握・報告することは、適切な削減策の策定などのために重要です。2015年末のCOP21において採択されたパリ協定により、GHG排出量の透明性の向上がすべての締約国に求められ、続く2018年末のCOP24において隔年透明性報告書の提出が義務づけられました。

2. WGIA17の概要と結果

今回のプログラムは、1日目は2か国で各分野ペアを組み、互いのインベントリを詳細に学習する相互学習、2日目は国別報告書(NC)や隔年更新報告書(BUR)の紹介などの話題を扱う全体会合、3日目は全体会合とポスターセッション、最後に議論結果のとりまとめという構成としました。

(1)相互学習

相互学習は、GIOが中心となり各分野の組み合わせを行い、インベントリ担当者同士が互いのインベントリをもとに事前にメールで質疑応答を行ったうえで、当日の議論に臨みます。

今次会合では、エネルギー分野(タイ-日本)、分野横断(Fガス[1]類)事項(シンガポール-中国)、農業分野(カンボジア-フィリピン)で実施しました。参加各国とも2006年IPCCガイドラインの方法論導入などインベントリを継続的に改善しており、相手国が採用している方法論に加え、データ収集や国内体制を学習しました。

写真1 シンガポールと中国で実施した分野横断(Fガス類)の相互学習の様子

(2)全体会合

2日目、日本国環境省、NEAの挨拶後、GIOより今回のWGIAの概要説明を行いました。

写真2 全体会合の様子

続いて、マレーシア、ベトナム、ブルネイからNC/BURより最新の基礎情報や排出量、緩和策等が報告されました。統計値等の活動量データの取得及び国独自の排出係数の開発が依然、課題であり、インベントリ作成能力の改善にはNCやBUR作成経験の共有が大切であると指摘されました。

次にIPCC TFI及びIPCC2019年方法論報告書の執筆者からその概要、及び各分野における変更点等が紹介されました。2006年IPCCガイドラインの適用時に、2019年方法論報告書も参照することがインベントリの改善に役立つ一方で、使用に向けては新しい方法論の分析の必要性も指摘されました。

さらに、GIOからパリ協定の透明性枠組におけるFガスの報告規定・モントリオール議定書のキガリ改正[2]の概要、WGIA参加国のFガス排出量の報告状況、インドネシアからは自国のFガスの算定・排出状況が報告されました。米国環境保護局(US EPA)からアメリカのFガス算定体制、IPCC TFIからはFガス算定方法の詳細が紹介されました。透明性枠組のガイドラインが新しく採択され、Fガスの報告が原則義務となりました。冷凍空調機器からのFガス排出量算定の基本的な方法論は2006年IPCCガイドラインに記載されていますが、2019年方法論報告書併用の有益性が示されました。

3日目午前、UNFCCC事務局より、パリ協定における強化された透明性枠組で提出する隔年透明性報告書(BTR)のインベントリの必要事項の紹介があり、アジア域外から初のゲスト国となるアルジェリアから自国インベントリ等の紹介が行われました。タイから国内のGHG排出量データ収集システム、日本エネルギー経済研究所(IEEJ)より日本のエネルギーバランス表、FAOから農業分野の透明性向上のサポート、国立環境研究所から衛星観測とインベントリの比較手法等が紹介されました。新しい報告要件の正しい理解のもと、国内体制を整える必要があり、利用可能な情報や能力構築機会の活用の重要性が共有されました。

(3)ポスターセッション

3日目午後、最新の研究内容等を共有するため、ポスターセッションを実施しました。参加者同士が一対一で会話する中で研究の進捗状況や関連国際機関からのサポート状況など詳細な情報を交換しました。

3. 次回会合について

今後、パリ協定における透明性枠組に対応するため一層の能力向上の必要性を踏まえて、BUR及び国内体制について相互学習など、各国がよりインベントリ等の精度を高められるようWGIAを継続、発展させていく方向性が確認されました。来年度の第18回会合(WGIA18)はカンボジアで開催調整中です。

4. おわりに

今次会合では活動量データの取得や国独自の排出係数の開発といった課題が残る中、Fガス排出量算定の原則義務化など、パリ協定で強化された透明性枠組での新たな課題が確認されました。参加者は国内体制を整え、利用可能な情報や能力構築機会の活用を通じてインベントリやBTRを作成する必要性を認識し、最新の科学的知見を反映したIPCC 2019年方法論報告書など、今後の活動に有益な情報が共有されました。より透明で正確なインベントリを作成する能力構築を支援するため、今後もWGIAに取り組んでまいります。

第1回からの報告はhttp://www-gio.nies.go.jp/wgia/wgiaindex-j.htmlに掲載しています。WGIA17の詳細も、同Webサイトで公開される予定です。また、今会合の開催について報道発表を行いました。http://www.nies.go.jp/whatsnew/20190808/20190808.htmlもご覧ください。

脚注

  1. Fガス
    HFCs(ハイドロフルオロカーボン)、PFCs(パーフルオロカーボン)、SF6(六フッ化硫黄)、NF3(三フッ化窒素)のこと。「代替フロン等4ガス」とも呼ばれる。
  2. キガリ改正
    地球温暖化対策の観点から、モントリオール議定書に新たに代替フロンを規制対象とする改正。2016年10月にルワンダ・キガリで開催されたMOP28(第28回締約国会合)で採択された。

【略語一覧】

  • アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ(Workshop on Greenhouse Gas Inventories in Asia: WGIA)
  • 気候変動に関する政府間パネル・インベントリタスクフォース(IPCC Task Force on National Greenhouse Gas Inventories: IPCC TFI)
  • 温室効果ガスインベントリオフィス(Greenhouse Gas Inventory Office of Japan: GIO)
  • 国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change: UNFCCC)
  • 締約国会議(Conference of the Parties: COP)
  • 測定・報告・検証(Measurement, Reporting and Verification: MRV)
  • 温室効果ガス(Greenhouse gas: GHG)
  • 隔年更新報告書(Biennial Update Report: BUR)
  • 国別報告書(National Communication: NC)
  • 隔年透明性報告書(Biennial Transparency Report: BTR)

シンガポール ゴミで出来た島「セマカウ島」

地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス(GIO) 高度技能専門員 池田直子

シンガポールでごみをポイ捨てすると罰金、最高で1000シンガポールドル(約8万円)! 今年のWGIA17で使用した会場ホテル前の目抜き通りは、人通りが多いにもかかわらずごみはほとんど落ちていませんでした。そう言えば、通りに設置されているゴミ箱もごみで溢れ返っているものは一つもありませんでした。では、一般家庭から排出されるごみは?というと、可燃も不燃も生ごみさえも全く分別されず、全部ひとまとめにしてごみ収集車専用のゴミ箱に投入するだけで良いそうです。ごみ収集車が毎日回収に来るとのこと。その収集されたごみはいったいどの様に処理されているのでしょうか。

シンガポール環境庁によると、収集されたごみは全て焼却場に集められ、2018年は全体の60%がリサイクル、37%は高熱で焼却されたそうです。残り3%は焼却できない廃棄物です。そして焼却灰と焼却できない廃棄物がセマカウ島に持ち込まれています。セマカウ島はシンガポール唯一の埋立てで出来た、いわゆる「ごみの島」です。

WGIA17最終日、私たちはこのセマカウ島を訪れました。この島は本島からフェリーで40分程の小さな島で、元々あった2つの島をぐるっと囲むように幅約10m、長さ約7kmの堤防兼道路が造られており、その中身350ha(東京ドーム約75個分)が順次埋め立てられています。私たちは、ツアーバスに乗ってこの周辺道路を一周して来ました。

堤防兼道路:所々にある休憩所の周りには植樹されたヤシの木などが木陰を作っています

セマカウ島は私の抱いていた「ごみの島」のイメージと全く違っていて、ごみの臭いなど全くせず、きれいな海に囲まれている緑豊かで静かな島でした。埋立て後の周辺海域への水質汚染がないように厳重に管理しているそうで、堤防の外側にマングローブの林が広がっているところも確認できました。また埋立てた灰の上には土を盛って植樹をしているとのことで、埋立地はすでに草木が生い茂っていました。ここを住処とする野鳥も沢山いるそうで、シンガポール環境庁による野鳥観察ツアーも提供されています。

埋立て跡地

この島は1999年から埋立てに使われ始め、現在は半分以上が満杯になりフェーズ2の埋立てが始まっています。当初は2045年まで維持できる計算でしたが、最近は排出されるごみの量が増えたため、このままでいくと10年早く寿命が来るであろうとのこと。新たなごみ焼却施設や処分場の建設、あるいはごみの削減が今後の課題となりそうです。シンガポール環境庁も資源ごみのリユース・リサイクルを推奨しており、今後のリサイクル率を更に上げていく目標を提示しているとのことでした。今後の展開が気になるところです。

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