シベリアにおけるタワー観測ネットワーク

写真1西シベリアタイガ奥地のBerezorechka(ベレゾレチカ)における観測タワー

国立環境研究所は21世紀に入り、ロシアの研究機関と協力してシベリアタイガ奥地の鉄塔を利用して二酸化炭素濃度の観測を開始しました(写真1)。シベリアのタイガは世界最大の面積で、その陸域生態系による呼吸・光合成によって二酸化炭素濃度は大きく変動すると考えられます。しかしこの観測が開始されるまでは、シベリアでの観測データは、空間的にも時間的にも限られたものしか存在しませんでした。厳しい自然環境やインフラの問題で観測自体が難しかったためです。国立環境研究所の研究者は試行錯誤の上、厳しい環境の中でも安定して自動で稼働する観測システムを開発し、世界で初めてシベリア奥地での二酸化炭素濃度の連続データを取得することに成功しました。この新たに開発したタワー観測システムは、その後最大時で9か所まで展開され、シベリアの様々な環境(タイガ、ステップ、湿地)での二酸化炭素濃度の測定を行っています(図1、表1)。stationには観測所という意味がありますが、日本とロシアが共同で行っている観測ということで、このタワー観測ネットワークの名前をJR-STATION(Japan-Russia Siberian Tall Tower Inland Observation Network)と命名しています。その後もメタンセンサーを加えるなど、ロシア人の共同研究者と協力して観測システムの改良を行っています(写真2–3)。西シベリアには世界最大の湿地帯が広がり、そこからのメタンガスの放出量は世界最大と考えられています。シベリアからのメタン放出が全球規模のメタン濃度に影響を与えるのです。

図1タワー観測ネットワーク(JR-STATION)の位置(赤丸)。灰色の場所は昔の観測サイト。アルファベットは略称(表1)。主要な都市は白丸で示す

表1JR-STATIONの位置情報及びサンプリング高度

略字 地名 緯度 経度 サンプリング高度(m)
BRZ Berezorechka 56°08′45″ 84°19′49″ 5, 20, 40, 80
KRS Karasevoe 58°14′44″ 82°25′28″ 35, 67
IGR Igrim 63°11′25″ 64°24′56″ 24, 47
NOY Noyabrsk 63°25′45″ 75°46′48″ 21, 43
DEM Demyanskoe 59°47′29″ 70°52′16″ 45, 63
SVV Savvushka 51°19′30″ 82°07′40″ 27, 52
AZV Azovo 54°42′18″ 73°01′45″ 29, 50
VGN Vaganovo 54°29′50″ 62°19′29″ 42, 85
YAK Yakutsk 62°05′19″ 129°21′21″ 11, 77

写真2ロシア科学アカデミー大気光学研究所の研究者と共同で装置のメンテナンスを行っているところ

写真3タワー観測システムが収まるコンテナの前で共同研究者と

また鉄塔上空で小型の航空機を利用して、二酸化炭素濃度の鉛直分布を観測し、タワー観測システムで得られたデータとの比較検討により、タワーデータの代表性の評価や森林による二酸化炭素吸収量の見積もりも行いました(写真4–6)。シベリアの広範囲に展開したタワー観測ネットワークのデータを用いて、シベリア全体における二酸化炭素の吸収量の年々の変化をより正確に把握する研究も行っています。

写真4Berezorechkaタワー上空の二酸化炭素濃度を観測するために使用した小型航空機(Antonov-2)

写真5小型航空機内部の様子

写真6小型航空機から眼下に広がるシベリアタイガの様子