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台風やハリケーンによる被害の増加は温暖化の影響?
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台風やハリケーンによる被害の増加は温暖化の影響?

最近、台風やハリケーンなどの強い熱帯低気圧による被害が増加する傾向にあると耳にしました。これは、温暖化の影響で強い熱帯低気圧が増えているためでしょうか。
私が答えます:地球環境研究センター温暖化リスク評価研究室 NIESポスドクフェロー  長谷川 聡
強い熱帯低気圧の増加傾向が観測によって示唆されており、特に1970年代以降の北大西洋海域では熱帯の海面水温の上昇に伴う増加が報告されています。また気候モデルを用いた温暖化研究でも、将来は強い熱帯低気圧の数が増えると予測されています。しかし、強い熱帯低気圧による被害規模は、その数の変化だけではなく、熱帯低気圧の上陸数や経路といった自然要因の変化や、さらに人口や資産の地理的分布の変化や対策の有無といった社会経済環境の変化によっても大きく変動します。したがって、温暖化の影響で被害が増加している可能性はありますが、それですべてとはいえません。

熱帯低気圧による被害額は増加傾向

熱帯低気圧に伴う強風や豪雨や高潮は、時に甚大な被害をもたらします。被害の中でも、死者数は劇的に減少しましたが、インフレの影響などを割り引いたとしても被害額は増加する傾向にあります。

2005年にアメリカのニューオーリンズを襲ったハリケーン・カトリーナによる被害額は、自然災害による被害としては史上最高額を記録しました。カトリーナは非常に強いハリケーンでしたが、観測史上で最も強い熱帯低気圧ではありません。熱帯低気圧による被害は、その強さや経路や上陸数といった気象的要素、被害を受けた地域の経済的・社会的要素などに大きく影響されます。

図1 全球で観測された熱帯低気圧の強さ別の数(A)と割合(B)の5年ごとの変化 図1 全球で観測された熱帯低気圧の強さ別の数(A)と割合(B)の5年ごとの変化。破線はそれぞれの平均値。強さの指標としてシンプソンスケールを用い、カテゴリーは1(1分平均の最大風速64~82ノット)、2(83~95ノット)、3(96~113ノット)、4(114~135ノット)、5(135ノット以上)の5段階に分類される。1ノットは約0.51m/秒に相当。カテゴリー4や5の強い熱帯低気圧が増加しているのがわかる。(Webster et al., Science, 309, 1844-1846, 2005) (American Association for the Advancement of Scienceより許可を得て転載) なお、図中の西暦について執筆者に確認中の点があります。

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地球温暖化は熱帯低気圧の強さに影響する

熱帯低気圧とは、熱帯の暖かい海洋の上で発生する低気圧です。その中でも最大風速がある基準を超えた強い熱帯低気圧は、西部北太平洋では台風、東部北太平洋や大西洋ではハリケーン、インド洋や南太平洋ではサイクロンと呼ばれています(注1)。呼称は違っても、熱帯低気圧を駆動するエネルギーは、大気中の水蒸気が強い上昇気流で上空に持ち上げられて凝結して液体の水になる際に発生する熱です。

地球温暖化が進めば、海洋からの蒸発は盛んになり、より大量の水蒸気が大気中に蓄えられます。ひとたび熱帯低気圧が発生すれば、より多くの水蒸気が大気中にある場合、より強い熱帯低気圧に発達しやすくなります。最新の多くの研究では、およそ100年後の温暖化が進んだ世界では、強い熱帯低気圧の発生数が現在より増加するという結果が得られています。

熱帯低気圧の経路や中心気圧などの観測記録が整備されているのは、北太平洋や北大西洋などではおよそ1950年代以降、他の海域でも1970年代の人工衛星による全地球的な観測体制が整備されて以降です。この観測記録によると、海域ごとの熱帯低気圧の発生数は、数年から数十年周期の変動(例えばエルニーニョなど)に影響されて増減を繰り返しています。大気中のCO2濃度の増加に連れて熱帯低気圧の発生数が増加または減少するといった、一貫した変化傾向は見出されていません。

一方、熱帯低気圧の最大風速などを指標として強さ別に発生数を調べてみると、強い熱帯低気圧の発生数が近年増加傾向にあるという研究結果が報告されています(図1)。2007年に発表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書によると、北大西洋では1970年頃から、海水温度の上昇に伴って、強い熱帯低気圧が増加している可能性が高いと報告されています。他の海域でも、観測データの精度や一貫性の問題のために北大西洋ほど明確とはいえないものの、同様の増加傾向が示唆されています。そして、観測された強い熱帯低気圧の増加傾向は、どちらかといえば人間活動の寄与の可能性があるとまとめられています。

地球温暖化が熱帯低気圧に与える影響評価の難しさ

人工衛星などで見る熱帯低気圧は巨大に見えますが、他の気象現象と比較すると、熱帯低気圧は狭い領域で非常に激しい風雨などをもたらす現象です。このため、地球温暖化に伴う熱帯低気圧活動の変化を計算機シミュレーションの手法で詳細に調べるには、現在の計算機資源では十分ではありません。現状では、たとえば、地球温暖化に伴って強い熱帯低気圧が増えることは定性的には確からしいのですが、どの程度増えるのか、どの程度の強さまで発達しうるのかといった定量的な議論に足るシミュレーションにはなっていないのです。

映画「不都合な真実」でも述べられている通り、2004年にはこれまで熱帯低気圧は発生しないとされていた南大西洋で史上初のハリケーンが発生し、2005年の北大西洋でのハリケーン発生数は27個と史上最高を記録しました。また、2004年には日本では史上最高の年間10個の台風が上陸しましたが、この年の西部北太平洋の台風の発生数は実はほぼ平年並でした。いくつかの最新の研究成果では、およそ100年後の熱帯低気圧全体の発生数は減少するといわれていますが、海域別の熱帯低気圧の発生数の将来の変化については、確信を持っていえるだけの知見が揃っていないというのが実情です。

熱帯低気圧の発生数だけでなく、経路や上陸する数と位置がどう変化するのか、人々が暮らす陸地に影響を及ぼす領域でどの程度の強さになるのかといった被害に直接関係する研究も十分ではありません。地球温暖化に伴う熱帯低気圧の活動の変化についてより確かな知見を蓄積し、影響の予測に役立てていくことが必要です。

熱帯低気圧による被害を抑えるために

地球温暖化に伴って強い熱帯低気圧が増えると、激しい風雨による被害が増加することは容易に想像されます。温暖化が進むと、海水面が上昇(「海面上昇とゼロメートル地帯」参照)するので、沿岸地域では熱帯低気圧に伴う高潮の被害を受けやすくなることも想定されます。地球温暖化を抑制することは、このような被害を減少させると考えられます。

しかし先に述べた通り、このような被害は熱帯低気圧の強さや経路といった気象的要素だけでなく、社会的・経済的な要素の影響も大きく受けます。たとえばカトリーナの場合、堤防の決壊を防ぐことができたら、上陸前から避難勧告があったにもかかわらず貧困や高齢のために移動することができなかった人たちを避難させる手段が整備されていたら、被災地や避難先そして政府の対応がより適切であったなら、被害に遭う人数も被害額も軽減できたと考えられています。

実際カトリーナ以前から、河川や海岸の付近といった水害に遭いやすい地域への人口や資産の流入が、近年の熱帯低気圧による被害の増加の要因であるとする研究がありました。そのような地域を生活の基盤とするのを望むかどうか、長所と短所を見極めて判断し、そこで生活する場合は防災や避難の対策を十分に行うことが肝要です。日本にとって台風は水資源の重要な供給源ではありますが、時期によっては梅雨前線や秋雨前線と連携して大雨をもたらすなど非常に予測が難しい危険な気象現象です。地球温暖化を抑えて将来の熱帯低気圧による被害を抑制していくとともに、「備えあれば憂いなし」といわれるように、普段からの災害対策で被害を減少させる努力も必要なのではないでしょうか。

(注1) 日本では西部北太平洋で10分間平均の最大風速が34ノット(約17m/秒)以上の熱帯低気圧を台風と呼びますが、アメリカでは1分間平均の最大風速が64ノット(約33m/秒)以上の熱帯低気圧を海域別にタイフーンやハリケーンなどと呼びます。

さらに良く知りたい人のために
アル・ゴア (2007) 不都合な真実.ランダムハウス講談社.
村山貢司 (2006) 台風学入門.山と渓谷社.
気象庁 (2007) IPCC第4次評価報告書第1作業部会報告書政策決定者向け要約 http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/ipcc/ar4/ipcc_ar4_wg1_spm_Jpn_rev.pdf

地球環境研究センターニュース2007年8月号(2007年8月31日発行)に掲載]