ココが知りたい温暖化

Q9水蒸気の温室効果

!本稿に記載の内容は2014年4月時点での情報です

大気中の水蒸気が温室効果ガスとしては最大の寄与があると聞きました。少しくらい二酸化炭素(CO2)が増えたところで、水蒸気の量に比べれば小さなもので、温暖化が進行するとは思えないのですが、間違っていますか。

横畠徳太

横畠徳太 地球環境研究センター 温暖化リスク評価研究室 NIESポスドクフェロー (現 地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室 主任研究員)

水蒸気は温室効果ガスとしてたしかに最大の寄与を持ちますが、二酸化炭素(CO2)も重要な役割を果たしています。現在の大気の温室効果は約5割が水蒸気、2割がCO2によるものです。このため大気中のCO2濃度が増加することによって、温暖化が進行すると考えられます。実際にはこの気温上昇に伴い、自然のしくみによって大気中の水蒸気が増えることにより、さらに温暖化が進むことが予想されます。

二酸化炭素(CO2)の増加は温暖化を進行させる

現在の地球は大気中に水蒸気やCO2などの温室効果ガスが存在することによって温暖な環境が保たれています(ココが知りたい地球温暖化「二酸化炭素の増加が温暖化を招く証拠」参照)。大気中に温室効果ガスがない場合、地表気温はおよそマイナス19℃になりますが、温室効果ガスの存在によって地表気温はおよそ14℃になっています。つまり現在の大気にはおよそ33℃の温室効果があるのです。

現在の大気中の水蒸気やCO2がもつ温室効果の強さを示したのが図1です。水蒸気は広い波長域で赤外線を吸収するため、温室効果としてもっとも大きな寄与(48%)をもちます。しかし水蒸気はすべての波長の赤外線を吸収するわけではなく、15µm付近の赤外線はCO2によってよく吸収されます。このため全温室効果に対するCO2による寄与は21%程度になります。

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図1地表(青線)および大気上端(赤線)における赤外線スペクトル(単位波長・面積・時間あたりの上向きのエネルギー流出量)。青線が地表から逃げる熱エネルギー、赤線が大気上端から逃げる熱エネルギーを示す。また、青線と赤線の差が、大気による赤外線の吸収、すなわち温室効果の強度を表す。図中のH2O、CO2、O3は、それらの分子による赤外線吸収が起こる波長領域を示す。右枠の数字は、晴天時(雲がない場合)での寄与

Kiehl and Trenberth (1997) Earth’s Annual Global Mean Energy Budget. Bulletin of the American Meteorological Society, 78, 197-208. (c)Copyright 2007 American Meteorological Society (AMS)

このようにCO2は大きな温室効果をもつため、その濃度が増加すると気温は上昇すると考えられます。大気中のCO2濃度は、人間活動の影響によって年々増加しています。仮に現在の大気状態のまま、大気中のCO2濃度だけが2倍になった場合の温室効果の寄与だけを考えると、地表気温は1.2℃程度上昇します(IPCC第4次評価報告書第8章)[注1]

水蒸気量の増加が温暖化をさらに増幅

実際に大気中のCO2濃度が増えた場合の地表気温上昇は、さらに大きくなると考えられます。これは気温上昇とともに、自然界のしくみによって大気中の水蒸気量が増加するためです(図2)。

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図2CO2の増加による温暖化と、それに伴う大気中の水蒸気量増加がもたらす効果

大気中に含まれうる水蒸気量は「飽和水蒸気量」と呼ばれ、気温によって決まっています。気温が高いほど飽和水蒸気量は大きくなります。飽和水蒸気量以上の水蒸気が大気中に存在すると基本的には凝結が起こりますので、それ以上の水蒸気は存在できません。飽和水蒸気量に対する大気中の水蒸気量の割合が、「相対湿度」です(温湿度計で表示される「湿度」と同じです)。現実の大気中では、あるところでは水蒸気が飽和し(雲が形成され)、あるところでは乾燥しており、平均的な相対湿度は5割程度になっています。地球上に含まれうる水蒸気量の大きさを巨大なプールに例えると、そのプールには5割程度の深さまで水(水蒸気)がたまっていることになります。ここで、プールそのものの深さは、気温、すなわち飽和水蒸気量で決まっています。

ではCO2の増加による気温上昇によって、大気中の水蒸気量はどのように変化するのでしょうか。気候モデルを用いた予測によると、気温上昇によっても相対湿度はあまり変わらない、という結果が得られています。つまり気温上昇によってプールのそのものの深さは増える(飽和水蒸気量が増える)のですが、不思議なことに、同時に、気温上昇前と同じく5割程度の深さまで水が供給されるため、プールにたまる水の量(水蒸気量)も増える、ということです。

このような水蒸気量の増加は、気温上昇によって海面からの水蒸気蒸発量が増えることで定性的には説明できます。しかし、「相対湿度がほぼ一定」となる理由は、必ずしも自明ではありません。しかしながら過去20年ほどの人工衛星による観測データによれば、気温上昇とともに水蒸気量の増加が観測され、気候モデルの予測する「相対湿度がほぼ一定」を支持する結果になっています(IPCC第5次評価報告書)。現段階ではデータ取得期間の短さやデータ品質の問題などもあるので、精度の高い観測が今後さらに増えていくと、より確かなことがわかってくるでしょう。

水蒸気量増加は自然のしくみによって決まる

以上のように、CO2濃度の増加によって気温上昇が起こると、大気中の水蒸気量が増加すると考えられます。気候モデルの予測によるとこの水蒸気量の増加によって、大気中のCO2濃度が倍増したときの気温上昇は全体で少なくとも2.4℃、つまり水蒸気量の増加を考えなかった場合の2倍程度になります(IPCC第4次評価報告書第8章)。このように何らかの原因によって(例:CO2濃度の増加)、大気や地表の状態が変わり(例:水蒸気量の増加)、その変化がさらなる気候変化をもたらす過程を一般に「気候フィードバック」と呼びます[注2]。種々の気候フィードバックを同時に考慮した場合、大気CO2濃度の倍増による気温上昇は1.5℃から4.5℃の範囲である可能性が高いとされています(IPCC第5次評価報告書)。つまり、気候フィードバックによって温暖化が何倍にも増幅されそうだということです。なお、CO2濃度を倍増させたときの気温の上昇を「気候感度」と呼んでいます。

大事なことは、大気状態を変化させる最初のきっかけである、CO2濃度増加は人間活動が原因である一方で、これによる気温上昇を増幅するしくみは自然の都合で決まってしまう、ということです。たとえば過去20年の水蒸気量の増加は、人間が排出した水蒸気量では説明できません。人間活動による水蒸気排出としては、灌漑や発電所での冷却による水利用などがありますが、これらの活動による大気中の水蒸気量増加は、観測された水蒸気量増加と比べると無視できる大きさだと、報告されています(IPCC第5次評価報告書)。このことは、過去の水蒸気量増加が自然のしくみによってもたらされたことを意味します[注3]。このような自然界の「温暖化増幅機能」をできるだけ働かせないためには、われわれがCO2排出を抑えるしか方法はないと言えます。

注1
現在の大気のもつ温室効果がおよそ33℃ですので、CO2による温室効果はその21%、およそ7℃になります。CO2が2倍になったときの1.2℃という地表気温上昇はこの値に比べて小さな値になっていますが、これはCO2が赤外線を吸収する効率がCO2濃度の対数に比例するためです。
注2
本文で説明した気候フィードバックを「水蒸気フィードバック」と呼びます。このほかの重要な気候フィードバックとしては、たとえばCO2増加による気温上昇 → 雲による日射の反射率や赤外線の吸収率が変わる → 気温上昇率が変わる(雲フィードバック)、極域の雪氷が融解して地表による日射の吸収率が変わる → 気温上昇率が変わる(氷アルベドフィードバック)、などがあります。
注3
このほかに、人間活動に伴い水蒸気量が増加するしくみとして、成層圏においてメタンが酸化されることが知られています。しかしこれによる温室効果は、大気中のCO2濃度増加によるものに比べきわめて小さいと考えられています(IPCC第5次評価報告書)。

参考文献

さらにくわしく知りたい人のために

  • D.J. ジェイコブ (2002) 大気化学入門 第7章「温室効果」. 東京大学出版会.
  • 近藤洋輝 (2003) 地球温暖化予測がわかる本. 成山堂出版.

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