ココが知りたい温暖化

Q10二酸化炭素以外の温室効果ガス削減の効果

!本稿に記載の内容は2010年3月時点での情報です

メタンの温室効果は二酸化炭素の10倍、一酸化二窒素は100倍、フロンガスは1万倍と聞きました。二酸化炭素よりもこれらのガスを先に減らすべきではないですか。

野尻幸宏

野尻幸宏 地球環境研究センター 副センター長 (現 地球環境研究センター 上級主席研究員)

これらの数字はガスの単位量あたりの温室効果ですが、温暖化をもたらす効果は単位量あたりの温室効果と濃度増加のかけ算で決まります。このことから、温暖化に対して最大の寄与を示す二酸化炭素の削減を急がなくては本質的な対策になりません。ただし、こうした微量ガスの温室効果をたし合わせると二酸化炭素の半分を上回るので、その削減は重要です。メタンや代替フロン類の削減は温暖化抑制の効き目が早く、今世紀前半のような近い将来の温暖化を遅らせて気候の急激な変化を防ぎます。一方、一酸化二窒素、フロン類、六フッ化硫黄などの削減は効き目が遅いものの、それ以降の長期にわたる温暖化抑制に欠かせません。二酸化炭素の削減とともに、どちらも急いで進めるべき重要な対策です。

長寿命温室効果ガス

主要な温室効果ガスには、最も濃度の高い二酸化炭素(CO2)の他、微量大気成分であるメタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O、亜酸化窒素ともいう)、フロン類などハロゲン元素を含む人工ガス類があり、これら数年以上の寿命で大気中に長く留まるガスを「長寿命温室効果ガス」といいます。各ガスの温室効果は、大気中人為増加量とGWP(Global Warming Potential:地球温暖化係数)の積で評価されます[注1]。GWPはCO2を1としているため、微量ガスの量とGWPの積はCO2換算の温室効果を表します。

これらのガスの現在の大気濃度、大気寿命、GWPを表1に示しました。濃度の低いガスのそれぞれのGWPは大きいとはいえ、ガスごとの温室効果は大気中の量の人為的増加とのかけ算になるので、産業革命以降100ppmも濃度が上がり、現在年に1.8ppmも濃度が増加しているCO2と比較すると、その温室効果を全部たしてもこれを上回ることはありません。産業革命以降の各温室効果ガス大気濃度増加にGWPを積算して評価した温室効果の比率を長寿命温室効果ガス全体に対して示すと、CO2が63%、CH4が18%、N2Oが6%、フロン類を含む人工ガス類が13%になります。この比率を考えれば、CO2の削減をしないことには本質的な温暖化防止にならないことがわかります。ただし、これら微量ガスも全体の約1/3の効果をもたらしているので、その削減は重要です。

表1CO2と微量温室効果ガスの濃度、大気寿命、地球温暖化係数(参考文献1)

  化学式 大気濃度
(2005年/ppb)
大気寿命/年 100年GWP
二酸化炭素 CO2 379000 - 1
メタン CH4 1774 12 25
一酸化二窒素 N2O 319 114 298
CFC-11 CCl3F 0.251 45 4750
CFC-12 CCl2F2 0.538 100 10900
HCFC-22 CHCl2F 0.169 12 1810
六フッ化硫黄 SF6 0.006 3200 22800

GWPの決定には、大気化学的な要素が考慮されています。CH4は、対流圏の光化学反応で分解するので、大気中では平均寿命約12年で消滅してゆきます。これに対してN2Oは、成層圏に輸送されてから紫外線による光化学反応を受けるのが主たる分解過程であり、平均寿命は約114年とされています。このほか、フロン・代替フロン類中で大気濃度が高いCFC-11、CFC-12、HCFC-22と京都議定書の削減対象である六フッ化硫黄(SF6)の大気寿命とGWPを表1にまとめました。いわゆるフロンガスであるCFC(クロロフルオロカーボン)は水素原子を含まないために対流圏の反応が遅く、成層圏に運ばれてから光化学反応を受けてオゾン層破壊を起こすガスです。そのため、同じような用途に使うことができオゾン層破壊の程度が小さいHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)が代替フロンとして使用されるようになりました。代替フロンがオゾン層破壊を起こしにくいのは、水素原子を含むために対流圏で反応して消滅し、成層圏まで運ばれにくいことが理由です。しかし、これらのガスは強い温室効果を示します。N2OやCFCのような大気反応の遅いガスは、500年のような長期の温暖化を引き起こす効果が大きくなりますが、CH4やHCFCのような大気反応の比較的速い温暖化ガスは20年のような短期の温暖化を引き起こす効果が大きくなります。京都議定書における温室効果ガス排出削減の枠組みでは、対象とする温室効果ガス排出を100年GWPでCO2に換算して各国排出量の総和を求め、温室効果ガス全量としての削減を目指しています。ただし、京都議定書はCO2、CH4、N2Oのほか、HFC(ハイドロフルオロカーボン)、PFC(パーフルオロカーボン)、SF6を対象としていますが、CFC、HCFCはオゾン層保護を目的としたモントリオール議定書が規制しているため対象としていません[注2]

微量温室効果ガス削減効果の違い

図1で、CH4とN2Oを例にして、大気反応の速いガスと遅いガスの地球大気全体でみた収支を示します。図1の中の数値は最新のIPCC報告書(参考文献1)におおむね準拠していますが、簡単にするためにキリのいい数字になるよう少し調整しました。産業革命以降1990年代まで大気中のCH4濃度は上昇を続けました。これは人為的な放出量が増えて、全体の放出量が自然の消滅源である対流圏化学反応を上回るようになったためです。対流圏化学反応による消滅が速いCH4の収支は大穴の開いた風呂桶にたとえることができます。そのため、人為起源排出が半減するならば、割合に早く、大気濃度は今より低い新たな平衡濃度まで低下します。ただし、温暖化フィードバックで自然排出源と消滅源が変化すると、収支予測にある程度修正が必要になります。

一方、下の図のN2Oの収支は、小さい穴から水が漏れる風呂桶にたとえられます。人為起源排出が半減しても、ようやく濃度増加が停止するだけです。さらに、人為排出をゼロにしても、濃度が低下するには長い時間がかかります。このように、大気反応が遅いガスは遠い将来に及ぼす温室効果が大きく、既に大気に放出されてしまったガスは、100年、1000年にもわたって温暖化に寄与します。一方、大気寿命の短いガスは近未来に与える温室効果が大きいわりには、遠い将来の温暖化への寄与が小さくなります。

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図1大気中のメタンと一酸化二窒素収支の概念

これが、温室効果ガスの規制とどのような関係があるかを考えてみると、長寿命温室効果ガスの中で比較的寿命の短いCH4やHCFCなどの削減効果には即効性があること、寿命のもっと長いN2O、CFC、PFC、SF6の削減効果は将来の温暖化を抑制する効果があることになります。21世紀中に急激な温暖化が起こると、生態系や社会システムの対応が追いつかずに大きな影響が起こります。つまり、CH4やHCFCなどの対策は、この急激な気候変動を抑制するのに効果的といえます。一方、N2O、CFC、PFC、SF6の及ぼす温暖化は長期にじわじわと現れるので、将来の地球の気候に及ぼす影響が大きくなります。海面上昇や大規模な氷床の変化は、今後何世紀にもわたる気候変動がもたらす影響ですから、今のうちにこれらの寿命の長い温室効果ガスの削減を進めなくては、将来に禍根を残すことになります。

最近、大気のCH4濃度はほぼ一定になってきました。CH4の主な発生源には、自然発生源として湿地やシロアリなど、人為発生源として反芻家畜(ウシ、ヒツジなど)、水田、石炭・石油・天然ガス採掘、埋め立て、廃棄物・排水処理など、多種多様なものがあります。その消滅源は大部分が対流圏大気化学反応です。CH4濃度増加停止の原因が、大気反応速度変化なのか、排出量低下なのか解明には至っていないのですが、大気濃度増加停止がこんなに早く現れたことにはCH4の大気寿命が短いことが関係しています。つまり、CH4やHCFCのような比較的寿命が短いガスは、対策により排出を減らせば大気濃度減少効果がすぐに現れますが、N2OやCFCのような大気寿命が長いガスでは、大気濃度減少として排出量削減の効果が現れるのに時間がかかります。N2O発生源では、土壌からの自然発生がもともと大きいところに、農業の拡大と窒素肥料の使用で人為的排出が加わりました。また、燃焼、工業生産、医療利用(麻酔)などがその他の人為的発生源です。食糧生産を支える農業の対策は容易ではないと考えられます。

対策効果の早く現れるガスの対策がより重要か?といえば、そうではなく、22世紀以降のような将来の気候は、N2O、CFC、PFC、SF6のような寿命の長いガスの対策が進むかどうかに強く依存します。現在の対策が将来の気候を大きく左右することになるのです。これらのことから、CO2対策とともに、すべての微量ガスの排出削減対策を進める必要性が理解されます。京都議定書が100年GWPで各ガスをCO2換算することにしたのは、特に21世紀にわたる温暖化の対策として設定したものと評価できるでしょう。

注1
CO2 1kgと対象ガス1kgを同時に大気に放つと仮定したとき、CO2は自然の吸収源に吸収され放出パルスによる濃度上昇がだんだんと小さくなる一方で、対象ガスも対流圏の大気反応や成層圏への輸送で濃度は低下します。現時点から20年、100年、500年後までというように大気濃度上昇とガスの放射強制力(赤外線吸収効果)の積を時間積分し、単位重量CO2の積算的温室効果に対する単位重量対象ガスの積算的温室効果を求めた数値がGWPです。
注2
PFC、SF6は寿命が非常に長い(700〜50000年)。CFCは寿命が長い(45〜1700年)。HFCは寿命の長いものから短いものまで多様です(1.4〜270年)。HCFCは比較的寿命が短い(1.3〜18年)。

参考文献

  • IPCC第4次評価報告書第1作業部会報告(第2章、第7章)

さらにくわしく知りたい人のために

  • 出版はやや古いが、ノーベル化学賞受賞の大気化学者らによる解説
    T.E.グレーデル, P.J.クルッツェン (松野太郎 (監修), 塩谷雅人, 田中教幸, 向川均 (訳者)) (1997) 気候変動 21世紀の地球とその後. 日経サイエンス社.
  • 地球温暖化ポテンシャルの解説など
    特集:地球温暖化にどう立ち向かうか—温暖化防止に挑む科学技術・研究— (2007) 現代化学, 2007年9月号, 東京化学同人.

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