ココが知りたい温暖化

Q16温暖化の「対策費用」とは?

!本稿に記載の内容は2010年3月時点での情報です

温暖化の対策には費用がかかるそうですが、さまざまな対策があれば、かかる費用もさまざまなのではないですか。また、その費用は誰が負担するのですか。

花岡達也

花岡達也 地球環境研究センター 温暖化対策評価研究室 研究員(現 社会環境システム研究センター 統合評価モデリング研究室 主任研究員)

ニュースでよく見る “温暖化対策の費用” は、「温暖化対策を取らないケースと対策を取ったケースを比較し、その間で生じる費用の差」を意味することが多くあります。対策には、技術的・システム的・制度的なものなどがあり、また民生部門、運輸部門、産業部門などの部門ごとに多種多様でその規模も異なるので、対策にかかる費用も、その費用対効果も高いものから低いものまでさまざまです。そして、対策を導入するために要する費用は結局のところ、直接・間接的に最終消費者、つまり私たち一人ひとりが負担しています。

温暖化の対策とは? 対策の費用とは?

「温暖化の対策」には、大きく分類して「温室効果ガスの排出削減対策」(例えば、省エネ機器の導入)と、「温暖化影響に対する適応対策」(例えば、海面上昇に対して堤防を導入)があり、それぞれ対策には費用がかかります。また、対策ではありませんが、温暖化の影響により受ける被害も “費用” と考えることができます。対策をとってもある程度の温暖化は避けられないと考えられているため、温暖化影響による被害の費用や影響への適応対策の費用について議論することは重要ですが、対策の考え方や費用の算定方法が異なるので、ここでは温室効果ガスの削減対策の費用についてのみ解説します。

地球温暖化防止に向けて、京都議定書の第一約束期間(2008〜2012年)が始まり、日本では1990年に比べて温室効果ガス排出量の6%削減を約束期間内に達成することが義務づけられています。2007年時点ですでに1990年比で9.0%増なので、日本が約束を守るには約15%以上の削減が必要になります。そこで、削減を実現するためには、その削減対策費用が必要になります。

どのような対策があるのか?

削減対策の例として、高効率設備の開発や導入(産業部門)、燃料の転換(発電部門)、エンジンの燃費改善(運輸部門)、省エネ機器の導入(民生部門)、メタンガスやフロンガスの回収(廃棄物部門)、家畜糞尿処理の管理や農耕地の管理(農業部門)、植林や森林管理(森林部門)、さらにIT化による製造・輸送システムの効率化、炭素税の導入など、技術的な対策、システム的な対策、制度的な対策があります。このように多種多様な対策があり、その規模も大小異なるので、対策にかかる費用も、その費用対効果も高いものから低いものまでさまざまなものがあります。また、啓発活動による人々のライフスタイルの変革(たとえば、TVを見る時間を短縮する、自家用車の利用を控えるなど)ももちろん有効な対策です。ただし、啓発活動の効果は各個人の意識や取組みに依存し、不確定要素が大きいため、定量的な評価が難しいところです。

温暖化の “対策費用” とは?

削減対策の費用は、「対策そのものにかかる直接費用」、「対策を取らないケースと比較し、対策を取ったケースとの間で生じる費用の差」のいずれかで表現されます。分析では “費用の差” で評価されることが多く、これを “追加的な費用” と呼びます。ただし、ここでいう費用とは、技術や設備の導入費用の追加分なのか、燃料費用や運転費用などの節約分も考慮された費用なのか、さらに、対策によって生じる波及効果を含む間接的な費用も考慮されたものなのか、費用として捉えられる範囲が異なることがあります。そこで、温暖化対策の分野で考えられる費用概念を大きく四つに整理すると、(1) 個々の対策の導入に必要な費用、(2) 特定の部門を対象に推計された費用、(3) GDPやその構成要素(消費や投資など)への影響として推計された社会経済全体の費用(以下、経済的費用と呼ぶ)、(4) 人の福利厚生の水準の変化として推計された社会福祉全体の費用、と個別対策の費用から社会全般の一般的な費用まで分類されます。新聞報道で特によく見かけるのは (1) から (3) で測られた費用ですが、一般のニュースでは数値だけが報道されるため、どの費用のことなのかわかりません。

よく聞く対策費用の例

例えば、次のようなニュースを見かけることはありませんか?

a)
鉄鋼業による省エネ対策の費用対効果を推計すると、炭素トンあたり○○万円となる
b)
産業界の省エネ対策で△△万トンの二酸化炭素(CO2)が削減可能で、その経済ロスは○○兆円

例文a) では、“追加的な費用” で測られた対策費用を表わします。比較の基準となる “対策を取らないケース” を “基準ケース” と呼びますが、たとえば個々の企業や技術に注目した場合の “追加的な費用” とは、ある企業が基準ケースで用いている技術Aと導入検討している省エネ型の技術Bを、固定費用と数年間の可変費用[注1]を考慮して比較したとき、必要となる費用の差です(図1)。温室効果ガスの総排出量は技術の導入量によって違ってきます。したがって、対策ケースでどのような対策を考慮するかだけでなく、基準ケースをどのように想定するかも、削減量や削減費用の算定に影響を与えることになります。

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図1個々の技術の導入に必要な費用に基づいた追加的な費用の概念

例文b) は、対策によって生じる二次的な波及効果を含む間接的な費用が考慮された「社会経済全体の費用」を表しています。たとえば、企業が削減対策を実施し、その費用をすべて負担すると、その企業の収益は低下します。そのため、企業の経営者や株主の所得は低下し、また労働者への賃金支払いも低下するかもしれません。そして、彼らの所得が影響を受けることで消費量が減少すると、それが企業の生産活動に影響を及ぼすことになります。このような間接的な効果を含めたものが経済的費用であり、削減対策の実施によって生じる経済的費用は、結果的に私たちが負担する費用を表していることになります。

「私たちが負担」と書きましたが、誰がどのように負担しているのでしょうか? たとえば、自動車メーカーが低燃費自動車を開発する場合、直接的には企業がその費用を負担しますが、その企業はかかった費用の一部を製品価格に反映させることで、間接的には私たち最終消費者も削減対策費用の一部を負担することになります。これを “価格転嫁” といいます。一方、企業側でみると、製品価格に転嫁せずに開発費用を企業が負担すると、企業の収益低下によって(最終消費者でもある)経営者や株主や労働者の所得に影響します。したがって、「対策を導入する各主体の対策費用は、直接・間接的に最終消費者が負担する」といえます。

環境産業を生み出す社会にむけて

温室効果ガスの排出削減対策をこのまま取らない場合、将来、適応対策の費用や温暖化影響による被害の費用が必要となり、世界経済が被る損失は大きいと報告[注2]されています。よりよい環境を次世代に残すためにも、排出削減対策を早急に取る必要があります。その削減対策を実施するためには費用がかかりますが、その一方で、新たなビジネスチャンスを生み出すこともあります。たとえば、低燃費自動車に関しては、開発費用が製品価格に転嫁されることで購入価格は高くなるけれども、最近のガソリン価格の高騰により、人々はよりよい燃費の自動車を求めるようになった結果、そこに新たなビジネスチャンスが創出されました。重要なことは、一部の業界が偏って費用負担するのではなく、環境負荷の大きさがきちんと価格に反映され、財・サービスの価格を通じて、なるべく多くの人々に対して環境に良いものを自然に促すような社会経済システムを作り、一人ひとりの負担を小さくすることです。そして、たとえば、工場やビルの省エネルギーに関する包括的なコンサルタント事業[注3]などのように、削減対策や省エネ意識の高まりによって新しい需要が生まれ、さまざまな新たなビジネスチャンスが創出されることが期待されます。

注1
固定費用とは「設備や技術など、その対策の導入にかかる初期費用」をいい、可変費用とは「燃料費用や運転費用など排出削減量に伴って変動する費用」のことをいいます。
注2
Stern Review on the economics of climate change (2006)
注3
ESCO(Energy Saving Companyの略)事業といい、現在までの企業活動や環境を損なうことなく省エネルギーを実現する事業。 http://www.eccj.or.jp/esco/index.html#link_3

さらにくわしく知りたい人のために

  • 経済や費用関連の用語については
    金融・経済用語辞典(2005)経済法令研究会.
  • 費用分析については
    IPCC第4次評価報告書第3作業部会(英語のみ) http://www.ipcc.ch/ipccreports/ar4-wg3.htm

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