ココが知りたい温暖化

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二酸化炭素の削減と生活の質
質問

二酸化炭素の削減と生活の質

二酸化炭素濃度の上昇をどこかで止めるためには、二酸化炭素の排出量を現在の半分以下にまで減らさないといけないと聞きました。よほど生活の質のレベルを落とさない限り、そんなことは不可能ではないですか。
私が答えます:地球環境研究センター温暖化対策評価研究室 主任研究員 藤野 純一

温暖化の影響は既に顕われています。ヒマラヤの氷河や北極の氷がこの20年間にだいぶ失われてしまいました。さらに温暖化が進めば、Q.温暖化と海面上昇で取り上げた海面上昇の他、巨大な台風や突発的な大雨の増加だけでなく、海洋大循環の停止など一度起こったら取り戻せない影響も起こることが危惧されています。

温暖化の影響は気温の上昇幅、上昇スピードや対象となる地域によって様々に顕れるので、気温上昇を何度に抑えれば良いと、一概に決められるものではありません。しかし、世界全体の目標を設定するために、気温上昇を様々な温暖化影響が顕れる2℃(産業革命以前の全球平均温度を基準)以下に抑えることを議論の出発点としてはどうかと提案されています。

現状では、人間の活動により排出される二酸化炭素(以下、CO2)は年間約60億トン(炭素換算)で、そのうち半分の約30億トンが陸域と海洋で吸収され、残りが大気に蓄積されています。それにより大気中の二酸化炭素濃度は増加し、温暖化の主原因になっています。

温暖化による大きな影響を避けるために、将来どれだけの温室効果ガスの削減が必要になるか、気候変化や経済動向を表現する数値シミュレーションモデルを用いて計算したところ、2050年には世界の温室効果ガス排出量を1990年に比べて約50%削減し、それ以降さらなる削減が求められることがわかりました。先進国である日本は、それ以上の削減、つまり60-80%の削減が求められるかもしれません。しかし、生活の質を落とさずにそのような削減が可能なのでしょうか?

CO2を排出する主な原因を一つずつ分解した式は、「茅恒等式」として世界的に知られています。この式を用いて、どのように削減すればよいか検討します。

CO2排出量=(CO2/エネルギー)×(エネルギー/GDP)×(GDP/人口)×人口

第1項は炭素集約度と呼ばれ、1単位あたりのエネルギーを利用するときに排出されるCO2の割合を表します。化石燃料と比べてCO2をあまり排出しない再生可能エネルギー(風力や太陽エネルギー)や原子力発電の割合を増加させる、さらにはCO2排出の少ないエネルギーで製造した電気や水素を効率的に利用するといった対策で、大幅に改善できる可能性があります。第2項はエネルギー集約度と呼ばれ、1単位あたりのGDP(国内総生産:日本国内で生み出される経済的な付加価値)を生産するときに必要となるエネルギーの割合です。日本が得意とする省エネ技術をさらに発展させることや、エネルギーを多く消費する経済活動から、IT技術等を利用した省エネ型の経済活動に転換することで、大幅に改善できる可能性があります。第3項は国民一人あたりが生産する経済的な付加価値で、生産活動および消費活動が増えるほど増加します。2005年に内閣府が出した「日本21世紀ビジョン」では、2030年の一人当たりGDP成長率として2%程度の伸びを目指しています。第4項の人口については、国立社会保障・人口問題研究所が2002年1月に行った推計によると2000年の人口1億2千7百万人が2050年には1億人にまで減少することが予想されています。

私たちが進めている「日本脱温暖化2050研究プロジェクト」では、一人当たりGDPが年率2%で成長しても、上述の「茅恒等式」の第1項、第2項に関連する項目を中心にして様々な対策を組み合わせることで、日本のCO2排出量を1990年に比べて70%削減できることを示しました(図)。しかし、たとえば太陽光発電を普及させるためには、効率向上及びコスト削減を可能にする技術開発、普及策を推進する制度設計、利用する消費者の協力が必要です。一つ一つの対策を実現させるために、様々な主体の努力を積み重ねれば、GDPの成長と大幅な温室効果ガス排出量削減の両立が可能になるでしょう。

図 2050年における日本のCO2排出量の70%削減を実現する対策の検討
図 2050年における日本のCO2排出量の70%削減を実現する対策の検討

ところで、経済成長を表現するときの代表的な指標であるGDPは、生活の質を表現しているのでしょうか?GDPの増加は、モノ(量)の豊かさの増加を反映します。自宅で野菜を育て家でごはんを食べるより、外食した方がGDPは増加します。犯罪が増えると、警察や家庭内セキュリティーサービスにより多くのお金を使うことで、GDPは増加します。それは本当に幸せなことなのでしょうか?

「生活の質」とは何なのでしょうか。私はその答えを探している段階です。人々が住みたいと思う脱温暖化社会が実現できるよう一緒に考えませんか。

さらに良く知りたい人のために
○日本脱温暖化2050研究プロジェクト, http://2050.nies.go.jp
○ドネラ・H・メドウス, デニス・L・メドウス, 枝廣淳子 (2005) 地球のなおし方. ダイヤモンド社.
○金子勝 (2005) 2050年のわたしから. 講談社.
○エルンスト・U・フォン・ワイツゼッカー, エイモリー・B・ ロビンス, L・ハンター・ロビンス (1998) ファクター4―豊かさを2倍に、資源消費を半分に. 省エネルギーセンター.
○新宮秀夫 (1998) 幸福ということ―エネルギー社会工学の視点から. 日本放送出版協会.

地球環境研究センターニュース2006年12月号(2006年12月27日発行)に掲載]