ココが知りたい温暖化

Q2海から二酸化炭素が放出された?

!本稿に記載の内容は2010年3月時点での情報です

人間が出した二酸化炭素が大気中にたまって地球の気温が上がるのが温暖化問題と理解していましたが、気温が上昇した結果、海から二酸化炭素が放出され、大気中濃度が上昇しているという説明も耳にします。どちらが本当なのですか。

向井人史

向井人史 地球環境研究センター 炭素循環研究室長 (現 地球環境研究センター長)

ここ150年間で気温や海水温は0.7°C程度上昇していますが、この温度上昇で海洋から二酸化炭素が放出され大気中濃度が上昇したとすると、その増加は10ppm程度でしかなく、この間の濃度増加量である約90ppmを説明できません。この大きな濃度上昇は、産業革命以降、化石燃料の燃焼や森林の破壊などによって、炭素換算で約4670億トンという莫大な量の二酸化炭素を排出したためです。その間、海洋は二酸化炭素を放出したのではなく、正味で吸収したと考えられます。(以下、本文での量はすべて炭素換算で表記しています)

ここ150年で海洋から二酸化炭素(CO2)が出て大気中にたまったとすると不自然

化石燃料燃焼やセメント生産による人為起源のCO2発生量はある程度正確にわかっており、1850年から2004年までの合計量は3120億トンとされています[注1]。また森林伐採などにより放出された分は1550億トン程度と推定されます[注2]。この合計は4670億トンになります。この量は大気のCO2濃度を217ppm増加させる計算になります。ところが実際の大気中のCO2はこの間287ppm[注3]から377ppmまで、90ppmの増加が観測されています。したがって、この差の濃度分(127ppm:量にすると2730億トン)は、大気に蓄積せず自然界のどこかへ吸収されたことになります。

自然の吸収源として考えられるのは、陸上植物か海ということですが、現在の知見では、両者とも同程度のCO2を吸収したと考えられています(図1左)。さて、もしご質問のように、長年の気温上昇のために海洋からCO2が放出されて大気中に90ppmが蓄積したと考えると、この収支計算はどうなるでしょうか。大気中の90ppmのCO2量は1940億トンになりますので、これが海洋から放出されたとしてみます(図1右)。すると、人為起源の4670億トンは大気中に蓄積できないので、陸上植物がすべて吸収しないといけない計算になります。植物の現存量は炭素にして6000億トンなので、もし4670億トン吸収したとすると、現存量と同じぐらいの莫大な炭素が陸上の生態系に新たに溜まっていないといけない計算になります。これは同時に、われわれがいくら石油や木材を燃やしても植物が吸収してくれるので濃度が変わらないということを意味していて、不自然です。

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図11850年〜2004年のCO2の正味の発生と吸収

海洋からではなく、人為起源のCO2が大気にたまっている証拠

石油、石炭、天然ガスの消費や森林破壊などによりCO2が増加したことを示す良い証拠として“炭素同位体”の観測があります。実は、CO2の炭素原子は、質量数13という少し“重い”炭素と質量数12という“軽い”炭素で構成されています。海水には相対的に“重い”炭素を含むCO2が多く含まれ、一方、植物や化石燃料などは“軽い”炭素が多いという特徴があります。よって化石燃料の消費や森林燃焼によってCO2が放出されると、“軽い”CO2が増加します。一方、海水からCO2が放出されると、“重い”CO2が増加します。これまでの観測によると、どの緯度帯においても軽い炭素が増加していることが知られています(図2)。これは、海洋からCO2が放出されているのではなく、化石燃料や森林燃焼からの“軽い”炭素を含むCO2が蓄積していることを示しています。

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図2太平洋上の大気で観測されたCO2の炭素同位体比の減少トレンド(凡例の数字は緯度[プラスが北緯、マイナスは南緯]を表す)

海水温度の上昇によってもたらされる海洋からの放出は?

海水と大気を接触させておくとその境界面ではCO2の分子が行き来して、放っておくと最終的には両者の大気濃度が一定になります[注4]。その時の濃度を平衡濃度と呼びます。たとえば、産業革命以前は大気と海水でCO2の濃度は変化が小さく、その時の海水のCO2の平衡濃度は280ppm程度と考えればよいことになります。ここ150年間に地球表面温度は0.7°C程度上昇しました。海水温の上昇も同様に起こりました。海水温が高くなれば海水中に存在している重炭酸イオンの化学平衡のずれやCO2の溶解度の減少によって海水と平衡にあるCO2濃度が高まります。海水のCO2の平衡濃度の変化の大きさは1°Cの海水温度上昇に対して4%程度であるとされています[注5]。たとえば280ppmから考えると、0.7°C海水温が上昇すると、8ppm程度平衡濃度が増加し288ppmで大気濃度が安定化することになります。つまり予想される濃度増加は大きくありません。

しかし実際には、大気中濃度は150年で90ppmの増加が起こっています。つまり、海水温上昇によって起り得る濃度増加よりも実際の大気の濃度増加の方がはるかに大きいことがわかります。これによって、海洋は大気濃度より常に低い平衡濃度をもつことになり、その結果、CO2正味で吸収することになるわけです。なお、地域的にいうと、海洋はCO2を吸収しているところばかりではなく、放出しているところもあります。しかし全体としては吸収が勝っているということになります。

エルニーニョ現象が起こるペルー沖の赤道付近の海水は、現象時に温度が上昇することが知られていますが、そのような場合でも海水からの急激なCO2放出は起こらないのでしょうか? 実は、このエルニーニョの海域は他と異なり、常に深層からCO2濃度の高い海水が湧きあがっているため、海水温は相対的に低いけれどCO2の放出海域になっています。これがエルニーニョになると深層からの湧き上がりが弱まり、温かい表層海水がその海域を蓋のように覆いますので、それまでのCO2の放出は逆に抑えられる結果となります。つまり、この海域は通常と逆で海水温が高くなるときには、CO2の放出量が減ることになります。

なぜ気温の変動とCO2濃度の増加速度の変動とが相関するのか?

その年の平均気温が高いとCO2の年間の濃度増加速度も大きいという相関関係があることはよく知られています[注6]。たとえば、顕著なエルニーニョ年の1997〜1998年には気温が高く、大気中のCO2濃度の増加速度も通常の2倍程度(3〜4ppm/年)になりました。このことから、温度上昇によってCO2が海洋から放出されているかのように思われる方がおられるかもしれませんが、そうではありません。

大気中濃度増加速度は“放出”するものと“吸収”するもののそれぞれの効果の足し算になります。人間活動による放出は気温の変動に関係なく、年に+4ppmぐらいの速度で濃度を押し上げようとします。これに対して自然界は、年に約2ppmの吸収速度で濃度を下げようとします。結果その差し引きの2ppm/年が大気中の平均の濃度増加速度ということになります。さて、この時、気温や降水量が変化すると、自然界の吸収速度に変動が起こります。実はこれが気温とCO2の増加速度が相関関係をもつ理由です。

気温が高い(多くの場合エルニーニョ現象と関係している)年には、アマゾン地域の乾燥化による光合成量の減少や、高温および森林火災による呼吸・分解量の増加などで、陸上の生態系の吸収量が、熱帯を中心に減少すると考えられています。そのため、通常の2ppm/年の濃度増加速度は、森林の吸収量が減ることで3〜4ppm/年に増加することになります。

一方、海洋吸収量の年々変動は小さいと考えられています。なぜなら気温変動より海水温変動が小さいことに加え、その変動による海洋側の平衡濃度の変化は、実際の大気-海洋間のCO2の移動量に対して寄与が小さいと考えられているからです。さらに上述のように気温の高いエルニーニョ年には赤道海域からのCO2放出量が減少し、海洋全体の温度上昇効果による吸収量減少を相殺します。したがって、毎年の海水温変動によって、海洋吸収量はそれほど大きく変動することはないというのが通説になっています。

このように、気温などが変化すると、主に陸上の生態系による吸収速度が変化するために、CO2濃度の年間増加速度と気温には相関関係が見られるのです。

注1
T. A. Boden, G. Marland, and R. J. Andres, CDIAC http://cdiac.ornl.gov/trends/emis/tre_glob.html
注2
R. A. Houghton, CDIAC http://cdiac.ornl.gov/trends/landuse/houghton/houghton.html
注3
D. M. Etheridgeら, CDIAC http://cdiac.ornl.gov/trends/co2/lawdome.html
注4
ココが知りたい地球温暖化「海と大気による二酸化炭素の交換」参照。
注5
Takahashi, T., Olafsson, J., Goddard, J. G., Chipman, D. W. (1993) Seasonal variation of CO2 and nutrients in the high-latitude surface oceans: a comparative study, Global Biogeochem. Cy., 7, 843-878.
注6
World Meteorological Organization (2009) WMO WDCGG DATA SUMMARY, WDDGG No.33, GAW DATA Volume IV —Greenhouse Gases and Other Atmosheric Gases, published by JMA.

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