ココが知りたい温暖化

温暖化の科学
温暖化の影響
温暖化の対策
カーボン・オフセットって何?
質問

カーボン・オフセットって何?

「カーボン・オフセット」をすると自分が出した二酸化炭素を帳消しにできるそうですが、本当ですか。また、それに参加するとしたら、どんなことに注意する必要がありますか。
地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 田辺 清人
本当です。適切な考え方や手続きに従って行われるカーボン・オフセットは、自分自身の活動に基づく二酸化炭素(CO2)排出の影響を帳消しにします。また、適切なカーボン・オフセット活動は、日本社会の低炭素化への移行や途上国の持続可能な開発を促進するといった、副次的なメリットももたらすと期待されます。それらを実現するためには、信頼できる民間事業者(カーボン・オフセット・プロバイダー)を選んでオフセット代行を委託する必要があります。

カーボン・オフセットとは何か

窒素酸化物(NOx)など地域的な大気汚染をもたらすガスと違い、CO2など温室効果ガスは地球上のどこで削減しても効果は同じです。このため、地球上のどこか別の場所でCO2を削減することによって、自分自身のCO2排出の影響を帳消しにできます。「カーボン・オフセット」とは、広義には、この考え方に基づいて実施されるあらゆる取り組みを指すと考えられます。

環境省は、2008年2月に発表した「我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針)」の中で、カーボン・オフセットを次のように定義しています。「市民、企業、NPO/NGO、自治体、政府等の社会の構成員が、自らの温室効果ガスの排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、他の場所で実現した温室効果ガスの排出削減・吸収量等を購入すること又は他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動を実施すること等により、その排出量の全部又は一部を埋め合わせることをいう。」カーボン・オフセットの取り組みが早くから行われている英国でも、環境・食糧・農林地域省(Department for Environment, Food and Rural Affairs: Defra)が似たような定義をしています。冒頭に示した広義の「カーボン・オフセット」に対して、これらは、カーボン・オフセットの理念を強調するためのより限定的な定義といえるでしょう。

どうやってオフセットするのか

カーボン・オフセットのためのCO2削減方法はさまざまにあります。自分自身で植林してCO2を大気中から吸収・固定するのは一つの方法です。あるいは、他人が実施する植林や排出削減プロジェクトに資金を提供することで、一定量のCO2削減に貢献する方法もあります。現在よく使われている方法は、市場に出回る「排出権」(一定量の温室効果ガスを排出できる権利)を利用するものです。

あなたが10トンのCO2排出をオフセットしたい場合、例えば、京都議定書の下で有効な排出権の一種であるCERs(Certified Emission Reductions)を市場から10トン分購入し、それを他者が絶対に使えないようにすればよいのです。排出削減目標を課せられている国は、CERsを使えば目標で制限されている量以上に温室効果ガスを排出できるのですが、あなたの行動によって、少なくとも10トン分はそのチャンスが失われます。各国は本当の排出削減により積極的に取り組まねばならなくなり、結局あなたは10トン分のCO2排出削減あるいは排出未然防止に貢献したことになるわけです。

排出権を使うという点で、カーボン・オフセットは、国家間や企業間で行われる排出権取引と似ています。しかし、排出権を使う動機が、カーボン・オフセットと排出量取引では異なります。排出権取引制度では、国家や企業は何らかの排出規制をかけられており、そこで課せられる目標を達成するために、やむを得ず排出権を使います。一方、カーボン・オフセットは、他者から何も規制をかけられていない状況で、私たちが排出削減に貢献したいという願いや責任感に基づいて行う自発的な活動であり、その手段として排出権を使うのです。

実際には、私たち一般市民が、自分自身で排出権を市場から購入して他者が使えないようにするのは容易ではありません。このため、オフセットを支援・代行してくれる民間事業者(カーボン・オフセット・プロバイダー)が次々と誕生しています。私たちは、各プロバイダーが提供するオフセット方法についての情報を手がかりに、最もよいと思う事業者を選択することができます。代行委託の料金は、プロバイダーによってさまざまですが、日本では概ね4,000~6,000円/トンです。(2008年8月22日現在)

オフセットすべき「自分の排出量」とは

それでは、いったいあなたは何トン分をオフセットすべきなのでしょうか。その問いに対して、唯一つこれだけが正しいという答えはありません。カーボン・オフセットとは、他人に強制されて行うものではなく、「地球温暖化問題の解決に貢献したい」という自分自身の意思に基づいて行うものです。私たちの日常生活やレジャー活動からはさまざまな形でCO2が排出されています(図1)。何をもって「自分の排出量」と見なし、そのうちどれくらいをオフセットするか、ということを自分自身の考えに従って決めた後、なるべく正確にその量を計算すればよいのです。

例えば、「先日の海外旅行は楽しかったが、そのためにCO2を大量に出したはずだ。せめて往復の飛行機からのCO2排出量の一部を、自分の責任分としてオフセットしたい」というケースがあります。一方、「自分のCO2排出活動をなるべく幅広く把握し、そこから出るCO2をすべてオフセットしたい」と考える人も、少数ながら増えているようです。

特定の具体的な活動に注目して排出量計算するのではなく、「ともかく2トン分をオフセットしたい」と考える人もいるでしょう。これは環境省の示す定義には合致しないのですが、広義には「カーボン・オフセット」といってよいかもしれません。

オフセット対象とすべきCO2排出活動の範囲の設定については、カーボン・オフセット・プロバイダーがさまざまな参考情報やアドバイスを提供しています。また、排出量算定も各プロバイダーのホームページで行えます。

図1

[図1]日常生活やレジャー活動におけるCO2排出源と日本人一人あたりの排出量(2006年度)
(注)各活動につき、2006年度における日本全体でのCO2排出量を全人口で割った平均値。ただし、国際航空利用については、全人口ではなく出国者数で割った平均値を示している。なお、これら一人あたり排出量は参考として示したものである。実際のカーボン・オフセットでは自分自身の排出量を計算することが望ましい。
(資料)国立環境研究所・温室効果ガスインベントリオフィスのデータほか、国土交通省「航空輸送統計年報(平成18年度)」など各種統計をもとに作成。

カーボン・オフセットのメリットと課題

カーボン・オフセットは、私たち一般市民が、自らの責任感に基づき地球温暖化問題の解決に貢献したい、という想いを実現するための有効な手段だといえます。また、この本来意義に加えて、カーボン・オフセットの普及は、

  • CO2排出量の『見える化』の進展を通じて、日本の低炭素社会への移行を促進する。
  • プロジェクト投資や排出権購入を通じて、開発途上国の持続可能な開発を促進する。

という副次的効果をもつと期待されます。

気をつけるべきこともあります。カーボン・オフセットは、ともすると「お金を払ってオフセットすれば、いくらCO2を出してもよい」という無責任な取り組みになりかねません。自分なりの排出削減努力をまず心がけることが必要です。カーボン・オフセットとは、自分自身が地球に与えている負荷を認識したうえで、それに対する責任感に基づいて実施するものなのです。

オフセット代行を依頼する事業者の選択も重要です。民間事業者であるカーボン・オフセット・プロバイダーには、利益重視のビジネス指向型もあれば、理念重視の環境指向型もあります。排出量計算や排出権調達などに関する専門性のレベルも、事業者によってまちまちです。選択にあたっては、事業の理念、CO2算定方法とその根拠、オフセット方法の詳細(排出権調達方法など)、料金設定(排出権調達コストとの関係)、オフセット実施の証明・確認方法、などについての情報公開の有無とその内容が判断材料となるでしょう。

排出権(CERsなど)の最終処理方法も、注目すべきポイントの一つです。京都議定書の目標達成に使う方法(償却)もあれば、英国Defra が指導しているように目標達成に使わずただ失効させる方法(取消)もあります。京都議定書の目標以上の追加的な削減を個人の責任として果たすよりも、日本の目標達成への国民としての貢献を第一に考える場合には、前者が適しているといえます。一方、京都議定書の目標を超えて自分自身の排出削減を追加的に実現し、その分のCO2を地球大気から確実に除去したいと望む場合は、後者が適しています。自分の想いが適切に実現されるか、見極める必要があるといえるでしょう。

さらにくわしく知りたい人のために
○ 國田かおる 編著(2008)カーボン・オフセット. 工業調査会, 160p.
○ 環境省「我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針)」2008年2月
○ 英国環境・食糧・農林地域省(Defra)のカーボン・オフセット関連ウェブサイト
http://www.defra.gov.uk/environment/climatechange/uk/carbonoffset/
○ カーボン・オフセットフォーラム http://www.j-cof.org/

地球環境研究センターニュース2008年9月号(2008年10月15日発行)に掲載]