
最近、日本の夏が暑くなったとよく言われます。実際、2007年8月16日には多治見市(岐阜県)と熊谷市(埼玉県)で観測史上1位となる最高気温(40.9℃)が観測されるなど、毎年のように各地で「最高気温の記録」や「熱帯夜日数の記録」などが更新されています。一方、冬に関しても昔に比べて暖かくなったという声がよく聞かれます。気象庁の統計によれば、ここ10年ほどは、ほぼ全国的に平年より寒い冬が少なく、平年並もしくは暖冬の年が多い傾向にあります。こうした気温の上昇傾向は、最近だけに見られる傾向ではなく、過去100年以上にわたって観測されてきた気象データの解析からも明らかで、ほぼ全国的に冬(12~2月)の平均気温には上昇傾向がみられ、北日本でやや弱いものの夏(6~8月)の平均気温にも上昇傾向が見られます(注1)。また平均気温が上昇すると、その分だけ極端に暑い日も増え、逆に極端に寒い日は減ると期待されますが、実際に日本の各地で、夏の熱帯夜(日最低気温が25℃以上の日)や猛暑日(日最高気温が35℃以上の日)の増加、冬日(日最低気温が0℃未満の日)の減少などが記録されており、これは、人々が気温の上昇傾向を実感する一つの要因になっているものと思われます。
こうした日本における気温上昇傾向を調べてみると、いくつかの点で確かにヒートアイランド現象の影響と思われる特徴をもっていることがわかります。ヒートアイランド現象とは、都市の気温がその郊外に比べて高くなる現象のことで、郊外との気温差は夏季よりも冬季、昼間よりも夜間に大きくなることが知られています(注2)。観測された100年あたりの気温上昇量を日本のいくつかの都市に関してまとめた図1をみると、確かにヒートアイランド現象の効果が強く出る冬季(1月)や夜間(日最低気温 注3)の気温上昇量は夏季(8月)や昼間(日最高気温 注3)に比べて一般的に大きいことがわかります。また、都市間の違いも大きく、例えば1月平均気温の上昇量をみると、中小都市平均では+1℃程度であるのに対して、宇都宮や熊谷などではその2倍、東京や名古屋などの大都市に至ってはその3倍を超える気温上昇となっています。ここで、都市化の影響が少ない中小都市の平均値を日本全体に起こっている平均的な気温上昇量と考えて、それとの差を各都市においてヒートアイランドが気温上昇に及ぼす影響とみなせば、都市の規模が大きくなるほどヒートアイランドの影響が大きくなり、特に東京や名古屋などの大都市においてはヒートアイランドが気温上昇の主要因になっていると考えても良さそうです。こうした傾向は特に冬季や夜間の気温に関して顕著である一方、夏季や昼間の気温上昇に関しては都市間での違いが見られるものの、都市の規模との関係は必ずしもはっきりしていません。例えば、多くの人が気温の上昇を実感する要因の一つと思われる猛暑日の増加は各地で報告されていますが、日田市(大分県)や熊谷市など都市の規模としてはあまり大きくない地点において顕著な増加傾向が見られる一方で、東京や大阪などの大都市であっても有意な増加傾向が報告されていない場合もあります。また、夏の気温上昇傾向の大きな地点は西日本を中心として分布しており、こうした地域性をヒートアイランドの影響だけで理解することは困難です。
[図1]日本の都市における100年あたりの気温上昇量。日最低・最高気温の年平均(左)、年平均・1月平均・8月平均気温(右)の上昇量を示す。各都市名の下にある [ ] 内の数値はそれぞれの都市化率。比較のため中小規模都市の平均値も示す。(異常気象レポート2005、ヒートアイランド監視報告(平成19年冬・夏‐関東・近畿地方)掲載のデータをもとに作成)
以上をまとめると、日本各地で観測されている気温上昇傾向に及ぼすヒートアイランドの影響は確かにあるものの、それは主に冬季や夜間の気温に現れ、またそれが気温上昇の主要因とみなせる地点も大都市に限定される、といえるでしょう。そして、そうした限られた季節・時間・場所以外では、ヒートアイランドが気温上昇の主要因とはなっておらず、ヒートアイランドとは別要因による気温上昇を考える必要がありそうです。
では、ヒートアイランドとは別の気温上昇要因とは何でしょうか。IPCCの第4次評価報告書によれば、20世紀の後半から現在にかけて、陸上のみならず海洋上の多くの領域で各季節の平均気温に上昇傾向がみられ、また過去50年ほど、ユーラシア大陸中央部、東シベリア、アラスカ、カナダ北部などの必ずしも都市化の進んでいない領域を含む陸上の多くの領域で日最高気温、日最低気温ともに上昇傾向が報告されています。これらはそれぞれ、ヒートアイランドとは別の全球的な気温上昇要因の存在を強く示唆しているといえます。全球規模の地球温暖化は勿論こうした気温上昇要因の一つと考えられ、例えばその根拠の一つとして、気候モデルに20世紀における温室効果気体の増加などを与えた実験によって、観測される気温上昇傾向がその地域的分布を含めてよく再現できることが挙げられます。したがって、日本で観測された夏季・冬季平均気温、日最高・最低気温の上昇傾向にも、全球規模の地球温暖化による影響が含まれていると考えてよいでしょう。ただし、夏の昼間の気温にみられる上昇傾向に関しては気候モデルも上手く再現できておらず、猛暑の増加要因は特定が難しい状況のようです。
ヒートアイランドや地球温暖化以外に、数十年規模で繰り返される大気の自然変動なども気温上昇要因として考えられますし、気温上昇量の都市間の違いには地形的な要因も大きく影響を及ぼすでしょう。つまり、日本の各地で寒い日が減り暑い日が増えた原因を単純に都市のヒートアイランドや地球温暖化など、一つの原因だけに押し込めてしまうのは間違いで、さまざまな都市や季節で観測されている気温の上昇傾向は、ここに挙げた各種要因が重なりあった結果であり、都市の状況によってそれぞれの寄与の割合は異なっていると考えるのが妥当といえます。
夏の高温化は熱中症などの健康被害を引き起こし、また、大気汚染の悪化や集中豪雨の頻発との関連が指摘されています。一方、冬が温暖になれば生活はしやすくなるかもしれませんが、降雪量の不足による経済や水資源量への影響、花粉飛散量の増加など必ずしもメリットばかりではありません。こうした生活のいろいろな面に影響が及ぶため、暑い日や寒い日の増減には社会的な関心が高く、その今後の動向にも大きな注目が集まっています。気候モデルを用いた将来の気候予測結果によると、世界中の多くの地域で極端に暑い日の頻度は増え、逆に極端に寒い日の頻度は減少すると予測されていますが、こうした予測に用いられる気候モデルでは都市のヒートアイランドの効果は考慮されておらず、地球温暖化が進展する中での都市環境の将来評価はまだ道半ばといえるでしょう。
さて、ヒートアイランド現象と地球温暖化は直接的な原因は異なりますが、対策面では共通点があります。ヒートアイランド現象の原因の一つとして挙げられる都市における人工排熱は、人間のさまざまな経済活動から排出され、温室効果気体の排出源とも密接に関係しています。そのため、地球温暖化への対策の多くは、都市のヒートアイランド対策にもなり得ますし、逆に屋上・壁面緑化などのヒートアイランド対策は、冷房使用の抑制などを通して温暖化対策としても機能し得ます。今後、都市化がさらに進むとすれば、都市生活者には全球的な温暖化に加えて、ヒートアイランドの影響が上乗せされた、より過酷な気温上昇が待ち受けているでしょう。そうした状況を緩和するためには、対策の共通性を生かして、効率良く気温上昇を抑制していくことがこれからますます重要になってくるものと考えられます。
(注1)春(3~5月)と秋(9~11月)の平均気温にも全国的に顕著な上昇傾向が見られます。
(注2)都市では、人工排熱、コンクリートやアスファルトが多用され植生が少ないことによる蒸発散の減少、建築物による蓄熱や赤外放射の抑制などによって昼間に熱が蓄えられやすく夜間も気温が冷えにくい一方で、郊外では夜間に放射冷却によって地表付近が強く冷やされるため、ヒートアイランド現象による気温の差は昼間より夜間により顕著に現れます。また、夏より冬の方が郊外の冷却が強くなるため、都市によるヒートアイランド現象は冬により顕著となります。
(注3)日最低気温は夜間に観測されることが多いため、日最低気温の変化傾向は夜間気温の変化傾向と考えることができます。同様に日最高気温の変化傾向は昼間気温の変化傾向と考えることができます。