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植林による温暖化対策
質問

植林による温暖化対策

成長中の樹木は二酸化炭素を吸収してくれるそうですが、木はいずれ枯れて朽ち果てるもので、そうなれば二酸化炭素を吐き出すことになって、所詮、植林などは温暖化対策としては一時しのぎではないですか。
私が答えます:地球環境研究センター 炭素循環研究室長 向井 人史

英オックスフォード大学は、2006年に注目された言葉を対象とする 「ワード・オブ・ザ・イヤー」に、企業が排出する温室効果ガスを植林事業などにより相殺し、温室効果ガスの排出をゼロにする考え方を示す「カーボン・ニュートラル」を選びました。しかし、植林された木はいつかは伐採されるか枯れてしまいます。それでも植林が温暖化対策になる理由をどのように考えれば良いのでしょうか。

植林による温暖化対策効果

この効果について考える鍵は、植林地において植林活動の前後でどのように状態が変化するかを比較することにあります。下図は、放棄された農地等の荒地に対して植林を実施した場合について、樹木の成長や伐採に伴う森林生態系(植林地の地上部と、根や土壌中を含む地下部全体)における炭素の蓄積の変化の様子を、これまでに得られている各種の研究データにもとづいて模式的に表したものです。

図 植林の実施前後における炭素蓄積量の変化
図 植林の実施前後における炭素蓄積量の変化
(本図は温帯林の土壌における炭素蓄積変化を表しています。森林成長は暖かいところほど早いのですが、土壌中炭素は、微生物分解による土壌呼吸が減少する寒いところほど大きくなることが知られています。)

森林生態系は、樹木の成長に伴い二酸化炭素(CO2)を吸収します。一方、枯れ葉や枯れ枝、枯死木の全てが直ぐに分解されて大気中にCO2として還るわけではなく、炭素を含んだ土壌有機物として土壌に蓄積し、少しずつ分解しCO2を放出してゆきます。図では、植生と土壌に蓄積される炭素が、植林と伐採(あるいは枯死)の繰り返しによって長期的にどのように変化するかを示しています。森林の成長速度は気候によって異なりますが、この図では数十から数百年間の間に発生する伐採と再生の数回のサイクルにおける変化が示されています。この図を見ますと、確かに伐採によって森林における炭素の蓄積量は一時的に減少しますが、土壌中に蓄えられた炭素は着実に増え続けていることがわかります。すなわち、植林後の森林では、伐採と再生のサイクルを繰り返す中で、全体の炭素の蓄積は徐々に増大してゆくことがわかります。そして、土壌中に蓄えられる炭素は、諸条件にもよりますが、平均的には植生中の炭素量に匹敵する、あるいはそれ以上の量となります。

さらに森林が成熟してゆきますと、最終的には木の成長分と土壌における有機物の分解が平衡状態になり、森林生態系としての炭素蓄積の増大はストップします。植林後の長期的な炭素ストックの平均値に着目すると、植林前の土地にあった炭素の蓄積量と比べて増大することがわかります。すなわち、植林による温暖化対策の効果は、短い間で増えたり減ったりする炭素量ではなく、長期的に見たときに森林全体に蓄えられる炭素蓄積の平均値を増大させる効果で評価することができます。

バイオマス利用による温暖化対策効果

また、伐採された木からCO2が直ぐに排出されるわけではありません。伐採された木は、材木として住宅や家具に利用され、長い間にわたって炭素を保持し続けます。伐採や製材時の残材や廃材がバイオマスエネルギーとして燃料に利用されれば、石油などの化石燃料を代替することで石油などから排出されるCO2の排出の削減につながり、温暖化対策に直接的に貢献することが可能になります。というのも、バイオマスの燃焼で排出されるCO2はもともと大気から森林に吸収されたものなので、バイオマスエネルギーの利用は長い目で見たとき大気中のCO2量を増大させるものではないからです。さらに伐採後に森林が再生しますので、もう一度、この排出されたCO2を吸収することも可能です。このため、植林とバイオマス利用のサイクルによる温暖化対策の効果には限界が無く、CO2の排出削減効果が持続することがわかります。

京都議定書で認められた温暖化対策としての植林事業

日本では植林活動が可能な土地は残念ながら限られていますが、世界的に見ますと、特に途上国において過去の森林破壊によって放置されている荒地がたくさんあります。このような土地に温暖化対策として植林活動を実施することが、温暖化対策に関する国際的な取り決めである京都議定書において、温暖化対策の活動(クリーン開発メカニズム(CDM)と呼ばれる)として認められました。植林は温暖化対策として有効なだけではなく、荒廃した環境を回復し、生物多様性や水の保全、さらには地域における経済の持続可能性の向上にも貢献する可能性があり、これらの追加的な便益も考えると“潤いのある”温暖化対策ということができるでしょう。しかし、CDMとしての海外植林事業による温暖化対策効果の評価には、その事業を実施したことによる追加的な炭素吸収量の算定手法や地域に与える影響の評価などの難しい問題があり、国連からCDMとしての認証を得ることは実際には簡単ではないという問題があります。

さらに良く知りたい人のために
陸域生態系の炭素吸収源機能評価-京都議定書の第2約束期間以降における検討にむけて- (2006)
CGERレポートD039-2006. 下記からダウンロード可能
ホームページ:京都議定書における吸収源情報DB
宮脇昭. 木を植えよ!. 新潮選書.
小林紀之. 地球温暖化と森林ビジネス「地球益」をめざして. 日本林業調査会.

地球環境研究センターニュース2007年1月号(2007年1月31日発行)に掲載]