ココが知りたい温暖化

Q4途上国の温暖化対策は?

!本稿に記載の内容は2010年9月時点での情報です

中国やその他の多くの途上国は、これから経済発展が進み、ますますエネルギー消費(二酸化炭素の排出)が増えるのではないかと思います。そのままほうっておいて、大丈夫なのでしょうか。

甲斐沼美紀子

甲斐沼美紀子 地球環境研究センター 温暖化対策評価研究室長 (現 社会環境システム研究センター フェロー)

中国、インドは経済発展が著しく、また人口も多いことからエネルギー消費量が増大しており、温室効果ガス排出量が急増しています。中国は2007年に、米国を抜いて世界最大の排出国になっています(CDIAC[注1]の速報による)。これらの国における温暖化対策が緊急の課題です。

増加する途上国の二酸化炭素(CO2)排出量

このままの排出量の増加が続けば地球全体の地上平均気温は、2050年には産業革命以前のそれに比べて、2°C以上も上昇するといわれています。2100年には4°C以上の上昇となり、植生変化、サンゴ礁の白化などの脆弱な生態系への影響だけでなく、気候の様相の変化、海洋大循環の停止、南極・グリーンランド氷床の崩壊等の、大規模かつ不可逆な影響が現れる可能性が高くなってきます。

中国は過去10年以上にわたり年平均10%前後、インドは5.5%の経済成長を遂げています。それに伴って、化石燃料由来のCO2排出量も増加しており、中国とインドからのCO2排出量は、2007年には世界全体の25%を超えています。中国の排出量は2007年には66億二酸化炭素トンと、日本の5倍以上となっています(図1)。

figure

図1主要国の化石燃料消費からのCO2排出量(出典:CDIAC)

温暖化進行を防止するには大幅な削減が必要

1992年リオデジャネイロでの地球サミットで150か国以上の国により署名された「気候変動に関する国際連合枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change: UNFCCC、通常、気候変動枠組条約と呼ばれる)」は、「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させること」を究極的な目的としています。この条約では、条約附属書Iに掲げる各先進締約国(以下、先進国)は、CO2やその他の温室効果ガスの人為的排出量を1990年の水準に戻すことを目指しました。また、この条約に基づき、1997年にわが国で開催された第3回締約国会議(COP3)では「京都議定書」が採択され、先進国は、2008年から2012年までの約束期間において、先進国全体の排出量を1990年の水準から少なくとも5%削減するという数値的な排出抑制目標を定め、各国はそれぞれ削減努力をしています。京都議定書に定められた日本の排出抑制目標は、1990年排出量の6%となっています。ちなみに、先進国全体の排出量は、2002年時点で世界全体の54%です。

しかし、京都議定書に定めた排出抑制目標の達成は、温暖化防止の取り組みの第一歩に過ぎず、今後の温暖化の進行を食い止めるためには、2050年には世界全体の温室効果ガス排出量を1990年に比べて約50%削減し、それ以降もさらなる削減を進めることが必要です。先進国の排出量を、将来にわたって大きく削減していくことが重要ですが、同時に途上国の削減が行われないと、2020年頃には、途上国の排出量総量が先進国の排出量より大きくなることが予想されます。また、2025年頃には途上国の排出量だけで、大気中のCO2濃度を450ppm[注2]に安定化するために許容される排出量を上回ることになります(図2)。排出量削減に対する世界全体での本格的な取り組みが重要であるといえます。

figure

図2CO2排出量の予測(IPCC SRES B2シナリオに準拠)

中国の経済成長と温暖化対策

中国政府は2020年までに経済成長を2000年の4倍にするとの目標を立てており、それに伴ってエネルギー需要も増大し、CO2排出量も増加すると予想されています。国際エネルギー機関(International Energy Agency: IEA)は、2010年までに中国のCO2排出量が米国を抜いて世界1位になるとの試算結果を2006年に発表しました。仮に、温暖化対策が何ら行われないとすると、中国の2030年のCO2排出量は1990年の4.5倍にもなると予想されています。

2005年の中国での粗鋼生産は前年比25%増の3.5億トンと、世界生産の3割を占める規模に成長しています(日本は1.1億トン)。また、過剰投資の結果、中国の鉄鋼生産能力は需要を1.2億トンあまり上回っているにもかかわらず、さらに1.5億トン相当の生産設備が建設中および計画中との情報もあります。これまでどおりの成長が続くとは限りませんが、これが現実化すれば、今後も世界のCO2排出量の中で大きな割合を占めることになります。しかし、今の中国では効率性の低い小規模な高炉が大半を占めているため、CO2排出量の削減可能性は大きいと考えられます。適切な投資によって、効率性の高い生産設備に置き換わっていくと想定するなら、CO2排出量をより少なくしていく可能性はあります。

中国政府は、GDPあたりのエネルギー消費量(エネルギー効率)を2010年までに2005年と比べて20%よくするという目標を掲げています。エネルギー安全保障や持続可能な発展の観点からも、これを推進しようとしています。これはエネルギー効率を1年で4.4%改善していくことに相当します。過去の世界のエネルギー効率の改善の実績は、気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC)の第3次評価報告書では、年率1.0%から1.5%と報告されていますので、1年で4.4%というのはかなり高い目標です。非常に高い目標ですので、実現のためのハードルは高いこと、さらに、GDPあたりのエネルギー効率改善という目標なので、GDPが増えればエネルギー消費量の全量は必ずしも減らないという問題があります。

途上国を含めた世界全体での対策が必要

インドなどの現在新興国・途上国といわれている地域においても工業化、農業の近代化、所得の上昇に伴って、エネルギー消費量は急激に増えています。インドでは情報技術(Information Technology: IT)産業などの進展に伴って冷房需要が増大していますが、温暖化はこれにさらに拍車をかけると予想されます。これまで先進国がたどってきたのと同様の大量生産、大量消費を基調とする化石燃料の大量消費による高炭素社会への道に途上国が進むと、地球全体の温室効果ガス排出量は増加の一途をたどり、温暖化はますます進みます。先進国のみの排出削減では、温暖化の防止は実現できません。経済発展を妨げず、同時に温暖化対策を進展する方策を探り、途上国も含めて温暖化対策を実行していくことが必要とされています。

注1
米国エネルギー省所属二酸化炭素情報分析センター(Carbon Dioxide Information Analysis Center)
注2
ppmは、濃度の単位で、容積比100万分の1を表します。

さらにくわしく知りたい人のために

  • アジア太平洋統合評価モデル(AIM)ウェブサイト:http://www-iam.nies.go.jp/aim/workshop.htm
  • 日本エネルギー研究所. エネルギー・経済統計要覧. (財)省エネルギーセンター(毎年発行).
  • 高村ゆかり, 亀山康子編 (2005) 地球温暖化交渉の行方. 大学図書.