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質問

温暖化対策の緊急性

米国は京都議定書から離脱するなど、独自の温暖化対策をとってきました。 自国経済に悪影響というだけでなく、当面研究開発に投資して対策技術で削減を図るということのようですが、それも合理的な考え方ではないですか。
私が答えます:地球環境研究センター温暖化対策評価室 主任研究員  亀山 康子

地球温暖化に対する国際的取り組みを目的としている京都議定書は、1997年に京都にて採択されました。京都議定書では先進国各国に対して、2008~2012年の5年間、決められた量に温室効果ガスの排出量を抑制するよう規定しています。日本は1990年の排出量と比べて6%低い量に抑えなければなりませんし、米国は7%削減することになっています。

「議定書」などの国際合意は、文章の書きぶりが合意された(「採択」と呼ばれます)後、各国の議会の承認を得るなど決められた手続き(「批准」といいます)を経て、批准国がある条件を満たせば効果を持つ(「発効」といいます)ことになります。2001年に米国が京都議定書を批准しないと宣言したことによって一時は発効が危ぶまれた京都議定書ですが、所定の条件を満たすことができ、2005年2月に無事発効しました。

今から対策?後から対策?

図1 いつ、どのくらい減らすのか(概念図)
図1 いつ、どのくらい減らすのか(概念図)

さて、京都議定書がこのように早期の排出削減を求めているのに対して、米国の現ブッシュ政権の方針に見られるように、技術の開発や実用化・普及を促進させることの方が長期的には費用が安くすむ、という意見も聞かれます。どちらがより適切な対処方法といえるのでしょうか。地球温暖化対策は、究極的には将来の大気中温室効果ガス濃度の安定化を目指しているのですから、今排出量を減らさなくても、数十年後により多く減らすことができさえすれば、長期的には同じ目標に達成することが、少なくとも理論的には可能であると考えられます(図1)。

将来の革新的技術に期待するメリットとしては、(1)期待されるすべての技術が開発され、世界中で使われるようになれば、各個人が現在の生活パターンを継続したまま排出量を減らすことができる、(2)技術開発・実用化の中心的役割を果たす民間企業に対してインセンティブを与えられる、(3)京都議定書のような短期目標だけでは小手先だけの対処療法しかとられないおそれがあるのに対して、将来の技術を対象とすることによりインフラ整備など30年余りかかる根本的な対策に目が向けられる、といった点が挙げられます。

他方、将来の技術開発だけに解決を委ねるデメリットとしては、(1)上記のようにすべての技術が理想どおりに開発・普及される保証はなく、それが実現しなかった場合には、いかなる対策も手遅れになる水準まで温暖化が進行してしまう、(2)温暖化に関しては、気温上昇の幅だけでなく上昇速度が問題となるので、排出量の急激な増加を抑えることが重要、(3)技術が世界各国に普及するには20~30年かかるため、将来時点で普及していることを目指すならば、結局今から政策を実施して社会を誘導していく必要がある、(4)本当に将来の革新的技術の方が今からの対策より費用が安くすむのかという点で統一見解はなく、今支払わなくてよいというだけで「安い」と認識するのは適切でない、(5)将来世代に大幅な排出削減を求めることは、現世代と将来世代との間の公平性という観点から問題がある。さらには、将来、今より多くの割合の人口が途上国に住んでいると予想されることから、将来世代に依存することは、先進国と途上国間の公平性の観点からも問題がある、という点が挙げられます。とくに(1)に関しては、とりかえしのつかないことになるため、短期的視野で見た対策費用だけで対策の実施時期を判断するのは適切ではないといえます。

将来の「技術」とは?

ところで、このような議論の中に出てくる将来の排出量を大幅かつ急激に削減できる技術とは、一体どのようなものを想定しているのでしょうか。明確な定義のようなものはありませんが、二酸化炭素を抽出して地中に閉じ込めてしまう「炭素回収・貯留」技術や、炭素回収・貯留と組み合わせた水素エネルギー関連技術、原子力発電の見直し、などが想定されている場合が多いようです。特に炭素回収・貯留についてはすでに現在においても米国などを中心に技術開発が進んできており、費用が下がれば現実的な対策として使えるようになるといわれています。バイオマス関連技術も今後進展が見込まれています。他方、核融合などは現時点においては少なくとも今後20~30年で実用化されることはないだろうというのが大方の予想のようです。

「今か後か」から「今も後も」へ

昨年秋に英国にて公表されたスターン・レビューでは、地球温暖化による将来の影響の大きさと、対策に必要な費用とを経済学的に比較し、影響の大きさを強調した上で早期対策の必要性を論じました。他方、今年2月に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書では、過去3回公表された評価報告書と比べても温暖化の影響が強調されています。同報告書によれば、過去100年間で世界平均気温はすでに0.74℃ほど上昇していることが指摘されました。また、とくに何もしなければ21世紀中にさらに数度上昇すると予想されています(注1)。つまり、今からさらなる温暖化を抑制していくためには、地球全体の排出量を大幅に抑制していく必要があり、今か将来か、ではなく、今も将来も対策を実施しなければならないことを意味しています。今から減らせる部分は減らしつつ、同時に数十年後を見越した技術開発を今から進めていかなくてはならないということです。

米国でも近年、このような認識が着実に受け入れられるようになってきています。今まで開発を進めてきた技術への期待は減退していませんが、今期の連邦議会では温暖化に関する長期目標や温暖化対策の議論が白熱し、国内排出量取引制度導入を目指した法案が上程されています。ご質問にあるような「今やらないで後でやる」という考え方は、そのアイディアの発祥地である米国においても過去の話となりつつあるようです。

(注1)IPCC第4次評価報告書第1作業部会報告書では、21世紀末の平均気温上昇に関して、「環境の保全と経済の発展が地球規模で両立する社会においては、約1.8℃(1.1~2.9℃)である一方、化石エネルギー源を重視しつつ高い経済成長を実現する社会では約4.0℃(2.4~6.4℃)」と予測しています。

さらに良く知りたい人のために
「スターン・レビュー(概要版)」(2006)及び「スターン・レビューに対するコメント」(2007年)(http://www-iam.nies.go.jp/aim/stern/index.htm
小池勲夫編(2006)地球温暖化はどこまで解明されたか-日本の科学者の貢献と今後の展望2006. 丸善株式会社.
高村ゆかり, 亀山康子編(2005)地球温暖化交渉の行方. 大学図書.

地球環境研究センターニュース2007年4月号(2007年5月10日発行)に掲載]