ココが知りたい温暖化

Q6森林の二酸化炭素吸収量の測定方法

!本稿に記載の内容は2024年3月時点での情報です

森林の二酸化炭素吸収量が国全体とか、地球全体とかでどれくらいあるか、どうやって知ることができるのですか。 

髙橋善幸 伊藤昭彦

髙橋 善幸 (国立環境研究所)1 伊藤 昭彦 (国立環境研究所)2

国や地球全体の森林による二酸化炭素の吸収量は、現場レベルの観測と統計データ、モデルや衛星観測といった最新の手法を組み合わせて値を求めています。 

陸域生態系(森林など)は大量の二酸化炭素(CO2)を吸収する

2021年に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書では、世界全体で陸域生態系(森林や草原、農地など)は2010年から2019年の10年間の平均として年間に炭素量にして34億トンほどのCO2を正味で吸収していると見積もられています。これは、森林破壊と土地利用変化に伴うCO2放出分よりも大きく、人間活動によって放出される温室効果ガスの収支を考える上で重要な要素となっています [注1] 。では、どうやって世界全体の吸収量を求めているのでしょうか。 

まず、森林での炭素の流れを説明しておきましょう。陸上の植物は光合成によって、大気中のCO2からバイオマス(すなわち、葉、幹 (茎)、根など [注2])を生産しています。それはやがて落葉や落枝となって地面に落ち、微生物の働きなどにより土壌がつくられます。炭素はこのようにバイオマスや土壌として生態系に貯まっていることになります。生きている植物は貯めている炭素の一部を呼吸に使うことでCO2として大気へ放出し、微生物も土壌有機物を分解しCO2を放出します。人間活動が加わると木の伐採や切りくずの廃棄によっても蓄積された炭素量の変化が生じますし、火災時には有機物が燃えて大気に放出されます。「森林の吸収能力」という場合、光合成によるCO2の固定量全体を考える場合と、光合成により固定されたCO2から植物や微生物によって大気中へ放出されるCO2を差し引いた正味量を考える場合とがあるので注意が必要です。温暖化問題を考えるときは、陸域生態系が大気のCO2をどの程度変化させたかを評価することが重要ですから、吸収と放出とを両方考えた正味の吸収能力で議論するのが適切でしょう。 

微気象学的方法で森林の吸収量を測る

目で見渡せる1キロ四方程度の森林なら、CO2の吸収量を直接測定することができます。森林の中にタワーを建て、森林の上で空気の動きとCO2濃度の変化の関係性を精密に測定することで、森林へのCO2吸収量を時々刻々測る方法(微気象学的方法と呼ばれます)が開発されています(図1)。この方法により無人の観測施設において太陽光パネルなどで得られる小さな電力で長期連続観測が可能となったため、それまでアクセスが困難であったり、電力インフラがないなどの理由で観測や調査が困難であった場所でのデータの収集が飛躍的にすすみました。近年では、このような方法により世界900地点以上(2023年時点の世界的観測ネットワークFLUXNETへの登録数より)で観測が行われてきました。それらの成果から、多くの森林で1ヘクタールあたり年間1トン程度の炭素吸収が生じていることがわかっています。また、多地点のデータを比較したり、長期間の測定データを解析したりすることで、森林ごとの吸収能力の差や環境条件の変化に対する応答などについて研究が進められています。さらに、森林への炭素吸収がどういうメカニズムで生じているかを理解することは、環境変動が起こったときに森林の炭素吸収がどう変わるかを予測する基礎になります。今までの研究から、大気CO2が増加したことによる光合成速度の増加(CO2施肥効果[注3])、近年の環境変化による植物の成長促進、植林の効果などがメカニズムとして考えられています。一方、将来、温暖化が進んだ場合には、微生物の活動が活発化し、土壌有機物が分解しやすくなることでCO2放出量が増える可能性が示されています。森林の炭素吸収の将来予測をより正確に行うためには、このように複雑に絡まり合った効果を考慮する必要があります。 

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図1微気象学的手法の代表的なものである渦相関法のイメージ

参考:長期観測を支える主人公—測器と観測法の紹介-1 渦相関法


積み上げ方式で国全体の吸収量を推定する

より広い範囲の森林の吸収量は直接はかることはできませんが、それを知るにはどうしたらよいでしょう? 森林のバイオマスや土壌中の炭素量をはかることで吸収量を求める、積み上げ法またはインベントリ法と呼ばれるものが使われます。これは、植物や土壌の中に貯留された炭素量の変化から、ある期間の積算した炭素の吸収量を求めるものです。もちろん、国中の木や土壌をすべて測定するのは無理なのですが、国土の3分の2を森林が占める日本においては、重要な産業である林業の経営に関係するため、全国各地の試験地において長期にわたって統計的なデータが集積されてきています。それを使えば、市町村や国ごとの炭素吸収量を概算することができます。実際、1997年に採択された京都議定書の第一約束期間(2008-2012年)における森林吸収源の算出でも、このような手法が利用されていました。

近年、市場を利用して温室効果ガスの排出削減量を売買できる仕組みとしてカーボンクレジットがあり、日本では2013年度以降の排出削減対策、吸収源対策を積極的に推進するために「J-クレジット制度」が運用されています。この中で森林分野(森林管理プロジェクト)では「森林経営活動」「植林活動」「再造林活動」の3つの方法論があり、森林の正味の炭素吸収量を算定してクレジットとして認証できるようになっています。この算定は日本国内で林野庁が中心となって集積した統計データや知見をベースにして行われています。

積み上げ法による推定はバイオマスの測定が人力による作業に強く依存するため、広域化や高頻度化が容易ではありません。しかし、最近ではバイオマスの測定については、ライダー(LiDAR)と呼ばれるレーザー光によって対象物までの距離を測定する技術も活用されつつあります。例えば航空機を用いたライダーでは、数百km2程度の非常に広範囲のバイオマスを推定することができます。ライダーに用いられる機材については小型化・省電力化・低価格化が進んでおり、ドローンに搭載したり人間が背負うことのできるバックパック型パッケージとして運用することで、従来では困難であった森林の詳細な構造の数値化が可能となってきました。また、人工衛星に搭載したライダーによって、ボルネオ島(世界で3番目に大きい島)の数十万km2程度の非常に広大な森林のバイオマス評価を行った事例もあります。このように様々なスケールで測定されたバイオマスの変化が把握できるようになると、これまでに評価できなかった空間スケールでの吸収量の評価につながると期待されます。

地球スケールの炭素循環解明

森林およびそれ以外の土地利用も含む地域・地球スケールの炭素循環を明らかにする研究では、大気中のCO2濃度の空間分布を観測し、その変動から吸収量を求める方法を用います。前に述べたような、植物や土壌にCO2が正味で吸収されると大気CO2濃度は低下する方向になる(逆に、放出の場合は増加)関係を利用します。高いタワーや飛行機を使った広域的な観測に基づいて数百km2以上の広い範囲の吸収量を推定することができます。そのとき、大気の流れによる輸送や拡散を考慮しなければなりませんので、精密な大気輸送モデルを用います。この方法は大気CO2濃度の空間分布から、その分布を作り出した吸収/放出源の分布を推定するため「逆解析」と呼ばれます。近年まで、この方法ではごく大雑把な分布しかわかりませんでしたが、データ量や計算能力の向上によって、より詳細なパターンがわかるようになってきました。大気の観測では陸だけでなく海や人間活動の放出・吸収も同時に検出されますので、その寄与分を分離する研究も盛んに行われています。この方法の問題として、タワーや航空機の観測では地球全体をカバーすることが難しいという点があったのですが、これを克服するために人工衛星を用いて地球上全体の温室効果ガスの分布を測る方法が開発されています[注4]。日本でも2009年1月にGOSAT(温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」)、その後、後継機となるGOSAT-2(温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」)が2018年に打ち上げられました。その観測データを用いて、地球スケールでの陸域生態系や海洋によるCO2吸収の分布や変化をより高い精度で評価する方法が確立されつつあります。 

森林の数値モデルによる評価

温室効果ガスを直接測定するだけでなく、森林の機能をシミュレートするモデルを用いて吸収量を求める試みがなされています。これは植物の光合成と呼吸、土壌微生物による分解といった森林の炭素の動きを、コンピュータ上で計算することで模擬的に再現して吸収量を求めるものです。この方法の大きな特徴は、観測データを集めるのが難しい長い期間や広い範囲について、炭素吸収量を求めることができることです。また同時に、より細かい時間変動や空間変動についても推定することができるという利点もあります。

これまでに述べた微気象学的手法は積み上げ法では肉眼で見渡せるような小さな空間スケールしか推定することができず、逆に航空機や人工衛星により測定されたCO2の時空間分布から見積もる方法では、国程度の空間スケールでの推定となりますので、両者の間にはまだまだ大きな空間スケールの隔たりがあります。この両者の空間スケールの隔たりを埋めるうえで、数値モデルは有効です。

たとえば、図2は、日本国内を1kmの格子に分割し、詳細なモデル計算によって得た2000~2005年の平均的な植物による正味のCO2吸収量の分布です。北から南にかけて吸収が大きくなっていることがわかりますが、これは気候条件の変化にともなって森林タイプが亜寒帯常緑針葉樹林、落葉広葉樹林、暖温帯常緑針葉樹林、常緑広葉樹林と変化していることに対応します。国内の全森林(約25万km2)における吸収量は約3250万トン(炭素換算)と推定されました。温室効果ガスインベントリオフィス (https://www.nies.go.jp/gio/) が統計データなどを用いて計上した森林管理によるCO2吸収量は年間1300万トン程度ですので、それよりだいぶ大きな値となっています。しかしモデル計算では天然林など森林管理が行われていない森林も含む点や、日本の森林の管理放棄や老齢化が進み、日本の森林管理によるCO2吸収量は2003年から2004年をピークとして低下しつつある点には注意が必要です。

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図2モデルで推定された日本国内の森林・農地・草地における2000〜2005年の炭素吸収量の分布

コンピュータモデルを用いると、炭素吸収量の詳細な空間分布パターンを知ることができるようになるのは大きな利点です。また森林モデルを用いることのもう一つの重要な利点は、気候モデルに基づく将来の温暖化シナリオを使うことで、炭素吸収量の将来変化を予測することが可能になる点です。このようなモデル手法は、今後の気候変動研究でますます重要であり、モデルの信頼性を高めるため観測分野と協力して研究が進められています。

注1
ココが知りたい温暖化「森林の減少と二酸化炭素吸収量」もご参照ください。
注2
バイオマスとはある面積に存在する生物(植物や動物を含む)の総量をいう。
注3
施肥効果とは植物の成長を制限している資源(栄養塩やCO2)が多く与えられることで成長が促進される効果のこと。植物に肥料を与えるのと同様な効果であることから。
注4
ココが知りたい温暖化「温室効果ガスの衛星観測データの利用例」もご参照ください。

さらにくわしく知りたい人のために

  • 吸収源対策研究会編 (2003) 温暖化対策交渉と森林. 全国林業改良普及協会.
  • Jクレジット制度 https://japancredit.go.jp/
  • Jクレジット制度 方法論 https://japancredit.go.jp/about/methodology/
    (方法論NO, FO-001, FO-002, FO-003 が森林に関するもので、内容については適宜更新されています。)

1 第3版 髙橋 善幸(地球システム領域 陸域モニタリング推進室長)
2 第1-2版 伊藤 昭彦(出版時 地球環境研究センター 温暖化リスク評価研究室 研究員 /現在 物質循環モデリング・解析研究室 主席研究員)