2013年5月号 [Vol.24 No.2] 通巻第270号 201305_270002

持続と変化

地球環境研究センター 副センター長 三枝信子

photo. 三枝副センター長

地球規模の環境変化を理解し予測するための研究は、過去20年余りの間に大きな変化を遂げました。1987年に、国際科学会議(International Council for Science: ICSU)の提唱により地球圏—生物圏国際協同研究計画(International Geosphere-Biosphere Programme: IGBP)が始まり、地球というシステムを制御する物理・化学・生物プロセスを解明し、将来予測を可能にするための数多くの国際共同研究が進展しました。1988年には気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC)が設立され、人為起源による地球の気候変化とその影響、それに対する適応・緩和策について科学的、技術的、社会経済学的な見地からの包括的な評価を行う取り組みが始まりました。

そして今、これまで地球環境分野をリードしてきた四つの大きな国際研究計画[注]を統合し、10年の新しいイニシアティブ「Future Earth: Research for global sustainability(未来の地球:地球規模の持続可能性についての研究)」を開始する準備が進められています。Future Earthのめざす方向とその特徴は、地球環境の持続可能性を向上するための研究を自然科学と社会科学の全面的な統合に基づいて行うこと、先進国中心の科学の発展だけではなく、地球規模での人材養成や地域の問題解決を重視すること、そのために、研究者のみならず政策担当者や利害関係者が研究立案に参加することなどです。

新しい方向に歩みだそうとする時、私たちは、この先に何が待っているのか、これまでに蓄積してきたものが失われるのではないかと不安になるものです。しかし、そうした時はふと立ち止まり、過去に歩んできた道を振り返れば、国内外の先輩たちや私たち自身がこれまでにも変化を恐れず新しい研究に挑戦し続けてきたこと、現実の問題を解決するために考え方や価値観の異なる人たちと意思疎通をはかり、解決策を見出してきたことなどを思い出すことができるでしょう。

ただし意味のある変化は常に困難を伴うもので、それに対応するための工夫は必要になるでしょう。例えば地球環境モニタリングのように50年100年と継続してはじめて真価が表れるような研究については、イニシアティブが変わろうと社会が変わろうと、変えてはいけない根幹部分を残し、変えることのできる部分を自ら変え、新たなニーズに常に対応し続ける工夫が必要でしょう。また、自然科学と社会科学の全面的な連携をめざすとき、最初は互いの価値観の違いに困惑し、ブレーキを踏まれるような違和感に悩まされるかもしれません。しかしその感覚を一人ひとりがしっかりと体験してはじめて、相手の必要とする研究を自分の技術や知見を駆使して行うといった、個人の中での分野間連携が成立し、それがコミュニティとしての連携の基礎になるように思います。

目の前にある変化の、その先にあるものを一緒に追求しましょう。

脚注

  • 四つの国際研究計画
    • 地球圏—生物圏国際協同研究計画(International Geosphere-Biosphere Programme: IGBP)
    • 地球環境変化の人間社会側面に関する国際研究計画(International Human Dimension Programme on Global Environmental Change: IHDP)
    • 生物多様性科学国際協同計画(International Programme on Biodiversity Science: DIVERSITAS)
    • 世界気候研究計画(World Climate Research Programme: WCRP)

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