2013年5月号 [Vol.24 No.2] 通巻第270号 201305_270003

第6回GEOSSアジア太平洋シンポジウム参加報告 —アジア太平洋地域における地球観測、さらなる連携を目指して—

  • 地球環境研究センター 陸域モニタリング推進室 高度技能専門員 田中佐和子
  • 地球環境研究センター 副センター長 三枝信子

1. はじめに

全球地球観測システム(Global Earth Observation System of Systems: GEOSS)とは、複数の観測システム(人工衛星や地上観測など多様な観測システム)を連携した包括的な地球観測システムのことで、地球観測のデータや情報を活用した意志決定支援ツールを幅広いユーザーに提供することを目指している。GEOSS構築のための取り組みを調整する各国政府および国際機関のボランタリーなパートナーシップの組織として、地球観測に関する政府間会合(Group on Earth Observations: GEO)がある。三回の地球観測サミットの開催を経てGEOSS10年実施計画(2005〜2015年のGEOSSに関しての意図、実施方針、および制度を規定するもの)が承認され、2005年にGEOは設立された。GEOへは2013年2月時点で、89か国と欧州委員会および67の国際機関が参加している。2007年以降、アジア太平洋(Asia Pacific: AP)地域でのGEOSS推進に向けた意見交換のために、GEOSS APシンポジウムが第1回は2007年1月(地球環境研究センターニュース2007年4月号参照)、第2回は2008年4月(同2008年7月号参照)、第3回は2009年2月(同2009年4月号参照)、第4回は2010年3月(同2010年6月号参照)、第5回は2012年4月(同2012年5月号参照)に開催された。

2. 全体の概要

第6回GEOSS APシンポジウムは、2013年2月25日〜27日の3日間、インドのアフマダーバードにて、GEO事務局、インド宇宙研究機関(Indian Space Research Organization: ISRO)および日本政府の主催で開催された。今年のテーマは「地球観測システムのためのアジア太平洋地域連携強化」で、19か国から約200名が参加し、全体会合、分科会、パネルディスカッションが行われた。

1日目の全体会合では、まず、ホストISROのRadhakrishnan氏の基調講演、Ryan事務局長によるGEOの活動が報告された。引き続いてのデータシェアリングのセッションでは、インド、バングラデシュ、日本、国際総合山岳開発センター(International Centre for Integrated Mountain Development: ICIMOD)の観測データの公開について、これまでの経緯、現状と今後の進め方について紹介があった。2日目は、五つの分科会「アジア水循環イニシアチブ(Asian Water Cycle Initiative: AWCI)」「農業と食料安全保障(Agriculture and Food Security)」「森林炭素観測(Forest Carbon Tracking: FCT)」「アジア太平洋生物多様性観測網(Asia-Pacific Biodiversity Observation Network: AP-BON)」「海洋観測と社会(Ocean Observation and Society)」に分かれての議論が行われた。筆者はFCT分科会に参加したので、次に紹介する。3日目は、各分科会での議論の結果報告と、各分科会の今後の連携の進め方についてパネルディスカッションが行われた。

photo. 全体会

会議の初日に行われた全体会の様子

3. FCT分科会

はじめに、共同議長である宇宙航空研究開発機構(Japan Aerospace Exploration Agency: JAXA)の落合氏により、FCTと全球森林観測イニシアチブ(Global Forest Observation Initiative: GFOI)、地球観測衛星委員会(Committee on Earth Observation Satellites: CEOS)についての概要と現状説明があった。次に、森林総合研究所の平田氏が、森林総研REDD(Reduced Emissions from Deforestation and forest Degradation: 途上国における森林減少・劣化からの排出の削減)研究開発センターにおける取り組みとして、REDD+(REDDに森林管理・保全を含めて排出削減を実現するという考え方)のための衛星データと地上調査に基づく森林炭素量の推定、および主要な知識や技術をまとめた技術解説書出版などの活動を紹介した。国立環境研究所の三枝からは、アジアにおける長期地上観測ネットワーク、そこで収集される観測データと衛星データやモデルを統合した広域炭素収支評価手法の研究、そしてこのような研究を前進させるために必要な分野間連携の取り組みについて報告があった。ISROのDadhwal氏からは、インドの国家炭素プロジェクト(National Carbon Project)として、衛星データによる国の地上バイオマスの把握、土壌の炭素貯留量調査、複数地点でのフラックス観測タワーのデータとモデルや衛星データを利用したインド全土の炭素収支評価の取り組みなどが紹介され、インドにおけるFCT活動の最近の急速な発展を印象付けた。

各国のFCTへの取り組みの紹介はさらに続き、インドネシア航空宇宙研究所(Lembaga Penerbangan dan Antariksa Nasional: LAPAN)のRoswintiarti氏からは、国家炭素評価システム(Indonesia’s National Carbon Accounting System: INCAS)として衛星データを利用した土地被覆変化のモニタリングの進捗状況が報告された。また、ネパール森林資源評価(Forest Resource Assessment, Nepal)のDhakal氏から、衛星データを利用して地上バイオマスを森林の種類ごとに推定し、地上データとの比較を行った結果が報告され、結果の問題点を解決するために地理的に近いインド側から前向きに技術協力するという提案が示された。

最後に、今後のFCTの課題について話し合われた。REDD+への取り組みに関しては数々の技術的課題の解決について議論が行われ、地球観測衛星に搭載されている各種センサーと地上観測を組み合わせてデータの空白域をできる限り埋めること、衛星データと地上データの質を保証するガイドラインの作成を進めること、生物多様性や水循環分野との連携により重点的に観測を行う地点(地域)を設けること、情報共有とキャパシティービルディングのためのポータルサイトを整備すること、アジア太平洋域の他の国の参加も促していくことなど活発な意見が出た。

photo. FCT分科会

会議二日目、アジア太平洋地域の森林関係担当者が集まったFCT分科会の様子

4. おわりに

最終日に行われた各分科会の連携についてのパネルディスカッションでは、まず、各分科会がどのようにお互い関連しているか紹介され、今後連携を促進していくため、データの需要と供給について具体例を挙げて議論が進められ、大変ではあるけれども、さらに分科会間での連携・データ共有を進めていきましょうということで会議が締めくくられた。

インドより

田中佐和子

インドで最も有名な方の一人がモハンダス・ガンジーさん。紙幣もすべて彼の肖像画。インド愛国主義者で、イギリスからインドの非暴力独立運動を指揮しただけではなく、思想的にも影響力が強い。会議が行われたアフマダーバードは彼の活動拠点として知られている。地球環境の研究・モニタリング・保全に取り組んでいくにあたり、彼が残した名言を一つご紹介。“Earth provides enough to satisfy every man’s need, but not every man’s greed.”(地球は、すべての人の必要を充足せしめても、彼らの欲を満たしきることはできない。)

photo. ガンジーさん像

アフマダーバードのガンジー博物館内にあるガンジーさん像

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