2013年9月号 [Vol.24 No.6] 通巻第274号 201309_274003

アジア途上国の温室効果ガスインベントリ隔年報告への挑戦 「第11回アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ」(WGIA11)の報告

地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 小野貴子

1. はじめに

アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ(Workshop on Greenhouse Gas Inventories in Asia: WGIA)とは、環境省と国立環境研究所が、気候変動政策に関する日本の途上国支援活動の一つとして、アジア諸国の温室効果ガスインベントリの作成能力向上に資することを目的に2003年から毎年開催しているワークショップである。また、2008年に開催されたWGIA6から「測定・報告・検証(Measurement, Reporting and Verification: MRV)可能な温室効果ガス排出削減活動」に関する途上国の能力向上支援のためのワークショップとしても位置付けられている。参加国は、カンボジア、中国、インド、インドネシア、韓国、ラオス、マレーシア、モンゴル、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムおよび日本の14か国である。

本ワークショップの第11回目であるWGIA11は、本年7月5日から7日の3日間にわたり、茨城県つくば市において開催され、シンガポールを除く13か国から温室効果ガスインベントリに関連する政策決定者、研究者および編纂者が参加した。また、国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change: UNFCCC)事務局、気候変動に関する政府間パネル・インベントリタスクフォース・技術支援ユニット(Technical Support Unit of the IPCC Task Force on National Greenhouse Gas Inventories: IPCC/TFI/TSU)、アメリカ国際開発庁(the U.S. Agency for International Development: USAID)、豪州産業・イノベーション・気候変動・科学・研究・高等教育省(the Department of Industry, Innovation, Climate Change, Science, Research and Tertiary Education of the Australian Government: DIICSRTE)等の国際および海外関係機関、並びに日本の国内の関係機関からも多数の参加があり、総勢116名による活発な議論が行われた。

2. アジア途上国の温室効果ガスインベントリ隔年報告への挑戦

2011年にダーバンで開催されたUNFCCCの第17回締約国会議(Conference of the Parties on its seventeenth session: COP17)の下で、途上国が隔年更新報告書(Biennial Update Report: BUR)を2年に1度の頻度でCOPに提出することが義務づけられた(BURの詳細については地球環境豆知識参照)。インベントリはこのBURの一部として位置づけられているため、今まで不定期にしかインベントリを作成していなかった途上国も、今後は定期的に作成しなければならなくなった。

WGIA参加国であるアジアの途上国各国も、現在BUR隔年報告に向けての準備を始動しつつある。しかしながら、定期的なインベントリ作成の経験が今までなかった途上国においては、インベントリの定期的な作成・更新のための知見や制度が不足しているという問題がある。WGIA11においては、WGIA参加国の知見不足の状況の改善を支援するため、BURの一部としてインベントリを定期的に作成するための情報の共有に焦点を当てて議論を行った。

photo.

プレナリーセッション

3. WGIA11の概要と結果

(1) 国別報告書(NC)および隔年更新報告書(BUR)の作成の進捗

本セッションでは、ミャンマーより昨年UNFCCCに提出された第1回NCの概要が、またモンゴルおよびベトナムから第1回のBURの作成進捗状況が報告された。その報告後の議論において、今後隔年で定期的にBURを作成するためには、予算確保の他、効率的なデータ収集等を実現するための国内制度の整備が急務であることが強調された。

(2) 途上国のBUR作成に関するCOP決定および国際支援について

COP17において決定されたBUR報告のためのUNFCCCガイドライン[注]に関してUNFCCC事務局から説明があり、BUR報告の義務内容の確認後、当該義務内容について活発な意見交換があった。特に、BURにおけるインベントリは国際的な協議および分析(international consultation and analysis: ICA)の活動を通じてその算定結果が検証されることになるが、途上国がCOPへ提出していたインベントリは今まで国際的な検証を受けることがなかった。そのため参加国からはICAがどのように運営されるのかについて高い関心が寄せられた。

また、インベントリ作成のためのIPCCのソフトウェアや排出係数データベースの有用性、並びに先進国のインベントリの国際審査に途上国の専門家が参加することが途上国自身のインベントリ編纂能力向上の視点から有益である点について認識が共有された。

(3) 定期的な国家GHGインベントリ作成のための国内制度について

インベントリを隔年の頻度でCOPに提出するためには、インベントリ編纂の一連のプロセス(国内関係機関からの基礎データ収集、基礎データをもとにしたGHG排出・吸収量の算定、算定結果に対する国内関係行政機関による承認など)を定期的かつ円滑に実施することが必要であり、そのためには安定した国内組織間協力の仕組みが必要となってくる。途上国においては組織間協力の仕組みである国内制度(National System)の構築は義務ではないが、本セッションで報告した韓国、マレーシア、タイは、途上国の中でも比較的その整備が進んでいる国々であるため、参考情報を得ようとした参加者から、発表国の国内制度を構成する各組織の役割やそれぞれの組織の活動内容等に関する質問が相次いだ。結果として、WGIA参加国はそれぞれの国における国内制度構築に有益な参考情報を共有することができた。

(4) インベントリと温暖化の緩和策との関係について

BURではインベントリの情報のみならず、当該国の温暖化の緩和策についても報告しなければならない。また、インベントリは国レベルの過去の温室効果ガス排出・吸収量を包括的に把握するものであるため、国レベルの緩和策を包括的に検討するための基礎データとして重要である。本セッションでは緩和策とインベントリの関係について議論がなされ、緩和策構築におけるインベントリの基礎データとしての重要性が再認識された。また、個々のプロジェクトレベルの削減努力を国家インベントリに反映していくためにも、排出量削減・吸収量増加に効果的な緩和策を国レベルで同定するためにも、行政組織間、国・地方間、およびインベントリ編纂担当・緩和策構築担当間で協働していく必要性が強調された。

(5) さまざまなレベルにおける算定・報告・検証(MRV)を支援するためのネットワークの強化について

MRVについては、COP13で決定されたバリ行動計画にこの用語が明記されて以来、その重要性および内容について議論が進められている。当該セッションでは、MRVの定義が、国レベルのインベントリ、途上国による適切な緩和行動(Nationally Appropriate Mitigation Action: NAMA)、プロジェクトレベルのクリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism: CDM)や二国間オフセット・クレジット制度(Joint Crediting Mechanism: JCM)等、国レベルまたはプロジェクトレベルなどの文脈の違いによって異なり得ること、並びに異なるレベル間で情報を共有することが、さまざまなレベルの多様なMRV手法を構築する上で効果的であることについて認識が共有された。

(6) 相互学習

相互学習セッションは、WGIA参加国から2か国のペアを構成し、互いのインベントリの所定の分野に関して詳細に学習し意見交換を行うことによって、当該国のインベントリの改善を図ることを目的としてWGIA9から実施されている。WGIA11においては、ラオスとタイがエネルギー分野で、中国とミャンマーが農業分野で、マレーシアとベトナムが廃棄物分野でそれぞれ相互学習を行った。

本セッションにおいて、相互学習を通じて得られた知見は各国のインベントリ改善に還元される有益なものであることが再認識され、今後のWGIAにおいても相互学習を継続的に実施することが合意された。また、相互学習セッション参加国がこれら改善効果を、将来のWGIAのプレナリーセッションにおいて報告することが提案された。

photo.

相互学習(エネルギー分野)

4. おわりに

本会合の議論を通じて、BURおよびその一部であるインベントリを隔年で作成・報告するための制度を構築する上で有益な参考情報を、WGIA参加国と共有することができた。また、インベントリは途上国のNAMAを国全体の状況を鑑みて計画し、かつ実施状況の結果を国レベルで検証する際に、その計画および検証の基盤となるデータを提供するという重要な役割を果たすことが、本会合の議論を通じて再確認された。そして、その計画および検証をより効果的にするために、行政組織間、国・地方間、およびインベントリ編纂担当・緩和策構築担当間で協働していく必要性が強調された。

結果として、本会合を通じてWGIA参加国間のネットワークのさらなる強化が図られた。会合三日目の午後にまとめと総括が行われ、WGIA活動を今後も継続することが確認された。WGIA11の詳細は、http://www-gio.nies.go.jp/wgia/wgiaindex-j.htmlで公開される予定である。

脚注

  • UNFCCC biennial update reporting guidelines for Parties not included in Annex I to the Convention (Annex III of Decision 2/CP.17 [FCCC/CP/2011/9/Add.1]).

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP