2014年8月号 [Vol.25 No.5] 通巻第285号 201408_285005

地球環境モニタリングステーション落石岬20周年 2 思い出 2:地球という「バトン」を渡す—落石岬ステーションでのサイエンスキャンプ—

  • 法政大学人間環境学部 教授 高田雅之
    1999年5月〜2002年3月まで地球環境研究センター勤務

国立環境研究所では、1994年、北海道根室市落石岬に地球環境モニタリングステーションを設置し、温室効果ガスなどのモニタリングを長期間継続的に実施しています。今年、ステーションの竣工から20年を迎えました。

早いもので地球環境研究センター(以下、CGER)でお世話になった日々から12年以上も経ちました。地球環境モニタリングステーション落石岬(以下、落石岬ステーション)竣工20周年と聞き、真の長期観測としての役割を全うし続けていることへの関係者のご尽力に改めて心から敬意を表します。私が微力ながら関わった落石岬ステーションについて、サイエンスキャンプのことを振り返ってみます。

サイエンスキャンプは1995年から当時の科学技術庁と財団法人科学技術振興財団が、高校生に科学技術に触れる機会を提供する取り組みとして始められたものです。国立環境研究所は1999年の第5回からこのプログラムに参加し、CGERが実施することになり、私は光栄にも初回から3回目までを担当しました。手探りのスタートは参加者以上にドキドキでした。

落石岬ステーションでのサイエンスキャンプは、研究所を離れてフィールドに出る異色のスタイルで、他の受入機関にはないCGERらしいものでした。募集要項に書いている集合場所は釧路空港、宿泊先も他の受入機関はホテルとなっているのに、CGERでは「民宿」で情緒豊かです。全国から応募のあったなかから6名の高校生を書類選抜することから始めます。そしてカリキュラムの検討と段取りです。目に見えない二酸化炭素をどう実感してもらうか、当時の藤沼研究管理官と頭を悩ませます。手作業でグラフを描き、標準ガス濃度から機器で実測された温室効果ガス濃度を求める、ステーション周辺の野草の葉を採取し、アルミホイルで包んだものと包まないものとで、光合成と呼吸による重さの変化を比較する、浸潤液を使って気孔開度を計測する、植物遺体が未分解で堆積している泥炭地(湿原)を訪ねてそこに大量の炭素が眠っていることを実感する、などなどステーションの施設のみならず周辺の自然も生かしたカリキュラムを展開しました。民宿でサケのチャンチャン焼きやカニを食べた後の座学も欠かせません。当時の野尻総合研究官による地球温暖化の話は圧巻でした。屋内と屋外、頭と手足の両方を使うことは、環境問題を実感する上で効果的だったのではと思います。

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写真1観測システムに関する説明を聞く

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写真2手作業でグラフを描き、標準ガス濃度から機器で実測された温室効果ガス濃度を求める

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写真3植物の光合成能力を調査する

しかしひょっとして、学習以上に高校生たちに強い印象を与えたのは番外カリキュラムだったのかもしれません。早朝の日の出鑑賞や満天の天の川観察は、地球の営みを実感してもらう本テーマにふさわしい?ものだったと自ら納得しています。木道を歩いて落石岬湿原の植物や霧の多いところに見られる地衣類のサルオガセを観察し、落石岬灯台、納沙布岬、釧路湿原、別寒辺牛(べかんべうし)湿原、霧多布湿原も立ち寄りましたし、エゾシカやタンチョウとの出会いも毎回ありました。美しい自然を実感することで環境を守ることの大切さを知ることもこの番外カリキュラムの役割?だと思っています。

個人的な圧巻はサプライズ誕生会の裏企画です。キャンプの最中に誕生日を迎える学生がいることを偶然発見した私は、地球・人間環境フォーラムの織田さんと密かに企み、一所懸命ケーキ屋を探して調達しました。そして、夜の座学後に、私が本人をつなぎとめて時間を稼ぎ、その間に織田さんが残りの学生とサプライズ誕生会の準備をするという段取りは見事に成功しました。言葉巧みに一時学生を引き留める技は、大学生相手に現職場でも健在で、これはこの時に培われたものと確信しています。これらの番外カリキュラムは決して余興ではなく、正カリキュラムをより効果的にするためとご理解いただければ幸いです。

さて参加した高校生たちですが、みなすっかり仲良しとなってキャンプ終了後もメールのやり取りが続いたようです。たった3日間という時間が、一生の友人を作ったのかもしれません。これも落石岬ステーションが生み出した副産物でしょうか。実は私も参加した高校生たちとのその後の交流が少しばかりありました。北海道大学を受験しにきた学生と札幌で再会したり、学会で突然声をかけられ「今信州大学です」、次に学会で声をかけられた時は「京都大学の大学院です」、という具合です。参加した皆さんの将来を期待してやみません。

参加者の感想を見ると、我々が考える以上に一生の進路や価値観を左右するほどに大きなインパクトを与えていたようです。「進路を決めた」「僕たちは『地球』というバトンを受け取ります」「地球環境は人と自然の絆」など、何とも頼もしい限りです。落石岬ステーションという場と、そこから得られた知識を次の世代に伝えることの大切さを改めて実感しました。かく言う私も、CGERでお世話になったことがきっかけで研究者に身を転じ、今日の自分があることを思えば、こういう経験の影響については、サイエンスキャンプに参加した高校生と何ら変わらないことを今更ながら気づいた次第です。

目次:2014年8月号 [Vol.25 No.5] 通巻第285号

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